産業/信頼性

7.平均寿命の推定

 ワイブル分布のパラメータ \(m\) を求める方法を前項で説明しましたが、これだけでは肝心の製品の寿命を推定したことにはなりません。ここでは得られたデータから寿命を推定する方法について説明します。

 寿命試験では複数の製品を動作させ続け、1つ1つ故障が発生した時間を計ります。1つ1つの製品の寿命はまさにこの時間です。しかし「1番の製品の寿命は \(a\) 時間でした、2番の製品の寿命は \(b\) 時間でした、・・・」といっても何の意味もありません。製品を使う側にとっては「この製品はどれをとってもまず \(x\) 時間までは故障しません」と言ってもらう必要があります。これがわかれば、どの位の時間使ったら交換したらいいか準備ができますし、この値段でその位の期間使えるなら安いとか高いとかの判断もできます。

 しかしこのような故障が起きるまでの時間=寿命は同じ製品でも個々にはばらばらな値です。ですから「\(x\) 時間までは故障しません」と断言することは本来できないので、確率的に言うしかありません。それをどう決めるかにはいくつかの考え方があります。もっとも普通な考え方は平均寿命でしょう。平均的にこの時間は故障しないというものです。多くの故障データをとれば、その平均値を求めることができます。もう少し違った考え方としては、ある時間範囲の間に何%の確率で故障が起きる、または起きないという表し方もあります。

 ここでは平均寿命を考えてみます。\(n\) 個の試料を試験し、\(n\) 個すべてについて故障が発生した時間 \(t_{i}\)、\(i=1,2,\cdots,n\) のデータがとれた場合には、平均寿命の推定値 \(\overline{\mu}\) は    \[\overline{\mu} =\frac{\sum_{i=1}^{n}t_{i}}{n}\] となります。

 一方、試験時間 \(t_r \) の間にすべての試料が故障せず、\(r \) 個だけが故障した場合の平均寿命の推定値は

\[\overline{\mu} = \frac{\sum_{i=1}^{r}t_{i} + \left (n-r \right )t_r }{n}\] 

となります。残存した試料の故障する時間は試験時間より長いと言えますから、この推定値は短めになると言えます。

 上記の推定値は一般的にいうと期待値に相当します。時間の区間 \(\Delta t\) ごとの故障件数を \(r_{i}\) とすると故障確率密度 \(f_{i}\) は    \[f_{i}=\frac{r_{i}}{n}\cdot\frac{1}{\Delta t}\] でしたから、これを使うと    \[\overline{\mu} =\sum_{i=1}^{n}t_{i}f_{i}\] とも書けます。

 これを連続関数に拡張するとワイブル関数で表される故障確率密度関数    \[f\left ( t \right )=\frac{m}{\eta }\left ( \frac{t}{m} \right )^{m-1}\exp \left [ -\left ( \frac{t}{\eta } \right )^{m} \right ]\] に対して、故障が発生する期待値すなわち平均寿命 \(\overline{\mu} \) は    \[\begin {align} \overline{\mu} &= \int_{0}^{\infty }tf\left ( t \right )\mathrm{d}t \\ &= \frac{m}{\eta }\int_{0}^{\infty }t\left ( \frac{t}{\eta } \right )^{m-1}\exp \left [ -\left ( \frac{t}{\eta } \right )^{m} \right ]\mathrm{d}t\tag{1}\end {align}\] と表されます。この式は教科書などでは次のようにガンマ(\(\Gamma\) )関数を使って表されているのが普通ですが、その導出過程はあまり書かれていないので、ここでは簡単に記しておきます。

 まず指数関数 \(\exp\) のなかを    \[\left ( \frac{t}{\eta } \right )^{m}\rightarrow T\] のように変数変換するのが、ポイントです。微分形は    \[\mathrm{d}T=\frac{m}{\eta }\left ( \frac{t}{\eta } \right )^{m-1}\mathrm{d}t\] となります。

これを(1)式に代入して    \[\overline{\mu} =\int_{0}^{\infty }\eta T^{1/m}\exp \left ( -T \right )\mathrm{d}T\tag{2}\]

ここで   \[\Gamma \left ( a \right )=\int_{0}^{\infty }x^{a-1}\exp \left ( -x \right )\mathrm{d}x\] の形の関数をガンマ関数と呼んでいます。(2)式と比べると    \[a=1+\frac{1}{m}\] ですから、(2)式は    \[\overline{\mu} =\eta \Gamma \left ( 1+\frac{1}{m} \right )\] と簡単な形で表されることがわかります。

 \(m\) と \(\eta\) が求まっていれば、ガンマ関数の値を計算して平均寿命 \(\overline{\mu}\) が求められます。しかしガンマ関数の積分は簡単に計算することはできないので、値を得るにはいちいち数値計算しなければなりません。この点でも従来のワイブル確率紙には寿命推定用の目盛りが設けられているので、便利でした。ところが近年は表計算ソフト(Excel)にガンマ関数が用意されているので、これを使えば数値が簡単に得られるようになっています。

 前項の3種類の模擬データから得られる \(m\)、\(\eta\)、平均寿命 \(\overline{\mu}\) をまとめて下表に示します。\(m=1\) のとき、ワイブル分布は指数分布に一致します。したがって平均寿命は \(\eta\) に一致します。3つのデータのうち、\(m\) がもっとも1に近いのはデータ2ですが、\(\mu\) の値は他の2つに比べて \(\eta\) の値に近い(ほぼ一致している)のがわかります。

  \(m\)   \(\eta\)  \(\overline{\mu}\)
 データ1  0.41  217  645
 データ2  1.00  450  450
 データ3  1.79  533  474

 指数分布の場合の平均寿命は残存数 \(n\) の \(1/e\)(=0.36、eは自然対数の底=2.72)になる時間に相当します。データ2では \(n=20\) でしたから、その \(1/e\) は約7個が残存する(13個が故障)までの時間に相当します。データ2でそれは時間が400から500の間にあるので、\(\overline{\mu} =450\) はもっともらしい結果です。この時間は架空のもので例えば実際の時間はこの100倍とすれば、平均寿命はおよそ45000時間ということになります。

 実際の製品ではこのように長い時間の試験は難しいので、せいぜい \(m \sim 1\) となるデータがとれる時間まで試験し、あとは時間を外挿して寿命を推定する方法が取られます。

<Excel関数

ガンマ関数

関数形=GAMMA(x)

出力:関数値、引数:x: 変数