科学・基礎/半導体物理学
35.伝導帯の状態密度

 前項で、

   伝導電子の数=伝導帯の状態密度×エネルギー分布

という式から伝導電子の数が計算できることを説明しましたが、このうち、伝導帯の状態密度の計算を行ってみましょう。状態密度 \(D\) はエネルギー \(E\) の関数で、単位体積当たりのエネルギー \(E\) をもつ状態の数で定義されます。

 自由電子近似でエネルギー \(E\) は    \[E= \frac{\hbar^{2}}{2m}k^{2}\tag{1}\] と表されます。ただし波数 \(\mathbf{k}\) は3次元で考える場合にはベクトルで    \[\mathbf{k}= \left ( k_{x},k_{y},k_{z} \right )\] と表されます。各成分は連続的な値をとることはできず、    \[\begin{align}k_{x} &= \pm \frac{2\pi }{a},\pm \frac{4\pi }{a},\cdots \\ k_{y} &= \pm \frac{2\pi }{a},\pm \frac{4\pi }{a},\cdots \\ k_{z} &= \pm \frac{2\pi }{a},\pm \frac{4\pi }{a},\cdots\end{align}\] のようなとびとびの値しかとれないことは以前に説明した通りです。これを \(k_{x}\)、\(k_{y}\)、\(k_{z}\) を座標軸にとって描くと、図35-1のようになります(3次元で描くのは難しいので、\(k_{x}\)、\(k_{y}\) の2軸で示しました)。

 エネルギー \(E\) は(1)式の通り \(k^2\) に比例するので、図の球面(円周)が等エネルギー面を示します。そこでこの球面における状態の数を求めることになります。実際には微小なエネルギー幅 \(\Delta E\) をとり、このエネルギー幅のなかでは状態の数は一様と考えて \(E\) と \(E+\Delta E\) の間の状態の数 \(N\) を数えます。これは図のように \(k\) と \(k+\Delta k\) で囲まれる球殻のなかの \(k\) の点を数えることに相当します。半径 \(k\) の球の体積は    \[\frac{4\pi k^{3}}{3}= \frac{4\pi \left ( \frac{\sqrt{2mE}}{\hbar} \right )^{3}}{3}\] です。

 この場合、1辺が \(2\pi/a\) の立方体の中に1つの状態があるので、上記球のなかの状態の数は    \[\frac{4\pi \left ( \frac{\sqrt{2mE}}{\hbar} \right )^{3}}{3}/\left ( \frac{2\pi }{L} \right )^{3}\] となります。求める状態密度は、上記の \(E\) に対する球の体積と \(E+\Delta E\) に対する球の体積から引いたものですから、次式で表されることになります。    \[N\left ( E \right )\Delta E= \frac{4\pi }{3}\left \{ \left ( \frac{\sqrt{2m\left ( E+\Delta E \right )}}{\hbar} \right )^{3}-\left ( \frac{\sqrt{2mE}}{\hbar} \right )^{3} \right \}/\left (\frac{2\pi }{L}\right )^3 \]

 この式で、\(\Delta E/E\) が小さいとして    \[\sqrt{1+\frac{\Delta E}{E}}= 1+\frac{1}{2}\left ( \frac{\Delta E}{E} \right )\] いう近似公式を使い、さらに \(\Delta E\) の2乗の項は小さいとして無視すると    \[N\left ( E \right )\Delta E= \frac{L^{3}}{4\pi ^{2}}\left ( \frac{\sqrt{2m}}{\hbar} \right )^{3}\sqrt{E}\Delta E\] が得られます。したがって    \[N\left ( E \right )= \frac{L^{3}}{4\pi ^{2}}\left ( \frac{\sqrt{2m}}{\hbar} \right )^{3}\sqrt{E}\] です。状態密度 \(D\left ( E\right )\) は単位体積当たりですから    \[D\left ( E \right )= \frac{N\left ( E \right )}{L^{3}}= \frac{1}{4\pi ^{2}}\left ( \frac{\sqrt{2m}}{\hbar} \right )^{3}\sqrt{E}\] となります。ここでは立ち入りませんが、電子の量子状態にはスピンというものがあってこれは2種類あるため、スピンを考慮すると状態密度はさらに2倍になります。    \[D\left ( E \right )= \frac{1}{2\pi ^{2}}\left ( \frac{\sqrt{2m}}{\hbar} \right )^{3}\sqrt{E}\]

 この結果は(1)式という簡単な関係を使って導きました。実際には \(E\) と \(k\) の関係はもっと複雑ですが、ここで求めた状態密度は半導体のなかの電子の数を見積もるのには十分よい精度をもっており、実際によく使われています。