光デバイス/太陽電池
56.ライフサイクル評価
私たち一般消費者が太陽光発電を家庭に導入する場合に検討することは何でしょうか。それは単純で商用電源だけを使っている場合に比べて得になるかです。太陽光発電システム一式を購入して自宅に取り付けた結果、商用電源の買電額が減り、売電もできるようになったとして、最初の購入にかかった費用を買電の節約分と売電分によって何年かかったら帳消しにできるかという問題です。
太陽光発電システムにも寿命があり、長年使用すれば老朽化して性能も低下するでしょう。そのような時期になっても元がとれないような予想結果なら、導入は差し控えた方がいいという結論になります。しかし例えば1年で元がとれるということなら、早く導入した方がそれだけ得になります。このように装置を導入してから寿命を迎えるまで使ったとき得か損かを見極めることをライフサイクル評価(ライフサイクル・アセスメント)と言います(1)。
他の電気製品ではこのようなはっきりしたライフサイクル評価ができません。電気製品を購入したらできるだけ長く使えた方がいいのですが、その製品によって家事が楽になるとか、情報が得られるとか、楽しみが得られるとかいいことがあったとしても、それは数字に置き換えにくいので、何年使ったら元がとれるか、はっきりした計算はできません。個人の満足感によって、元はとれたとかとれなかったと判断することになります。この点で太陽光発電システムはエネルギーそのものを生み出すので、数値的にライフサイクル評価ができるわけです。
以上は個人レベルの話ですが、社会全体にとっても同じようなことが言えます。従来の商用電源は火力発電や原子力発電によっていますが、これらは地球上に資源を消費して電気エネルギーを得ています。これに対して太陽光発電は太陽からやってくるエネルギーを利用するだけなので地球上の資源を使わずに済みます。いや済むようにみえますが、実際にはそうはいきません。
太陽光発電を行うには太陽電池が必要ですが、これを作るには地球上の資源とエネルギーを使います。ということは太陽電池(及び発電システム)を作るために必要な資源やエネルギーが、発電エネルギーに対してどの位の割合になっているかによって、社会が太陽光発電システムを導入する意味があるかないかを判断できることになります。これが本当の意味での太陽光発電システムのライフサイクル評価です。
このライフサイクル評価の結果を数字で表す指数があります。その一つがエネルギー収支比というものです。これは太陽光発電システムがその寿命期間中に発生する全エネルギーをシステムを作るために投入したエネルギーで割った値です。
[エネルギー収支比]=[全発電エネルギー]÷[投入したエネルギー]
これによって最初に投入したエネルギーの何倍のエネルギーが太陽光発電によって取り出せるかがわかります。大きいほど太陽光発電を行う意味があることを示します。
もう一つはエネルギーペイバックタイムという指数です。これは太陽光発電システムを作るために投入したエネルギーを1年にシステムが発生するエネルギーで割った値です。
[エネルギーペイバックタイム]=[投入したエネルギー]÷[1年分の太陽光発電エネルギー]
これによって何年で消費したエネルギーの元が取れるかがわかります。勿論、短いほどいいことになります。
このような式を書くと簡単なように見えますが、実際に数字を求めるのは大変です。とくに太陽光発電システムを作るために投入したエネルギーの算出はどのような方法で太陽電池を作るかによりますから、その作り方(工程)が細かくわかっていなければなりません。またどこから計算に入れるかも問題です。例えばシリコン単結晶太陽電池を考えると、主として次のような数値を求める必要があります。
1.原材料の準備に必要なエネルギー
まずシリコン単結晶ウェハを用意しなければなりませんが、元はと言えば鉱山から掘り出される珪石や珪砂が原料で、これを掘り出すのにもエネルギーを使います。さらにこれを還元して金属シリコンにし、さらにそれを溶かして単結晶にするのにもエネルギーが必要です。
2.太陽電池パネルの作製に必要なエネルギー
用意されたウェハに不純物拡散を行ってpn接合を作り、さらに電極を着けるためにもエネルギーを使います。できた太陽電池をケースに封入し、架台、周辺設備を用意する必要もあります。これらの原材料も用意しなければなりません。
3.製造設備の準備に必要なエネルギー
以上の工程を行うには製造設備が必要で、それを製造するのにもエネルギー、原材料が必要です。またこれらは工場の建屋のなかに設置しなければいけませんから、建屋を建設することも必要です。
これ以外にもまだありますが、主としてこのようなエネルギーをすべて算出し、足し合わせたものが投入エネルギーになります。
発電エネルギーの方は平均の日照量から太陽光の入射エネルギーを算出し、これに太陽電池の変換効率をかけて求めます。なお発電システム、例えばインバータなどを動かすエネルギーは発電エネルギーから差し引く必要があります。
現状の太陽光発電システムではエネルギー収支比は10~30倍、エネルギーペイバックタイムは1~3年程度とされています。2年くらいでエネルギーの元がとれるという結果は意外にいいような気がしますがいかがでしょうか。個人の住宅に導入する場合の金銭的なペイバックタイムは日本ではもっと長いはずです。これがエネルギーペイバックタイム並に下がってくると導入は大きく進むと思われ、そのための政府の補助金は意味があると考えられます。
エネルギーそのものではなく、温暖化効果ガス(二酸化炭素)の排出量についても同じように、太陽電池を作るために排出される量と太陽光発電を採用したために減少する排出量を算出して収支比やペイバックタイムを考えることができますが、ここでは省略します。
(1)山田興一、小宮山宏著 「太陽光発電工学」 第4、5章 日経BP社