光デバイス/太陽電池

48.太陽電池モジュール(その1)

 太陽電池は英語では”solar cellと言いますが、この「セル」の意味について11項に電池の最小単位という意味で使われると書きました。セルは単体の太陽電池素子のことを意味します。このセル単体が発生する電圧は1V以下と通常の使用目的にとっては低すぎるので、セルを直列接続して電圧を上げることが必要になります。太陽電池をただ電気的に線でつないだだけでは取り扱うことが難しいので、全体を樹脂で固めたり、ガラス板に挟んだりして一体化したものが使われます。この一体化したものをモジュール(module)と呼びます。

 時計や電卓、携帯電話などのような小型機器に組み込んだ太陽電池も電圧を上げるために複数のセルを直列接続することが多いですが、このように機器内に組み込まれて取り外すことができない太陽電池はここではモジュールに入れないことにします。

 太陽電池モジュールは単独で電源として種々の目的に使うことができますが、電力用の場合は地上やビルの屋上、住宅の屋根の上などに、このモジュールをさらに複数台接続したものを設置して用います。複数のモジュールを電気的に接続し、モジュール数台をフレームと呼ばれる枠に固定したり、あるいは架台の上に配列して固定します。多数の太陽電池モジュールを並べたものを太陽電池アレイとか太陽電池パネルなどと呼びます。

 言葉ではわかりづらいので、一例を図面を見ながら説明します。図48-1は住宅用太陽光発電システムを示す図です(1)。家屋の屋根の上に太陽電池アレイが固定されています。複数の太陽電池モジュールを縦横に配列し、周囲をフレームと呼ぶ金属製の枠体で固定しています。地上やビルの屋上などに設置する場合は上面が傾斜した架台の上に固定します。

 図48-2は太陽電池アレイを形成している複数の太陽電池モジュールの一つの外観を示しています。多数(図では40個)の太陽電池セルを縦横に並べて結線し、密封してあります。通常は1つのモジュールからは一対の出力コードが出ていて、他のモジュールとの接続やアレイからの出力に使われます。この出力コードと太陽電池セルから出力を導く内部配線とを端子箱内で接続します。

 図48-3は太陽電池モジュールの構造を示す分解斜視図です。図を簡略化し、図48-2より太陽電池のセルを一部省いて示しています。複数のセルを直列に数珠繋ぎのように接続しています。セルが単結晶(または多結晶)シリコン太陽電池で電極がセルの上下面にある場合を想定すると、セルの接続部分の構造の詳細は図48-4のようになります(2)。上の(a)が側面図、下の(b)が平面図です。

 p型結晶基板表面にn型層があり、その上に多数の平行なフィンガー電極とそれに導通し垂直い配置された2本のバスバー電極が設けられています。基板裏面には裏面電極が全面に設けられています。表面のバスバー電極と隣のセルの裏面電極を金属箔の接続部材でつなぎます。この連ねたものをセルストリングと呼ぶことがあります。ストリング(string)はもともと「ひも」という意味ですから、多数のセルをひもで一列につないだものがセルストリングです。また接続部材をインターコネクタあるいは接続タブなどと呼びます。

 セルを多数連ねた状態が図48-3に示されています。図の例ではモジュールの端で配線を折り返し、すべてのセルを直列接続しています。2本のバスバー電極は電気的にはフィンガー電極を介して導通しているので配線はどちらか一方でもよいのですが、配線抵抗を減らして太陽電池から少しでもキャリアが取り出しやすくなるように2本のバスバー両方に配線部材を接続しています。配線の両端になるセルからの2本の配線をモジュールからの出力として取り出します。

 このセルストリングを表面と裏面から透明な封止材(または充填材)で挟みます。この封止材は水分などの侵入を防いでセルとそれをつなぐ接続部材を保護するために用いられます。しかしセルと接続部材に直接接するため、柔らかくセル自身や接続部に力が加わらないような材質が求められます。また少なくとも太陽光が入射する側の封止材は透明である必要があります。現在このような特性をもつ材料としてエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)がもっともよく使用されている樹脂材料です。

 さらに太陽光が入射する側の封止材の外側を表面カバーで覆います。カバーは透明でなければならないので、耐候性が優れたガラス板が用いられることが多いです。しかしガラスは重く、割れやすいため、透明な樹脂が用いられる場合もあります。

 裏面側は樹脂シートで覆います。これを裏面保護シートとかバックシート(backsheet)と呼びます。この裏面保護シートは太陽光を表面からだけ取り込む太陽電池の場合、透明である必要はなく、通常着色された樹脂です。白色であれば透過した光を反射して再び太陽電池に入射させることが可能です。太陽電池を保護する目的ですから封止材より丈夫な樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)などが使われます。

 裏面保護シートは図48-3の左下に示す断面図のように多層に構成される場合があります。これによって複数の役割を各層に分担させることができます。樹脂層は太陽電池の劣化を早める水分や酸素などをかなり透過させてしまいます。これを防ぐために金属層や無機酸化物層などをガスバリア層として設けるのが効果的です。基材となる樹脂の表面に例えば酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどの無機酸化物の薄膜を形成し、その両側に別の樹脂層で覆ったような構造が典型的です(3)。外気に触れる外層は耐熱性、耐紫外線性が強く、また機械的にも強い材質が望ましいです。一方、内側の樹脂層は封止樹脂とよく接着するような材質が望ましいと言えます。PETはEVAとの接着性がよくないので、別の材料で内側を覆うのが望ましいです。これら各層は接着剤を介して圧接(ラミネート)することによって積層されます。

 裏面保護シートの裏に端子箱を取り付けます。太陽電池セルに接続される内部配線を直接外部に取り出すとこれに力が加わってセルとの接続が損傷する恐れがあるので、内部配線は端子箱内の中継端子に接続し、外部に接続するケーブルをこの中継端子に接続します。この構造によって太陽電池に外部配線から力が加わって損傷が起きるのを防ぐことができます。

 なお、裏面側は必ずしも不透明な裏面保護シートにする必要はありません。裏面を透明なシートとするか、あるいは両面ともガラスとすれば、両面から太陽光を取り込める太陽電池モジュールとなります(4)。この場合は太陽電池セルも両面の電極とも光を透過する電極とする必要があります。このようなモジュールは両方向から光が入射するような条件で設置する必要がありますが、片面入射の場合より変換効率は向上することが期待されます。

 以上、説明した太陽電池モジュールは図48-4に示したようにセルの上下に電極をもつ太陽電池を用いる場合のものでしたが、22項の裏面電極型セルの場合は内部構造が少し変わってきます。

 裏面電極型の場合、セルの片側にしか電極がないので、直列接続する場合、隣のセルの電極との接続には図48-4に示すような屈曲した接続部材は必要なく、平面状の接続部材で行えます(5)。さらにはプリント基板のような平板状の配線上に実装することも可能になります。これは裏面電極型太陽電池をモジュール化する場合の一つの利点になります。

 具体的な数値例を見てみましょう(1)図48-2のモジュールの例では、40個のセルを直列にしています。シリコン太陽電池が1セル当たり約0.65Vの電圧を出力するとすれば、40セルを直列にすれば、出力電圧は0.65V×40=26Vとなります。電流の方はセルの面積に依ります。シリコン太陽電池では単位面積当たり40mA/cm程度とみられますから、有効面積が125cm(約5in径の円形)のセルなら5Aの出力電流が流れることになり、モジュールの出力は26×5=130Wとなります。さらにこのモジュールを8台直列にして電圧を200Vに上げ、それを3つ並列にしてアレイ(24モジュール)を形成しています。これで200V×15A=3kWの電力が晴天時に得られるシステムになります。住宅用ではこの3kWというのが、標準的なようです。

 集中発電所の場合には「メガソーラー」と言われるような出力が1MW以上のシステムもあります。このような場合には、上記住宅用のアレイなら300台以上を並べる必要があります。

 以上、シリコン結晶系太陽電池のモジュールについて紹介しました。薄膜系太陽電池のモジュールはいくらか構造が異なりますので、次項でこれを取り上げます。

(1)例えば特開平11-274544号

(2)例えば特開平11-312820号

(3)特開2001-111077号

(4)特開平11-298029号

(5)特開2005-340362号