産業/標準化
10.JISの実例(3)-ねじ-
つぎは機械分野の例を見ます。ねじは広い範囲の部材の固定に使われるため、標準化が重要です。もっとも木ねじやタップねじといわれるものは相手方がねじでないのであまり問題がないですが、ボルトとナットのように雄ねじと雌ねじが噛み合う(「羅合」という言葉があります)場合は規格が定まっていないとどれとどれが噛み合うかわからなくなり、困ったことになります。
ねじは西欧では古くから使われていましたが、国によって規格が異なっていました。ねじの規格で重要なのはピッチです。ピッチとはねじの螺旋状のぎざぎざの山と山の間隔のことで、これが定まっていないとうまく噛み合わないことになります。このピッチがアメリカやイギリスではインチ単位、フランスやドイツなど大陸ヨーロッパではメートル単位が使われていました。日本でねじが製造されるようになったのは明治時代になってからですが、アメリカにならってインチ系のねじが使われていました。
第二次世界大戦後に機械装置が国境を跨いで輸出入されるようになって、ISOがメートルねじを採用して世界標準を作りました。アメリカではいまでもインチねじが使われていますが、日本では世界標準に合わせてインチからメートルへ変更しました。このため一時ISOねじとインチねじが混在し、いざ締める段階になって合わないということがよく起こりました。このとき役立ったのが、写真Aに示すマークです。写真Aはボルトの頭部ですが、プラス溝の脇に小さなくぼみ(ポッチ)が設けられています。このポッチがISOねじを示すマークです。現在は統一が進んでほとんど問題にならなくなり、マークのないISOねじもあるようです。
さてねじのJISはJIS B 0205「一般用メートルねじ」で枝番が1~4まで4つあります。この枝番は「部」と呼ばれますが、第1部は「基準山形」、第2部は「全体系」、第3部は「ねじ部品用に選択したサイズ」、第4部は「基準寸法」となっています。まず第1部のJIS B 0205-1 を見てみましょう。
わずか4ページのコンパクトな規格です。1ページ目は「まえがき」で簡単な制定経緯のあと、ISO 681が基礎として用いられたことが記され、これには第1部から第4部まであることが記されています。
2ページ目からが本文です。改めて規格の番号は、JIS B 0205-1:2001です。またかっこ書きでISO68-1:1998と対応する国際規格の番号が併記されています。規格のタイトルは「一般用メートルねじ-第1部:基準山形」でこれもかっこ書きの英文で"ISO general purpose metric screw threads-Part 1:Basic profile"と書かれています。
その下の序文にはこのJISが上記のISO規格を翻訳し、技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した、とあり、このJISは翻訳JISであることが示されています。
本文は[1.適用範囲]、[2.引用規格と続き]、[3.定義]で、基準山形の定義が図を使って示されています。写真Bは典型的なボルトの外観ですが、このギザギザ面の一部をねじを軸線を含む面で切り、軸線の片側半分を約1ピッチ半の長さだけ示したのが図10-1です。Pがピッチ、Dがねじの半径、Hがねじ山の深さを示しています。ねじ山の頂角は60°に固定されています。このため、ピッチPとねじ山の深さHは図中の式で表される関係になり、ピッチが決まれば、形状全体が決まることになります。[4.寸法]では各部の寸法の数値例が表を使って示されています。ピッチの数値は0.2mmから8mmまで0.05mmから2mmの間隔で示されています。
第2部(JIS B 0205-2)は「全体系」で、ここでは呼び径、すなわちボルトの直径とピッチの関係が規定されています。径が大きくなればピッチも大きくなる関係です。
第3部(JIS B 0205-3)は「ねじ部品用に選択したサイズ」で、第2部のうち、ねじ部品用に一部を選んで規定したものです。第4部(JIS B 0205-4)は「基準寸法」で、これはおねじの寸法に対してめねじの寸法を規定しています。
JIS B 0205ではねじの寸法を規定していますが、ねじは製造物ですから寸法には必ず誤差があります。それをどこまで許すか、すなわち公差をどうするかも規定することは重要です。これを規定したのがJIS B 0209「一般用メートルねじ-公差-」で、これも翻訳JISです。枝番が1~5まであり、第1部が「原則及び基礎データ」となっています。第2部以下は細かくなるので省略します。
インチねじの規格も残っています。実際にまだ使われていることもあるので、廃止することはできません。JIS B 0206:1973「ユニファイ並目ねじ」がそれです。ユニファイねじというのはアメリカで使用されているインチねじのことです。これはISO 263と一致すると書かれていますが、翻訳ではなく、改訂もされずに残っているだけといった感じです。