光デバイス/太陽電池
54.太陽電池モジュール、パネルの劣化現象
太陽電池発電システムについて紹介してきましたが、電源供給の役割を担う以上、故障は極力避けなければならず、その信頼性は極めて重要です。
太陽電池セル自体は半導体デバイスですから他の半導体デバイスと同様の考え方で劣化現象には対処できそうです。しかし実際にシステムに組み込まれる際には、モジュール化し、さらにそれらを多数接続したパネルが用いられます。
このとき、セル間の電気接続やモジュールの封止、モジュール間の電気接続などが屋外で使用されても劣化しにくいように考慮する必要があります。以下、いくつかのトピックスを取り上げます。
(1)層間剥離(デラミネーション)
代表的な太陽電池モジュールは電気接続したセルの両面を封止樹脂で覆い、受光面側にはその上に透明パネルを設け、裏面側には裏面保護シート(バックシート)を設けてあります。この多層構造は各層を接着剤を介して積層し、貼り合わせ(ラミネート)して作ります。
このような積層構造は、温度変化が大きく、雨などが直接あたる環境に長く曝されると、層の間が剥がれることがあります。とくに38項で示したように外部からの水分や反応性ガスの侵入を防ぐための無機酸化物膜や、透過光を反射する着色樹脂層などを含む多層構造の裏面保護シートは、それらの層間が剥がれる恐れがあります(1)(2)。さらには裏面保護シートまたは表面のカバー層と封止樹脂層の間や封止樹脂層と太陽電池セルの接触面が剥がれる恐れもあります(3)。
これらの対策としては(a)接着される層(特に樹脂層)の材質の組み合わせを工夫する(1)(2)。(b)樹脂層の表面を物理的または化学的に処理する(4)。(c)接着剤の選択(5)などの手段が広範に検討されています。
(2)PID
メガソーラーのような大規模で大きな出力をもつシステムでとくに顕著になる劣化現象であるため、比較的近年になって問題になっています。
大規模システムの場合、非常に多くのセルが直列に接続されているため、ストリングの両端には非常に高い電位差が発生します。このような状態で長時間発電を続けると急に出力が低下する現象が発生します。これがPID(Potential Induced Degradation)です。大きな電位差がある場合に発生するためにこの名前が付いています。定着した日本語名はないと思いますが、直訳すれば「電位誘起劣化」、内容を示す日本語にすれば、「高電圧誘起劣化」といったところでしょうか。
なぜこのような劣化現象が起きるのかについては、いろいろな説が提示されましたが、どうやらつぎのような現象であろうというところに落ち着いているようです。
図54-1に示すように、太陽電池パネルにおいては太陽電池ストリングが上記のように多層の絶縁物質でカバーされていますが、それを支えるフレームや架台などの部材には金属が使われる場合が多いと思われます。これらの金属部分は電気的には大体接地電位にあると考えられます。
したがってストリング末端とフレームなどの金属部分の間には大きな電位差が発生します。これは間に挟まっている絶縁物質にかかることになります。
パネルの表面には多くの場合、ガラス板が使われますが、ガラス中にはナトリウムなど正イオンが多く存在します。これは高電圧がかかり、とくにフレーム側が正電位の場合には、封止樹脂中へ移動し、これを通過してセル表面に到達することが可能です。セル表面にナトリウムイオンが蓄積すると、下の拡大図に示すように表面を起点にして赤い矢印で示すような複数の経路で電気的なリークが発生し、発生した電荷は起電力に寄与せずに消滅してしまうと考えられます。
このような劣化を防止するためには、ナトリウム源となるガラスからのイオンの流出を防止する手段を設けたり(6)、封止樹脂の材質をイオンを吸収するものに変えるなどの手段が検討されています(7)。また、起きてしまった後に、逆電圧を印加することによって劣化が回復するという報告もあります(8)。
(3)ホットスポット
太陽電池パネルを屋外に設置すると、落ち葉が落ちてきたり、他の汚れが表面に付いたりすることがあり、これによって一部のセルだけ起電力が発生できなくなることがあります。
多くのセルのごく一部が機能しなくなるだけなので、全体としてはそれほど大きな影響はないようにみえます。ところがこの影になった部分のセルが異常に過熱して破壊されてしまうという問題が生じることがあります。これをホットスポットと呼んでいます。
簡単なモデルで説明します(9)。図54-2は4つのセルが直列に接続されたストリングを示しています。実際はもっと多くにセルが接続される場合が多いですが、ここでは簡単のために最小限にしてあります。同図(a)のように外部回路は負荷抵抗が小さいほぼ短絡状態にして光を照射し発電を行っている状態を考えます。
4つのセルは同じものとし、個々の特性ばらつきなどは無視すると、直列回路ですから各セルには同一電流Iが流れ、各セルの端子間電圧は等しくVとなります。ストリング両端には4Vの電圧が発生します。
いま図54-2(b)に示すように、1つのセル(図では一番上のセル)が影になって発電ができなくなったとします。他の3つのセルは正常に動作していますから、3つのセルの両端には3Vの電圧が発生します。影になったセルはキャリアが発生しないので、pn接合ダイオードになります。いま負荷抵抗が小さいとすると、正常部分の電位差3Vと釣り合う-3Vの逆バイアスがこのpn接合ダイオードにかかることになります。この電圧はストリングを構成する素子数が多いほど大きくなり、pn接合ダイオードが降伏することが十分考えられます。そうなるとこのダイオードに大きな電流が流れ、発熱することになり、ダイオードは破壊する恐れがあります。これがホットスポット現象です。
このホットスポット対策としては早い時期から図54-3のようにバイパスダイオードを挿入する方法が知られています(10)。太陽電池セルと並列に逆極性になるようにダイオードを挿入します。正常動作の場合はダイオードは逆バイアス状態になるので、電流は流れません。ホットスポットが発生したセルには他のセルと逆の電圧がかかるので、ダイオードは順バイアス状態となり、セルに流れる電流がバイパスされる仕組みです。
一般には1セルに1つのダイオードを挿入する必要はなく、数個の直列セルに並列にする、さらにはストリング全体と並列に接続するなどして、部品点数を減らします(9)。
ただバイパスダイオードもいくらでも電流が流せるわけではなく、大電流によって過熱し破損する恐れもあります。したがって対策としては発生を早期に検知し、影になっている部分を解消することが必要となります。このような劣化の検知やシステムの監視については次項で説明します。
(1)特開2008-244110号
(2)特開2010-254779号
(3)特開2019-129285号
(4)特開2010-036350号
(5)特開2011-020433号
(6)特開2015-179827号
(7)特開2015-032804号
(8)特開2017-175683号
(9)特開2010-245410号
(10)特開2002-190611号
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