産業/信頼性

12.信頼性試験の方法

 これまでの各項で信頼性あるいは寿命を評価する原理、方法を説明してきましたが、具体的な試験方法についてはほとんど触れませんでした。そこでこの項ではよく使われる一般的な試験方法について紹介します。

 信頼性試験の大きな目的は、対象製品がどのくらいの信頼性をもっているかをユーザ、顧客に示し、安心して購入、使用してもらうことです。このため、試験が個々ばらばらな方法でなされると、試験結果を相互比較することができず、十分な説得力を持たせられません。そこで信頼性試験の方法や条件については公的な規格が多く設けられています。試験が同じ規格に準拠して行われれば、複数製品の試験結果を比較しやすくなります。

 信頼性試験の方法は古くから経験的に行われてきた方法を規格としてまとめたものが多く、当初は国ごとなど比較的狭い範囲に適用される場合が多かったのですが、多くの製品が国境を跨いで輸出入されるようになり、規格も国際的に統一される傾向にあります。

 日本の規格JIS(日本工業規格改め日本産業規格)には「環境試験方法」(JIS C 60068シリーズ)として一連の方法が規定されていますが、これは国際規格であるIEC(International Electrotechnical Commission、国際電気標準会議)規格と2016年に完全に統一され、番号まで共通になっています。このIEC規格の原型は米軍規格(MIL)にあると思われます。この他、日本にはJEITA(電子情報技術産業協会)という団体が定める規格があり、ED-4701というシリーズが信頼性試験についてJISを補完する役割を果たしています。この他、半導体に関してはJEDEC半導体技術協会という米国に本拠を置く団体も独自の規格を提示しています。

 以下ではとくに半導体デバイスの信頼性試験にほぼ共通して使われる方法をまとめておきます。それぞれの規格には個別のデバイスに限定した試験方法の規定もありますが、それらについてはここでは省略します。また試験の条件は各規格に例示または推奨される数値が挙げられていますが、これは具体的な試験の対象によって適正な条件が選ばれるべきものです。ここでもよく使われる条件を例として示すにとどめます。

<温度、湿度関係>

高温動作試験(JIS C 60068-2-2)、低温動作試験(JIS C 60068-2-1)  通常、デバイスを動作させる常温より高い、または低い温度で動作させ、寿命を調べる試験です。デバイスの耐熱性、耐寒性を調べる試験ですが、高温試験は加速試験としての意味もあります。高温は125℃、85℃など、低温は-55℃などが典型例で、測定時間は最長で1000時間、最大定格で動作させ、故障が発生する時間を測定することが規定されています。試料となるデバイスは動作状態で試験するため、通常はパッケージに実装して通電できるようにします。このパッケージは容易に取り外しできるようにソケットなどを用いて電源に接続するのがよいと思われます。試料の温度を長時間にわたって保持するため、高温は温度コントロールができるオーブン等、低温は冷凍庫を用います。試験中は動作電流などを常時監視して試料の状態を把握するのが望ましいですが、試料数が多いなど常時監視が困難な場合は、一定時間経過後、一旦試験を中断して試料の状態を調べる方法をとります。

高温高湿動作試験(JEITA ED-4701/102A)  温度85℃、相対湿度85%で1000時間、動作させるのが典型的です。高温動作試験と異なるのは所定の温度での相対湿度を一定になるよう制御する点です。湿度がどのような方法で制御されているのかというといくつかの方法がありますが、2つほど紹介しておきます。

 第1の方法は、図12-1(a)に示すように試験を行う第1の温度 \(T_1 \) より低い第2の温度 \(T_2 \left ( \lt T_1 \right )\) で相対湿度100%(飽和水蒸気)の状態を作ります。方法は温度を \(T_1 \) に設定した温水の中に乾燥空気を送ってバブリングするのが一般的です。この飽和水蒸気を温度 \(T_1 \) に設定した試験槽に送ると湿度が下がるので、温度 \(T_2 \) の選択によって所望の温度、湿度が得られます。この方法を二温度法ということがあります。

 第2の方法は、図12-1(b)に示すように湿度 0%の乾燥空気を二つに分けて流し、一方は水中を通すなどして水蒸気で飽和させます。この後、乾燥空気の流れと合流させれば、合流後の湿度はそれぞれの流れの温度、圧力、流量比から 求められるので、この分流比を調整することにより所定の温度で所定の湿度の雰囲気を得ることができます。この方法を分流法ということがあります。

保存試験高温(JEITA ED-4701/201A)、低温(同202A)、高温高湿(同100A))  通電動作させない状態で極端条件下に放置された場合の、試料の寿命に及ぼす影響を調べる試験です。物流に載っているときなどの保管条件を定めるのが目的です。一般に動作試験より厳しい条件が使われます。なお、低温保存試験は実際に問題となるケースがあまりない(航空機輸送くらい?)ことから、必須の試験から外れています。

温度サイクル試験(JEITA ED-4701/105A)  高温と低温を周期的に繰り返す試験でデバイスの膨張と収縮の繰り返しによる劣化を調べます。JIS C 60068-2-14には「温度変化試験方法」として2種類の試験装置による方法が示されています。

 一つは二槽式と言われるもので、高温に保った槽と低温に保った槽を用意し、試料を一定時間、低温槽に投入し、室温に取り出した後、直ちに高温槽に投入するという動作を繰り返す方法です。温度は図12-2(a)に示すように変化します。もう一つは一槽式と言われる昇温と降温を繰り返し行うことのできる一つの槽を使う方法です。温度変化は図12-2(b)のようになります。

 低温 \(T_A \) は-55℃、高温 \(T_B \) は125℃が典型的で、高温と低温をそれぞ一定時間(これをさらし時間と呼んでいます)\(t_1 \)(例えば30分)保ち、これを周期的に(例えば700サイクル)繰り返します。昇降温時の温度変化の様子が二つの方法で異なります。二槽式の場合は室温で槽を入れ替えるため、一旦温度変化が \(t_2 \) だけ停止します(例えば 3分)。昇降温は急速ですが \(T_A \)、\(T_B \) に近づく前に図の破線で示すように温度変化が少し鈍くなります。この遅れ \(t_3 \) はさらし時間 \(t_1 \) に含めると規定されています。

 一槽式の場合は低温 \(T_A \) と高温 \(T_B \) の間の温度変化を、変化速度 \(\beta\) がおおよそ一定になるようにヒータに流す電流などを制御します。変化速度 \(\beta\) は1~10K/min程度とします。

 この他、熱衝撃試験(JEITA ED-4701/307B)と呼ばれる、例えば 0℃と 100℃の間を急速に変化させることを繰り返す試験もありますが、上記の温度サイクル試験でも急速な温度変化を実現できるので、区別して行う意味はそれほどなくなっています。

プレッシャー・クッカー(オートクレーブ、autoclave)試験(JIS C 60068-2-66)  いわゆる圧力鍋状態での試験です。上記JISでは不飽和加圧水蒸気下での試験となっていますが、加圧することにより大気圧では不可能な 100℃を越える温度で飽和湿度を得るような条件も実現でき、加速試験としては効果が大きくなります。この意味でHAST(High Acceraration Stress Test)と呼ぶ場合もあります。JISでは温度 110℃または 120℃または 130℃で湿度 85%を 24時間から 408時間(1~17日)保持する条件が推奨されています。各温度での絶対蒸気圧は 110℃で 1300hPa、120℃で 1700hPa、130℃で 2300hPaですから、大気圧の 1.3~2.3 倍の圧力下での試験となります。

<電気特性関係>

 電気的なストレスに対する信頼性はデバイスの構造や動作条件に強く依存するので、試験方法はデバイスの種類ごとに個別に定められることが多いようです。接合の逆耐圧や絶縁膜の耐圧などの試験があります。電流に対する試験は接合温度の特性として行われることが多いようです。

 環境からの影響としては静電気破壊に対する耐性試験があります(JEITA ED4701/304A.305C)。これについては項を分けて後述します。またラッチアップという主としてCMOSで起こる異常現象に対する試験(JEITA ED4701/306B)もあります。これも後述します。

<機械的特性関係>

 一般の製品についても行われる落下試験、振動試験(JIS C 60068-2-6、JEITA 4701/403A)、衝撃試験(JIS C 60068-2-27、JEITA ED4701/404A)、加速度試験(JIS C 60068-2-7、JEITA ED4701/405A)などがあります。また端子の折り曲げ強度(JIS C 60068-2-21、JEITA ED4701/401A)など電子部品固有の試験もあります。圧力関係では加圧だけでなく減圧に対する試験(JEITA ED4701/504A)、気密試験(JEITA ED4701/503)などもあります。詳細は省略します。

<その他、特殊条件に対するもの>

 電子部品、デバイスについては固有の特徴的な試験がいくつかあります。

塩水噴霧試験(JIS C 60068-2-11、JEITA ED4701/204A) 洋上や沿岸など塩水に曝される環境を想定した試験で、パッケージに実装された試料が対象です。耐水性試験(JIS C 60068-2-18)というのもあります。

はんだ付け関連試験(JIS C 60068-2-20、JEITA ED4701/301C,302A,303A) デバイスは実装するとき、はんだで固定する場合が多いので、はんだ付けに関する試験もあります。はんだ付け時の耐熱性や接着強度、はんだによる腐食性などいろいろな観点での試験があります。

腐食試験 接点の腐食についての硫化水素試験(JIS C 60068-2-46)があります。

JIS:全体のリストと各規定の内容全文を日本産業標準調査会(JISC)という団体のホームページで閲覧することができます。ただし登録が必要で、印刷やダウンロードはできません。

JEITA規格:リストは同団体のホームページで調べることができ、規格を特定すれば閲覧することができます。

JEDEC規格:同団体のホームページで調べることができ、登録が必要ですが規格文書(英文)の無料ダウンロードも可能です。

.