光デバイス/太陽電池

47.ペロブスカイト太陽電池

 前項で色素増感太陽電池を紹介しましたが、これは電解液中のイオン移動を利用して電荷を移動させている点で、半導体を使った太陽電池とは動作原理が大きく異なっていました。原理が異なるだけにかえってその可能性が期待されることもあったと思われますが、光電変換材料である色素が劣化しやすいという問題がありました。また電解液を使うことも密閉構造などに問題を孕んでいました。

 そんななか、2009年に横浜桐蔭大学の宮坂力教授によって、光電変換材料に色素に変えて有機無機複合ペロブスカイト化合物という材料を採用した新しい太陽電池が提案されました(1)。ペロブスカイト(perovskite)とは日本語で灰チタン石(化学式:CaTiO、チタン酸カルシウム)という鉱物を意味する言葉です。ペロブスカイト構造はこのペロブスカイトがとる結晶構造を意味します。強誘電体として知られるBaTiO(チタン酸バリウム)なども同じ結晶構造をとります。

 化学式を一般式で書くと、RMOという形になります。ここでRとMは金属で、これら2つの金属を含む酸化物です。結晶の形は図47-1に示すように立方体が単位になってこれが繋がった構造になっています(2)。これを単位格子が立方晶であると言います。

 立方体の8つ頂点にはRの原子が入ります。立方体の中心(体心)にはMの原子が入ります。さらに立方体の6つの面の中心(面心)には酸素が入ります。体心の原子Mはこの単位格子に1個だけです。原子Rは単位格子当たり8個あるように見えますが、立方体の各頂点は隣合う8つの単位格子に共有されているので、1つの頂点当たり1/8個で単位格子当たりは1個ということになり、原子Rも単位格子当たり1個ということになります。面心の酸素はどうかというと、隣に接する面と共有されるので、各面当たり1/2個で単位格子全体では3個となります。つまりこの結晶内の原子数の比はR:M:O=1:1:3で、分子式はRMOとなることがわかります。

 光電変換物質として採用された有機無機複合ペロブスカイトもRMOという基本形は同じです。ただしRは有機基でNHCH-が代表的です。Mは金属でPb(鉛)が代表例です。また3番目の元素はOと書きましたが、酸素ではなくハロゲン元素、例えばI(ヨウ素)が代表例です。つまり代表的な有機無機複合ペロブスカイトの化学式は NHCHPbI となります。構成物質については非常に多くの物質が検討されており、複数物質の併用なども可能で、今後さらに特性の良い材料が発見される可能性もあります。なお、有機無機複合の「複合」という語は「混成」、「ハイブリッド」などという場合もあります。

 電解液の使用に関する問題点については、電解液を固体に置き換える考え方があります。これは従来の色素増感型について早くから検討がされてきましたが、電気的に電解液と同様なはたらきをする正孔輸送材料、とくに有機材料が多く検討されています(3)。具体的にはスピロ-OMeTADという材料が用いられる例が多いようです(4)。この材料はつぎのような構造式をもっていて早くから知られています(5)。正式名称を併せて記しておきます。

 この太陽電池の基本構造は図47-2に示すようなものです(4)。透明基板上に透明電極を着け、その上に電子輸送層を設けます。この電子輸送層は色素増感型の場合と同じ考え方で、一般に多孔質のTiOなどが用いられます。この電子輸送層の上に光吸収層あるいは感光層として有機無機複合ペロブスカイト化合物層を設けます。この層は均一な層に限らず化合物の微粒子を有機物質中に分散させたものが用いられる場合もあります。しかし通常、結晶成長によって膜を作るようなことはありません。この上に正孔輸送層を設け、最後に対向電極を設けます。

 全部が固体であり、基板も有機材料とすればフレキシブル太陽電池も実現が可能です。さらに光電変換層や正孔輸送層は真空成膜を使うことなく、塗布法(印刷法)で形成が可能であり、電極、電子輸送層も塗布で成膜するようにすれば、極めて低コストでの製造が可能となります。

 実際に多孔質TiOなどの電子輸送層はチタンを含む有機化合物の溶液を塗布し、焼成することによって作製が可能です(2)。有機無機複合ペロブスカイト層は2つの前駆物質(主として有機基部分と金属部分)を積層塗布した後、化学反応させることによって作製が可能です。正孔輸送層は有機物質ですから塗布成膜が可能です。両電極も必要あれば塗布によって作製が可能なので、全層の塗布による作製が可能です。

 ペロブスカイト太陽電池は多くの構成材料の検討により、変換効率が20%を越えるものが得られるようになり、Si系太陽電池に近い性能を持つことが明らかになっています。さらに上記のように全層の塗布による製造が可能で、フレキシブルにすることも容易なため、将来的に期待される太陽電池に成長しています。

(1)A.Kojima, et al, J.Am.Chem.Soc.,vol.131 (2009) p.6050

(2)特開2016-082005号

(3)特開2000-285976号

(4)特表2015-517736号

(5)国際公開第97/010617号

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