光デバイス/太陽電池
40.Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体太陽電池の低コスト化
Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体の太陽電池はもっとも高い変換効率を実現できることを前項で説明しました。しかし価格が高いという難点があり、人工衛星への搭載などはされているものの住宅用に導入することは難しいと考えられています。しかしもし何らかの手段で価格を下げることができれば、高い変換効率を地上でも活かすことができるので、コスト低減の検討もなされてきました。
Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体太陽電池のコストが高い原因の大部分は原材料費、とくに基板のコストです。GaAsやInPの単結晶ウェハはSi単結晶ウェハよりずっと少ない量しか生産されていませんので、単純に比較することはできませんが、コストは数倍以上違うとみられます。
ガリウムやインジウムはレアメタル(稀少金属)で、シリコンに比べると地球上にほんの僅かしか存在しません。このため初めから価格が高いわけですが、大量に使用されれば資源の枯渇という心配もあります。インジウムは透明導電体のITOに使用されていますが、液晶ディスプレイの普及とともに消費量が増え、供給に問題が出始めているとの報道もありました。
タンデム構造の場合、光電変換層の厚みも増えますが、それでも全体の厚みに占める基板の割合は少なくとも半分程度にはなると思われます。そこでこの基板としての材料使用量を減らすことがコスト低減に有効なことがわかります。もちろん資源の節約にも有効です。
基板材料の使用量を減らす方法は、当然ながら厚みや面積を減らし、究極は別の安価な材料に変えてしまうことです。しかしどの手段もそれほど簡単ではなく、技術的な課題を抱えています。以下それらの課題について紹介していきます。
厚みを減らす努力はなされていますが、ウェハ製作時に薄くできなければならず、デバイス製作時に薄く加工してもそれは使用量を減らすことにはなりません。GaAsやInPの単結晶はSi単結晶に比べて脆く、あまり薄いウェハを作ることは現状では難しいようです。
面積を減らすのはどうでしょうか。太陽電池の場合、太陽光を受ける面積で発電量が決まりますので、面積を減らすことは発電量を減らすことになります。しかし図40-1に示すように平行光である太陽光をレンズなどの光学系を用いて集光して太陽電池に当たるときには細くしてやれば、同じエネルギーの太陽光を小さい面積の太陽電池に入射できます。
このような集光手段を用いることはかなり早くから検討されてきました(1)。文献で例示されている太陽電池はAlGaAs/GaAs系とGaSb系を重ねた積層型です。GaSbはGeと同程度のバンドギャップエネルギーをもっていますから、GaAs系を透過する波長の長い部分の光電変換ができます。ここでいう積層はエピタキシャル成長によって積層したものでなく、別々に作って積み重ねたタイプです。GaAsとGaSbのように格子定数が大きく違う組み合わせの場合にはこのような構造とすることもできます。効率は31%が得られたと書かれています。しかし集光するしないでどの程度のちがいがあったのかは不明です。
光を集光すると、集光された光の面積当たりの強度はもちろん集光しない場合より大きくなります。しかし太陽電池内で発生できる電子-正孔対の量は無限ではないので、ある量以上は増えないはずです。太陽光を何倍くらい集光し、どのくらいの面積の太陽電池に照射すればもっとも効果的かについて調べ、それにしたがって集光光学系を設計する必要があります。
最近になって、前項で紹介したタンデム構造の太陽電池を集光型として用いると非常に高い効率が得られることがわかってきています。変換効率は集光倍率や受光面積によって変わります。集光倍率は100~500倍程度がよく、受光面積は1mm2程度まで小さくする方がよいとされています(2)。
ここで集光型の場合、忘れてはならないのは太陽電池はつねに太陽の方向を向いていなければならないことです。方向がずれると集光される光の位置がずれて太陽電池から外れてしまいます。このため、地上で使う場合は図40-2のような太陽に対する追尾装置に太陽電池を載せる必要があります(3)。
追尾装置は多数の太陽電池セルを配列した太陽電池パネルを地表などに立設した支柱の先端に取り付け、支柱とパネルの角度が自在に調節できるようになっています。駆動装置はパネルを支柱に対して回転させ、制御信号によってパネルが太陽に正対するように角度を調整します。
図40-2(a)はパネルを横からみたもので、このとき太陽の高度に合うようにパネルの上下の傾斜角を調整する様子を示しています。同図(b)はパネル裏面からみたもので、太陽が東から西へ移動する位置に合わせパネルの横方向の角度を調整する様子を示しています。実際には太陽の位置に正対するようにこの両方を組み合わせて調整します。
太陽の位置は1日の変化と年間を通じての変化とから計算できます。この計算手段を駆動装置に組み込んで、年月日と時間から太陽の天球上の位置を決定できるようにします。しかし計算だけでは装置の設置位置、角度によって誤差を生じます。そこで実際に太陽の位置を観測し、計算による位置の誤差を補正するようにした方がよいと考えられます。このような測定には7項で説明した日射量の測定装置と同じように細い管を通して太陽光を受光する方法が利用できます。
集光型の場合、折角太陽電池のセル面積が小さくできても、このような追尾装置をつけなければならず、装置全体のコストが高くなってしまう難点があります。
(1)米国特許US5091018号
(2)特開2005-136333号
(3)特開2006-344698号