産業/標準化

8.JISの実例(1)-コンセントと差込プラグ-

 ここからは、いくつかのJISの実例をみていきます。とはいえ前項で説明したように著作権の問題があるので、全文をここに掲載することはできません。目次のレベルでどんなことが記されているかを規格ごとにみていき、とくにそれぞれの場合での標準化の目的がどのように違うかに注目します。

 最初は日本中のどこの住宅にも同じものが取り付けられているコンセント(写真A)とそれと結合する差込プラグ(写真B)についてみます。コンセントはもちろん交流100ボルトの電源の取出口として利用されます。一方、電源を利用する器具の側には差込プラグのついたコードが必ず用意されています。

 コンセントは標準化されていてどれも同じ受け口をもっています。プラグもこの受け口に挿入できるように同じ形の「刃」をもっています。これによって私たち一般の利用者は電気器具を使うとき、どこから電源をとるか、またコンセントにプラグが差し込めるか、などを心配することなく、電気が利用できるわけです。

 ところが海を渡って海外に行くとそうはいきません。住宅には日本のコンセントとは違う形のコンセントが取り付けられており、日本の電気器具を持って行っても電源をとることができません。写真Cはヨーロッパで使われているプラグですが、金属部分は「刃」ではなく、「丸棒」という感じで、もちろん日本のコンセントには差し込めません。そもそも外国では電源電圧が国によって異なります。ヨーロッパは大体日本より高く、200V以上です。これは各国がどのような歴史を経て電気を供給するようになったかがそれぞれ違うので、供給される電気の電圧も異なり、一旦決まってしまうとこれを変えて他国に合わせることはほとんど不可能になります。つまり電源電圧自体について国際的に標準化を図れればそれに越したことはないのですが、それは事実上できないことになります。そうなればコンセントだけ国際標準にすると、誤って器具の定格でない電源につないでしまう恐れが出てくるので、これはかえって不都合なことになります。

 さてJISのコンセントの規格はJIS C 8303です。これをJISCのホームページで検索してみます。全部で60ページの規格文書が見つかるはずです。

 内容をみると、まずはじめに「目次」があり、これをみると規格本文は1~10の10箇条とA、B2つの附属書からなっていることがわかります。

 つぎのページに「まえがき」があります。この「まえがき」にはこのJISの制定の経緯が簡単に記されています。つまり、どういう団体がどの省庁の主務大臣に申し出を行い、だれが審議して制定されたか、などです。またその後に決まり文句のように特許権に抵触するようなことが発生しても責任は負わないという断り書きがあります。

 次の頁から規格本文が始まり、一番上に規格の標題、ここでは「配線用差込接続器」とJISの番号「JIS C 8303:2007」が記されています。

 つぎに「序文」があります。ここには改訂の経緯が書かれています。この規格の場合は1993年版がこの2007年版に改訂になった旨が記されています。ただし記されるのは直近の改訂年だけで、最初の制定年にまで遡って記されることはありません。また国際規格との関係もここに記されますが、この規格はあくまで国内のみの規格ですから、対応する国際規格はありません。

 つぎに本文が始まります。1から10まで番号が付いた項目に分けて規格文書が書かれています。多くの規格も数は異なりますが、このようなスタイルになっています。この項目のことを「箇条」と呼んでいるようです。この規格は1~10箇条まであるということになります。各箇条を簡単に紹介します。

1.適用範囲   50または60Hzの交流250V以下に適用されることが記されています。

2.引用規格   ねじやケーブルなどこの規格内で引用される他の規格の番号が記されています。

3.用語及び定義   プラグ、コンセントなどをはじめとするこの規格で使用されている用語22語の定義が記されています。

4.種類、極数、極配置及び定格   ここから規格の中心部分になります。かなり大きな表が掲載され、コンセントとプラグの種類が図を含めて記されています。プラグの金属部分を「刃」、コンセントの孔を「刃受」と称してその形が図示されています。もっとも普通な写真Aのタイプは1番目に記載されています。上に「どこの住宅にも同じものが取り付けられている」と書きましたが、意外に種類が多いのに驚かされます。確かにどこかで見た覚えが、というものもありますが、こんな形は見たことがないといったものもあります。極数には2極と3極があり、3極とは接地極が有るものを指します。なお、ここには寸法の規定はなく、それは附属書に記されています。参考までに「蛇足」として変わり種を掲載しておきます(写真D参照)。

5.性能  19の項目があり、コンセントの保持力(抜けにくさ)、温度上昇、接触抵抗など必要とされる性能が記されています。

6.構造、寸法及び材料  12の項目があり、端子や絶縁体の構造や材料が記されています。

7.試験方法  22の特性試験の方法が記されています。いずれも他の規格に規定された試験方法を引用する形になっています。

8.検査  製品の形式検査と受渡検査の項目が規定されています。

9.製品の呼び方  例示のみの記載です。

10.表示  製品に付ける表示の仕方と項目についての規定です。

 つぎに「附属書」と呼ばれる文書がA,B2つあります。附属書には「規定」と「参考」の2種類があります。「規定」は規格の規定に含まれるという意味で、「参考」は参考資料で規格を左右するものではないという意味です。ここでは2つとも「規定」です。

 附属書A(規定)は「差込接続器の標準寸法」で、4箇条の表に示されたすべての形状のプラグの刃の幅や間隔、コンセントの刃受の幅や間隔が誤差を含めて規定されています。これがこの規格の肝となると思われます。掲載されている図のうち、写真A、Bのもっとも一般的なコンセントとプラグについての寸法図の概要を図8-1に示します。なお、この図の縮尺は正確でなく、また原図を一部改変しています。

 日常的に目にするコンセントですが、刃受の長さが非対称で一方が長いことにもあまり気付いていないのではないでしょうか。長い方の極は接地極であることを示しています。器具の側でこの接地極を意識する必要のあるものはほとんどないので、一般の利用者が知らなくても仕方がないかも知れません。

 附属書B(規定)は「巻締ねじ端子のねじの寸法」というもので、やや特殊なので省略します。

 以上がJIS C 8303:2007の内容です。上にも書いたようにこの規格は国内のみの規格です。

 プラグとコンセントは各国で仕様が異なりますから、国際規格はないように思われますが、実はIECの規格が存在します。しかもこの国際規格は翻訳されてJISのひとつになっています。これがJIS C 8282「家庭用プラグ、コンセント及びカプラ」です。また8285には「工業用・・・」の規格もあります。

 JIS C 8282の内容を簡単に見ておきます。この8282は枝番があって、JIS C 8282-1:2019が第1部「一般要求事項」で、JIS C 8282-2の第2部は「個別要求事項」です。この個別要求事項はさらに6つの枝番(-1,-2,-3,-5,-6,-11)があって6種類の個別の要求事項が規定されています。番号が飛んでいるのは日本国内には適用されないものが省かれているためです。なお、枝番の-1、-2・・・の付いた規格は「第1部」、「第2部」・・・と呼ばれます。  ここではJIC C 8282-1:2019「一般要求事項」の内容を概観します。

 最初の目次によると、全部で30箇条と6つの附属書と参考文献からなり、全141ページもある長大な規格であることが分かります。

 目次のつぎに「まえがき」があり、最新版は2019年版であることと、上記の枝番があることが記されています。

 本文の第1ページにはJIS C 8282-1:2019の標題が「家庭用及びこれに類する用途のプラグ及びコンセント-第1部:一般要求事項」であることが示されています。さらに序文にはこの規格はIEC-60884-1(2002)とAmendment 1(2006)及びAmendment 2(2013)を基に作成した規格であるが、我が国の配電事情などを考慮して技術的内容を変更した旨記されており、単純な翻訳ではないと断っています。変更の内容は附属書JAに記載されています。なお、"Amendment"とは補足文書のことで「追補」などと呼ばれます。規格本文の改訂でなく、追補を加える改訂が行われることが、とくに国際規格ではよくあるようです。IEC規格の標題は Plugs and socket-outlets for household and similar purposes - Part1: General requirements となっています。

 規定の内容を項番順に追いかけるのは省略します。各国の事情が異なるので、国際規格としては共通な事項を規定し、電気的な適用範囲や機械的形状は広い範囲をカバーするように規定されています。

 6の「定格」にはタイプ(極数)と電圧、電流の表が掲載され、タイプとしては2極4種、3極2種、定格電圧としては130、250及び440Vの3種が規定されています。日本やアメリカなどは130と250V、ヨーロッパでは250と440Vが使用されていると大雑把には分類されます。日本では家庭用として100Vと200Vの2種類が使われ、400Vという高圧は使用されていません。

 JIS C 8303の方は上記のように、5.性能、6.構造、寸法及び材料、7.試験方法という項目があって、その下にそれぞれ20前後の小項目で具体的内容が整理されていました。これに対して、JIS C 8282-1の方はこのような階層による分類がなく、いろいろな内容が順不動に並んでいる感じがします。

 12箇条には定格電流を6段階に分け、それぞれの場合について銅導体の公称断面積の範囲を規定する表が示されています。

 例えば、12.端子及び終端、13.固定形コンセントの構造、14.プラグ及び可搬形コンセントの構造、15.インターロックされたコンセント、などは「構造」に属すると思われ、図も添付されていますが、必要な性能、試験方法も適宜記されています。

 16 耐劣化性,外郭による保護及び耐湿性、17 絶縁抵抗及び耐電圧、18 接地極の動作 19 温度上昇、20 遮断容量、22 プラグを引き抜くために必要な力、24 機械的強度、 25 耐熱性、などは「性能」に関する規定ですが、それを確認する試験方法も併せて記されています。

 また「10 感電に対する保護」など、JIS C 8303にはない項目もありますが、これらにも保護に必要な構造やそれを確認する試験方法などが書かれています。

 具体的形状や寸法は国ごとに異なるので国際的に規定することはできません。コンセントとプラグは電源供給にとって基本的な部品ですから、国際的には安全、確実に使用できる構造など共通に必要とされる事項についての基準を定めることを目的としたものと思われます

蛇足  写真Aとは異なるタイプのコンセントの例を挙げます。写真Dは普通の住宅でエアコン用として取り付けられていたコンセントです。上記表の15番目に載っています。これはまず3極タイプである点が写真Aとは異なります。また刃受けの形状も異なります。一方がT字を横に寝かしたような形になっています。実は日本の家庭用には100Vだけでなく200Vも供給されていて、電力消費の大きい大型の空調機や床暖房などに使われています。この200V用のコンセントは通常、刃受けが平行でなく直角になっているものが多く使われています。写真Dのタイプのコンセントには片側の刃がT字形になったプラグを使うのではなく、100V用の平行な刃かまたは200V用の直角な刃のいずれかを、場合によって使い分けられるようにしたタイプです。取り付けるエアコンの定格電源に合わせてコンセントへの配線を200Vか100Vのいずれかにし、電圧に合ったプラグを使うことになります。間違うと危険ですが、いろいろな器具を使うコンセントではないので、機器設置後、つなぎ換えをしない前提であれば問題はないでしょう。