産業/信頼性

15.静電気破壊のモデルと試験方法

 前項ではpn接合の破壊について説明しましたが、製品としての半導体デバイスには最大定格が定められていて、その範囲内で使用する分には通常、破壊は起こりません。このため誤った使用、操作などがない限り、故障は生じないように思われます。

 しかし正しい使用をしていても何らかの予期しない原因で故障が発生することがあります。非常に短い時間でも過大な電圧、電流(サージ電圧、電流と言うことがあります)が加わると、前項で説明したような接合の破壊が容易に起こるからです。

 例えば屋外で使う発光ダイオードランプを用いた信号機などでは雷によるサージ電圧、電流に曝される恐れがあります。雷は巨大な放電ですから、直接の落雷でなくても誘導によって電源ラインなどに高電圧パルスが発生し、これが半導体デバイスに達することがあります。帯電した電荷(静電気)が放電する際にも高電圧パルスが発生します。静電気の放電(ESD)は日常的に起こるので対策が必要です。

 この静電気とは何か、なぜ高圧パルスが発生するのかについてはについては、発光ダイオードの26項で説明していますので、そちらを参照ください。そちらでは簡単にしか触れていない静電気破壊の試験方法について説明しておきます。

 試験方法の国内規格としてはJEITA ED4701/304A、人体モデル静電破壊試験方法と同305C、デバイス帯電モデル静電破壊試験方法の二つがあります。人体帯電モデルは1960年代というかなり早い時期にアメリカで採用され、後にMIL規格に定められた試験方法で、現在JEDEC JS-001-2017に規定され、上記規格はこれに準じて定められたものです。デバイス帯電モデルは1974年にこれもアメリカのAT&T社が採用したもので、JEDEC JS-002-2014に規定され、上記JEITAの規格はこれに準ずるものです。

人体帯電モデル  これは人間の体が身に着けているものとの摩擦などで帯電し、この電荷が指先から接地電位へ放電する場合に発生するパルスをモデル化したものです。この場合の試験回路は発光ダイオード26項にも掲げていますが、図15-1に示すような単純なCR回路です。高圧の直流電源から抵抗 \(R_1 \)を通してコンデンサ \(C\) に蓄えられた電荷を人体に帯電した電荷に見立て、これをスイッチを切り替えることにより抵抗 \(R_2 \)を介して放電させ、その際に生じるパルス電圧が試験試料に加えられます。直流電源の電圧 \(V\) を変えて試験試料が耐えられる電圧を調べることができます。通常、\(C=100 \mathrm{pF}\)、\(R_{2} =1500 \Omega \) 程度が人体の帯電量と放電時の抵抗に相当するとされています。直流電圧 \(V\) は500~4000Vが印加されます。

デバイス帯電モデル  このモデルは樹脂パッケージが製造や試験中の移送の際などに摩擦で帯電する場合を想定したものです。樹脂パッケージに帯電した電荷をデバイスの開放端子から放電させる試験には2種類の方法があり、一つは図15-2(a)のようにデバイスのリードピンに高圧電源を接続して帯電状態をつくり、これに金属棒を接触させて放電を行う方法です。もう一つは同図(b)に示すようにデバイスを高電位に保ち帯電させます。リードピンは開放状態で直接高電圧をかけません。その後、端子に接近させたプローブにより放電させる方法です。(a)はJEITA、(b)はJEDECが採用している方法です。

 ダイオードやトランジスタは2または3端子ですからあまり問題はありませんが、集積回路のパッケージは通常多くの端子(ピン)をもっています。試験はすべての内部回路について試験漏れがないように行う必要があります。このためどの外部端子間を試験すれば漏れがなく、かつ最小限の回数で試験を行うことができるか、内部回路に対する端子配列を参照して予め決めておく必要があります。