産業/標準化

9.JISの実例(2)  -電池-

 電気の分野からの例をもう一つ、電池を取り上げます。電池には再充電ができない一次電池と繰り返し充電ができる二次電池があります。一次電池に関するJISにはJIS C 8500:2017「一次電池通則」、JIS C 8515:2017「一次電池個別製品仕様」があります。もっとも一般的なマンガン乾電池についてはJIS C 8501という個別規格がありましたが、8515が2007年に制定されたことにより2010年に廃止になっています。

 まずJIS C 8500:2017「一次電池通則」をみてみます。序文によるとこの規格は国際規格であるIEC60086-1"Primary batteries-Part 1 General"を基に技術的内容を変更して作成されたとされています。どこが違うかは附属書JAに対応表としてまとめられています。

 規定項目は8箇条あり、附属書は8つ付けられています。8箇条のタイトルを列挙すると 1.適用範囲、2.引用規格、3.用語及び定義、4.要求事項、5.品質特性-試験項目及び試験方法、6.品質特性-放電試験条件、7.サンプリング及び品質保証、そして最後は8.電池の包装、となっています。

 [4.要求事項]のなかに4.1.4として「電池系の分類」が表を使って示されています。13種類の電池が挙げられ、それぞれの正極、負極、電解液の各材料、公称電圧、最大開路電圧が記載されています。また4.1.6には電池製品に表示する7項目とその位置を、これも表によって示しています。

 [5.品質特性-試験項目及び試験方法]には放電試験、最小平均持続時間、開路電圧、寸法、漏液及び変形の試験方法が規定されています。[7.サンプリング及び品質保証]でのサンプリングとは抜き取り試験のことです。

 附属書のなかで規定であるものはCの形式命名法があります。外形が円形、非円形の電池についてそれぞれ電池の形式記号及び寸法の一覧表が掲載されています。その後に各電池を示す記号の規則が記載されています。円形電池の場合はつぎに示すような英字と数字を最大6項目並べるものです。

 簡単に記号を説明しておきます。素電池数は1個の電池内に複数の素電池を直列にしたものがあります。その数を数字で示します。多くは1個ですが、この場合は省略可です。電池系記号は上記の<4.1.4電池系の分類>の表に示されている英字記号ですが、2,3よく使われている例を挙げると、アルカリマンガン系がL、二酸化マンガンリチウム系がC、マンガン系乾電池は記号無し、等々です。形状記号は円形がR、その他非円形がPです。ただし非円形の場合は少し命名法の定義が異なります。直径記号はmm単位の整数、高さ記号は0.1mm単位の整数で示すことになっていますが、高さは省略可です。追加記号の例はマンガン乾電池の場合に長寿命タイプにP、標準タイプにSを付ける例があります。なければ省略します。

 具体例を画像とともに示します。写真Aは右から単1、単2、単3のアルカリマンガン乾電池です。ちょっとフォーカスが甘いので見づらいですが、アルカリ乾電池と書いたそばに単1形ではLR20、単2形ではLR14、単3形ではLR6と書かれているのがわかるかと思います。最初のLがアルカリマンガン系、つぎのRが円形、最後の数字が円(円柱)の直径(mm)を示しているのは上記の通りです。

 写真Bはいわゆるコイン電池とボタン電池の例です。左側はCR2025、Lithium Cellと刻印されていますが、Cは二酸化マンガンリチウム系を示します。後4桁の数字のうち、左2桁はmm単位の直径で20mm、右2桁は0.1mm単位の厚み2.5mmを示しています。この電池は1個で3Vの起電力をもっています。右側のボタン電池にはLR44と刻印があります。これはアルカリマンガン系であることがわかります。この電池の直径は10mmなので、数字の44は直径ではなく、厚み(高さ)4.4mmを示しています。電池は正負の電極への電気的接触が必要ですから、コイン電池やボタン電池では電極間距離に相当する厚みが正確に示されていることが重要です。

 また附属書Gには包装、出荷、貯蔵、使用及び廃棄の方法の規定があります。

 一方、JIS C 8515:2017「一次電池個別製品仕様」はどのような規格でしょうか。序文によるとこちらはIEC 60068-2の方を基に技術内容を変更して制定されています。変更内容は附属書JAに記されています。

 こちらは9箇条と4つの附属書とからなっています。9箇条のタイトルを列挙すると 1.適用範囲、2.引用規格、3.用語及び定義、4.寸法記号、5.電池の区分、6.形状による電池区分の電気的仕様及び寸法、7.品質、8.試験・検査、9.表示、となっています。

 6箇条に各種一次電池の形状の図面と寸法の規定が表によって示されています。もっとも一般的なマンガン電池あるいはアルカリマンガン電池は日本では単1型、単2型などと呼ばれていますが、規格ではこの呼称は通称として扱われ、規格での呼称はJIS C 8500で規定された上記の形式命名法に従って示されています。

 図9-1はよく知られた円柱形のマンガン電池,図9-2はいわゆるコイン電池やボタン電池などと呼ばれる円盤状の電池の形状、寸法の規定方法を概略示したものです。円盤状電池のh1は総高、h2は接触端子間の最小距離と定義され、その差は0.1mm以下と規定されています。図のh1/h2は分数の意味ではなく、「h1、h2のいずれか」という意味です。

 上の例に沿ってLR14(単2形アルカリマンガン乾電池)の寸法例の一部を示すと、h1=50.5以下、h3=1.0以上、d1=13.7~14.5、d3=5.5以下(単位mm)などと規定されています。またCR2025(二酸化マンガンリチウム電池)ではh1/h2=2.2~2.5(ここでh1/h2は割り算を示しているのではなく、いずれかの記号を用いることを示しています)、d1=19.7~20.0、d4=8.0となっています。

 二次電池についてもいくつかの規格があります。例えば、JIS C 8711:2019「ポータブル機器用リチウム二次電池」があります。これも国際規格IEC 61960-3を基に一部を変更して作成されています。附属書JA参照。

 この規格は8箇条と附属書3つからなっていますが、箇条を列挙すると、1.適用範囲、2.引用規格、3.用語及び定義、4.パラメータの測定許容差、5.呼び方及び表示、6.単電池の例、7.電気的試験及び要求特性、8.形式検査の試験順序及び条件、となっています。

 [3.用語及び定義]には8つの項目があり、3.6はリチウム二次複電池で、「単数または複数のリチウム二次単電池(3.7)からなる、すぐ使用できる状態の電池」との定義が記されています。3.8はリチウムイオンポリマー単電池で、「液体電解質を使用していない電池」と規定されています。

 [7.電気的試験及び要求特性]には8つの項目があり、7.1には単電池と複電池についてそれぞれ試験に試料数と順序がフローチャートで示されています。7.3は放電性能試験、7.4は充電(容量)の保持率及び回復率、7.5は長期保存後の回復率、7.6はサイクル寿命、7.7は組電池の内部抵抗、7.8は静電気放電(ESD)となっています。

 二次電池については現状では一次電池ほど標準化が進んでいないように見えます。携帯機器に使われるような小型の二次電池は機器に内蔵されることも多く、この場合は電池自体の寸法の規格は一般の利用者にはそれほど重要ではありませんが、充電の際の充電器との接続用コネクタなどがメーカーによって異なるのは好ましくないので、次第に標準化が進むかと思われます。

 電池、とくに一次電池は通常、電池で動作する器具、機器に取り付けて使用し、交換もするため、型番によって寸法と起電力が最低限わかるようにすることが非常に重要です。その意味で電池の標準化は製品の呼称の付け方を規定するのが大きな目的と言えます。