光デバイス/太陽電池

53.宇宙用太陽光発電システム

 前2項では地表に設置する太陽光発電システムについて紹介しましたが、太陽光発電は宇宙空間で重要な役割を果たします。将来、月面やその他の天体上にも発電設備が設けられるようになった場合には他の原理の発電が使用される可能性がありますが、現在のところ宇宙用といえば人工衛星あるいは宇宙ステーションに限られ、それら自体に供給される電源としてはほとんど太陽光発電のみが使われています。

 地表と宇宙空間ではなにが異なるでしょうか。太陽光のスペクトルは地表に到達するまでに大気の成分によって吸収されます。これは4項で説明しているようにエアマス(AM)という基準で示されます。地表ではAM1.5が標準的に使われますが、宇宙では大気による吸収がなく、AM0となります。太陽電池の感度は波長によってそれほど鋭い変化はしないので、細かいスペクトルの違いはそれほど影響しません。

 しかし宇宙では天候の影響がないので、太陽光パネルを太陽に正対するように制御すれば、太陽光の強度は一定と見なせます。ただし衛星の場合は地球の影に入る「食」の場合には発電ができないので、やはりバッテリを備える必要があります。

 その他、宇宙空間では放射線の強度が強く、太陽光が当たっている場合といない場合の太陽電池の温度変化が激しいなどの環境条件があるので、これに耐える信頼性が必要になります。

 具体的にはシリコン太陽電池も用いられますが、衛星に搭載する場合にはあまりコスト的制約がないため、変換効率の高いⅢ-Ⅴ族化合物半導体太陽電池が実用に供されています。宇宙では電源の効率が高いことが重要ですから、さらにタンデム構造にしたものが利用されます。例えば41項で示した3つの変換層を積層したタイプが用いられます。このタイプでは30%を越える変換効率も期待できます。

 人工衛星に搭載される太陽電池パネルはほとんど衛星本体の表面などではなく、外部に広げて太陽光の入射面積を大きくするようにしています。大気中では抵抗を受けてとても高速で飛行することができない形ですが、宇宙空間ではなんら問題がありません。

 しかしこのような翼状のものをロケットに載せて打ち上げることは困難なので、通常は衛星本体の外形寸法より小さく折りたたんでロケットに搭載します。打ち上げ後、衛星をロケットから切り離し、宇宙空間に放出する際に太陽電池パネルが広がるような機構を備えています。これはパネルのフレームを小分けにしてヒンジ(蝶番)で接続し、固定が外れるとバネのような弾性体の復元力によって翼を広げるような仕組みが多いようです(1)

 ところで地表での太陽光発電の最大の欠点は夜間は発電ができないことと天候が悪いと発電量は低下してしまうことです。また晴れていても、太陽光は地表に到達するまでに、地球を取り巻く大気によって吸収され、そのエネルギーが減っています。これは地上に太陽電池を設置する限り、逃れることのできない宿命です。

 それならば大気圏の外、宇宙に太陽電池を置けばよいではないか、というアイデアはすぐに浮かぶと思います。しかし発生した電力をどうやって地上に送るのかという難しい課題があることにもすぐ気付くでしょう。

 宇宙から地表への送電方法として無線でエネルギーを送る方法が研究されてきました。マイクロ波などの電波か、あるいはレーザ光などの光によってエネルギーを送ることができます。

 図53-1は宇宙太陽光発電所のイメージを示す図です(2)。太陽光発電衛星上に太陽光発電パネルを設け、これで発電した電力を衛星内でマイクロ波またはレーザ光のビームに変換し、地上の受信設備へ送信します。しかし高いエネルギーをもつビームの危険性もあるので、何らかの周囲への警報も考慮する必要があります。

 現在構想されている宇宙太陽光発電所は直径数kmにもなる太陽電池パネルを静止衛星軌道上に打ち上げ、同じ直径数kmの受信施設を地上に建設してビームを受けるというものです。これで1GWレベルの電力が得られる計算です。

 これを実現するためにはまず非常に大きなアンテナが必要です。直径数kmのアレイアンテナが考えられています。また静止衛星軌道は地上から36000kmの高さにあり、ここから地上の直径数kmの受信設備に、その範囲から外れないようにビームの方向を定めなければならないという課題があります。計算によれば衛星から送信するビームの角度は0.001度以下の精度を保たなければならないことになります。これには特別な目標追尾装置が必要になります。

 以上のような点が解決できたとしても宇宙の場合、衛星の打ち上げに莫大な費用がかかるうえ、故障が起きて修理が必要になった場合、ハッブル望遠鏡の例もありますが、有人宇宙船を派遣しなければならないなど、コスト面の問題が多そうです。

 このような有人宇宙船の打ち上げを避けるために、NASAなどで宇宙エレベータ(軌道エレベータとも言います)というものが研究されています。これは宇宙船と地上をワイヤで結び、これに沿って宇宙船まで人間や物資を運ぼうというアイデアです。

 アイデアとしてはかなり以前(19世紀)に提案されたそうですが、原理的には図53-2のように地球表面と静止軌道より外側を周回している物体(人工衛星など)をワイヤで結びます。ワイヤは人工衛星の遠心力で外側へ引かれますが、自重があるので地球の引力にも引かれます。静止軌道上でこの遠心力と重力がバランスするようにすればワイヤがまっすぐ張った状態が実現できます。

 運搬機はこのワイヤに沿って自力でよじ登ることになります(ワイヤで引き上げるエレベータとは違います)が、そのエネルギーはロケットの打ち上げに比べるとずっと小さいということです。

 ワイヤがつながるなら、有線で送電ができるのではとも思えますが、地上での送電はせいぜい数1000kmでしょうから、36000kmを低損失で送電するのは難しそうです。

 この宇宙エレベータはまだ小規模な実験が行われている段階ですが、将来実現するといろいろな応用が期待できそうです。

(1)特開平02-270700号

(2)特開2002-154497号