産業/信頼性
13.故障の物理とその解析
これまでの各項で製品とくに半導体デバイスの信頼性あるいは寿命について説明してきました。しかし半導体デバイスで故障が起きたとき、その実態として何が起きたかについては触れずにきました。
半導体デバイスで故障が起きる、言い換えればそれまで正常に動作していたデバイスが動作しなくなってしまうということは、デバイス内で何か異常な現象が起きていることを意味します。デバイスが動作しなくなってしまうような異常な現象とはどのようなものでしょうか。
この異常現象を分類したものを「故障モード」と呼ぶことがあります。半導体デバイスの場合なら、開放故障とか短絡故障など電気的異常が代表的な故障モードです。電源をつないでもまったく電流が流れないとなればそれは開放故障で、どこかで断線が起きているのでは、などとなります。短絡故障の場合は、電源を接続したとき、異常に大きな電流が流れ、ヒューズやブレーカなど保護回路が備えられている場合はこれらによって電流が遮断されます。保護回路がない場合は、回路のどこかが過熱し発火するなど深刻な事態となります。
故障モードは表立って見える現象の分類です。電気的異常以外では機械的あるいは化学的異常もあります。チップにクラック(ヒビ)や割れが発生したり、パッケージが変形したりするのが機械的な故障モードです。また電極など金属部分に腐食が発生したりするのが化学的な故障モードです。
このような表に見えている故障そのものを直しても本質的な問題が解決するとはいえません。例えば上記の短絡故障が起き、ヒューズが切れた場合に、ただヒューズを交換しても本質的問題は解消しないので、再びヒューズが飛ぶような事態になります。
そこでさらに故障が起きた本質的原因を探る必要が出てきます。これにはいろいろな手段を用いることになります。もっとも基本的な方法は外観の観察です。目視で見える範囲を超えていれば光学顕微鏡、さらには電子顕微鏡等々の手段を用いることになります。外観からは異常を判定できない場合にはさらに別の手段を用いなければなりません。こういった故障原因の追及作業のことを「故障解析」と呼んでいます。
しかしいくら故障が起きた後の状態を分析したとしても、正常な状態からどのようなことが起きて故障に至ったかは必ずしも明らかにできるとは限りません。分析結果から故障に至るメカニズムつまり「故障の物理」を考える必要があります。これには故障に至る過程をモデル化することがよく行われる考え方です。
2つほど例を挙げると、その一つはデバイスのどこかに弱点、欠陥があり、通常より耐力が低くなっているというモデルです。図13-1はこのモデルを説明するための図です。(a)のように半導体に電極がついていて半導体に電流が流れるとします。半導体表面に凹凸があってもそれがある限度内であれば電流は均一に流れて異常は起こりません。ところが同図(b)のように何らかの原因で半導体に欠陥があって対向する電極間の距離が短くなっているとそこに電流が集中します。このような場合、規定の条件の範囲内で動作させても故障が生じやすくなります。
もう一つは本来の耐力が時間とともに劣化して低下し、やがて規定の条件で動作させても故障が生じる状態になる場合です。図13-2の横軸は素子の強度を示しています。例えば印加電圧に耐圧などです。同図(a)の右側の曲線(緑色)は素子本来の強度の分布を示します。このような場合、左側の曲線(青色)のように素子本来の強度より十分低い強度の負荷で動作させるように周囲の回路などを余裕をみて設計します。つまり青色の曲線と緑色の曲線が重ならないようにします。この状態が保たれれば、故障は発生しません。
ところが時間が経過すると図13-2(b)のように素子本来の強度が劣化により低下して赤色の曲線のようになってしまう場合があります。このような場合、二つの曲線に重なる部分が生じると、故障が発生する恐れが出てきます。図13-1の例で言えば、(b)の欠陥が初めから存在するのではなく、時間とともに成長する場合がこのモデルに相当します。
以下の項では、これらの故障を生じさせる典型的な例をいくつか紹介していくことにします。