産業/標準化

6.デファクト標準

 前項まで述べてきた標準は国や組織によって法律や一定のルールのもとに作られ、デジュール標準(de jure standard)と呼ばれます。

 これに対してデファクト標準(de facto standard)と呼ばれるタイプの標準があります。"de facto"もラテン語で、「事実上の」という意味があります。正式なルールのもとに標準として定められたものではなく、事実上、標準的なものとして認められてしまったようなものを指します。

 デジュール標準の場合は、標準として定められるまでにいろいろな手続きを踏まなければならないため、時間を要します。しかし技術の進歩が早い現代にあっては、そのような手続きが踏まれるより早く製品が市場を席巻してしまう場合もあり、正式な標準の策定を待たずに事実上標準とみなせる状態になってしまうことがあります。これがデファクト標準です。

 典型例としてよく挙げられるのが、パーソナルコンピュータ(PC)用オペレーティングシステム(OS)である「ウィンドウズ」です(写真AはPCにWindowsキー)。マイクロソフト社が開発して世に出したものですが、インテル社のマイクロプロセッサを搭載したハードウェアと組み合わされたことで世界中のPCのかなりの部分に採用され、そのPC上で動作するソフトウェア(アプリケ-ション)や周辺機器もこれに合わせて作られるようになっています。しかしデジュール標準としての国際規格はなく、PC用の事実上の標準OSと言える状態になっています。

 PC周辺のハードウェアにもデファクト標準と言えるものがあります。PCとその周辺機器、例えばキーボード、マウス、プリンタ、外付けの記憶メディアなどはPC本体にケーブルで接続されますが、従来はそれぞれ異なる仕様のケーブルとそれに付いているコネクタで接続されていました。

 例えばキーボードやマウスはPS/2と呼ばれる丸形の6ピンのコネクタ、プリンタなどの周辺機器とのシリアル通信用にはRS232という規格(アメリカの電子工業会(EIA)の団体規格)があり、これ用の9ピンまたは25ピンのD-subと呼ばれるコネクタで接続されていました。また外部ドライブなどにはSCSI(Small Computer System Interface)と呼ばれるパラレル通信用の50ピンなどの大型コネクタが使われる等々でした。

 これらすべてがUSB(Universal Serial Bus)が開発されてからは同一規格のコネクタで接続することが可能になったため、ほとんどこれ一つでPCと周辺機器の接続が可能になり、広く普及しました。その後も通信速度が改善され、SCSIなども置き換えるようになりましたが、開発は複数のコンピュータメーカーの共同で行われています。国際規格などは作成されておらず、USB-Implementers Forumという団体が規格を管理しているだけの典型的なデファクト標準と言えます。

 写真BはUSBのプラグ側コネクタを示しています。形状、寸法にはいくつか種類があって、写真の右側がもっとも一般的なタイプAです。写真の左側はタイプAより小型のミニBタイプです。最大データ伝送速度は現在もっとも使われているのがUSB2.0で480 Mbpsです。2010年代後半になってUSB3.0が開発され、現在3.2まで改良されていますが、これは最大20Gbpsにまで達しています。写真Cの右2つはコネクタ内部の色が違いますが、この色が白または黒がUSB2.0、青がUSB3.0以降を示す決まりになっています。

 写真Dはレセプタクル側のコネクタの例です。写真DはノートPCに設けられたUSB3.0のタイプAコネクタ、写真Eは小型周辺機器のカードリーダに設けられたミニBコネクタです。

 また少し古い例ですが、ビデオテープのVHS方式もよく例として挙げられます。磁気テープに動画と音声を記録する方式は現在ではCDやDVDといった光ディスク、あるいは半導体メモリに取って代わられていますが、それ以前には個人ユーザが動画データを保存する手段として広く普及していました。

 ソニー社が開発したベータマックス方式が先行しましたが、すぐに日本ビクター社のVHS方式が現れ、互換性のない2つの方式が併存し競争する状態になりました。日本の電気メーカも2つの陣営に分かれ、それぞれの方式の録画再生機などの製品を販売しましたが、最終的にVHS方式が大きな市場を獲得するに至り、ベータマックス方式は次第に市場から姿を消すことになりました。つまりVHS方式がビデオテープ方式の事実上の標準になったわけです(写真FはVHSのビデオテープ)。これ以上のビデオテープの規格の詳しい経緯はここでは立ち入りませんが、いろいろなところに書かれているので、興味ある方はそれらを参照して下さい。

 デファクト標準が何で決まるかは先行した技術とは限らず、技術的に優れているか否かとも限らず、そのときの市場での優位性が大きな要因になると思われます。