光デバイス/太陽電池

49.太陽電池モジュール(その2)

 アモルファスや微結晶の薄膜を使った太陽電池薄膜太陽電池の場合も実際に使用する場合にはモジュール化する必要がありますが、モジュールの構造は結晶基板の場合と少し違います。

 薄膜型の場合は37項で説明したように集積型として、もともと1基板上に単位セルを複数直列接続したものを作り込むことができますから、接続部材を用いたモジュール内の接続配線は不要になります。これはモジュール組立を簡単にする大きな利点となります。

 具体的には図49-1に示すように透明基板上に薄膜太陽電池を必要数直列接続した集積型太陽電池を形成し、これを樹脂で封止し、さらに裏面保護シートで覆います(1)。太陽光は透明基板側から入射させます。

 アモルファスや微結晶の薄膜を使った太陽電池は単結晶の太陽電池に比べると、基板をかなり自由に選べるという特徴があります。透明なガラス板がよく使われますが、この場合は平板状で、単結晶の場合と形としては同じようなものになります。しかしアモルファスシリコンのような薄膜は基板表面が曲面であっても成膜が可能ですから、光を受ける面が曲面の太陽電池も作ることができます(2)

 また柔らかい材料を基板にして成膜し、その後曲げることもできます(3)。太陽電池を取り付ける場所、例えば建造物の屋根などが曲面である場合、この曲面に沿って太陽電池セルまたはモジュールを曲げることができれば、取付面との間に空間ができず、見た目も違和感が少なくなります。さらには何度も曲げたり伸ばしたりするロールカーテンの表面に太陽電池を設ける例などもあります(4)

 自由に曲げられる、柔軟な基板をフレキシブル(flexible)基板といいますが、日本語の場合は「可撓性」(カトウセイと読む)というあまり普段は使わない、ワープロなどでも出てこない語が当てられています。「撓」は「たわむ」という意味ですから、可撓性は「撓むことができる」という意味です。

 このようなフレキシブルな材料というとすぐに思い浮かぶのは樹脂、プラスチック材料でしょう。ただ樹脂はだいたい熱に弱いので、これを基板に使う場合は上に膜を着けるとき、あまり高温にできません。このため成膜に高温を必要とするような材料あるいは成膜方法は使えないということになります。

 しかしある程度の高温に耐える樹脂もないわけではありません。ポリイミドという樹脂は300℃の温度に耐えます(5)。もっと高温に耐える樹脂も開発されています。アモルファスシリコンをプラズマCVDで作る場合には300℃以下の温度でも可能ですから、樹脂を基板にした太陽電池を作ることは可能です。

 本来硬い材料でも厚みが薄ければ、文字通り撓みます。とくに金属は薄い箔に加工できよく曲がる材料になります。たいていの金属は熱にも強いので、高温を必要とする場合にも使えます。ただ光を通さないので、基板側から光を入射させるという構成はとれなくなります。

 これまで説明したのは、製品として受光面が曲がった太陽電池が必要とされる場合の話でしたが、フレキシブル基板はもう一つ別な意味でも必要とされます。

 それは大面積の太陽電池を連続的に成膜する場合です(6)(7)図49-2は連続成膜装置の典型的な構造を簡略化して示しています。

 成膜室は3つに分けられ、左からn層、i層、p層をそれぞれ成膜する室となっています。成膜方法は例えばプラズマCVD法です。左側の送り出しロールにフレキシブル基板の材料(例えば樹脂や金属箔などのテープ)を巻き、テープ先端を成膜室を通して右側の巻き取りロールに巻き付けます。まずn層の成膜室で基板上にn層を成膜します。つぎにロールを回転してn層を成膜した部分を隣のi層の成膜室に移動させ、i層をn層の上に成膜します。このときn層の成膜室内ではそこに送り込まれた基板上にn層を同時に成膜します。さらにロールを回転し、n層とi層が積層成膜された部分をp層の成膜室に送り、p層を成膜するとフレキシブル基板上にpin層が形成されます。ロールを回転してこれを繰り返すことにより、pin積層体が連続的に基板上に形成できます。

 送り出しと巻き取りのロールも含めて真空室に入れておけば、ロールに巻けるだけの長さの基板に連続的に成膜ができることになります。実際には成膜室へのテープの出入り口から成膜原料のガスが漏れないようにするための機構などが必要ですが、ここではそこまで立ち入りません。

 図49-2は光電変換層(半導体層)の成膜のみを示していて、電極は別に作る必要があります。下部電極は予めテープ上に成膜しておくことができます。上部電極はパターニングが必要ですが、ここではその説明は省略します。また、封止樹脂や裏面シートなどもロールから送り出す方法で太陽電池のアレイ表面を覆いモジュールを作製する工程を簡略化することができます。

 樹脂や金属のテープなどフレキシブルな基板をロールから供給し、成膜後別のロールに回収するこのような成膜方法をロール・ツー・ロール(roll-to-roll)法と呼ぶことがあります。

 もう一つ別の目的のモジュールを挙げておきます。これは光を透過する太陽電池で、「シースルー太陽電池」と呼ばれることもあります。本来、太陽電池は光を吸収して電気に変えるのが目的ですから、むしろ光の透過はできるだけ防ぐ必要があり、そのための手段も考えられていることはこれまでにも説明した通りです。

 一方で例えば住宅の窓などに太陽電池を設置する場合には、発電効率は少し犠牲にしても一部の光を室内に取り込みたいという要求もあります。

 このような目的を達成するのはそれほど困難ではありません。図49-1をみると、透明基板上に透明電極がありますが、この透明電極に封止樹脂が直接接している部分があるのがわかります。そこで裏面保護シートを透明にすれば、入射した太陽光はこの部分を通して裏面側へ透過できることになります。

 通常は面積当たりの発電量を向上するため、このような部分は小さくするように考慮されますが、光を透過させたいという目的がある場合には、発電量の減少との兼ね合いで光透過部分を大きくすることができます。

 住宅の窓などの場合はデザイン上の見栄えなども考慮して、透過窓の形状を工夫するようにします(8)

(1)特開2000-340814号

(2)特表2009-537985号

(3)特開2000-114568号

(4)特開2008-42142号

(5)特開昭54-149489号

(6)米国特許US4400409号

(7)特開平06-260668号

(8)特開2002-299663号