光デバイス/太陽電池

38.化合物半導体太陽電池

 シリコン系以外の光電変換材料を使った太陽電池でもっとも実用性が期待されるのは化合物半導体太陽電池です。化合物半導体を太陽電池に応用しようという考えは早い時期からありました。シリコンが材料として確立してきたのは意外に遅く1950年代半ば以降ですが、これ以前に化合物半導体を使って光のエネルギーを電気に変換できることが知られていました。

 化合物半導体にはいろいろな種類があります。太陽電池以外も含めた半導体デバイスでもっともよく使用されているのがGaAsやInPに代表されるⅢ-Ⅴ族化合物であるのはご存じの通りです。そのほかに古くから用いられているCdSなどのⅡ-Ⅵ族があります。さらに少し変わり種ですが、カルコパイライト系と言われるⅠ-Ⅲ-Ⅵ族があります。具体的にはCuInSe(CISと略称)など銅を含む化合物が採用されています。

 これらについては順に詳しく紹介していく予定ですが、まずは全体を概観しておきます。

 化合物半導体太陽電池に期待される最大の特徴は変換効率を結晶シリコンよりずっと高くできる可能性があることです。とくにⅢ-Ⅴ族のGaAs系ではシリコンの限界を越える値が得られ、人工衛星など宇宙で使う太陽電池として実用化されています。GaAsやInPは放射線を浴びてもシリコンに比べて特性劣化し難いという特徴があり、これも宇宙での使用に適しています。

 また化合物半導体の大きな特徴は混晶がかなり自由に作れることで、その組成によってバンドギャップエネルギーが調節できるため、太陽電池として必要なバンドギャップをもつ材料を設計できる利点があります。すでに紹介したようにSi系でもSiCとかSiGeなどによって同じようなことができますが、化合物の方がずっと広い選択ができます。

 図38-1は以前に示した太陽光の地上でのスペクトル図です。これに各半導体のバンドギャップエネルギーに相当する波長を記入しました。ただし極めて大雑把な目安を示しているだけですのでご注意下さい。例えばGaAsとInPは同じ900nmのところに示していますが、実際には約870nmと960nmといった程度の差異があります。

 同じⅢ-Ⅴ族のGaPは550nm程度の値を持っていますが、これはInGaPの混晶を作れば、その組成によってバンドギャップエネルギーに相当する波長を550~960nmという広い範囲にわたって調整できることを示しているわけで極めて便利なことがわかります。InAsはバンドギャップエネルギーが0.33eVと小さい(波長に換算して3760nmに相当)ので、InGaAs混晶で870nmより長い太陽光の波長はすべてカバーできることがわかります。

 青色発光でよく知られるGaNはバンドギャップエネルギーが大きすぎて単独では太陽電池にはあまり向いていないと言えます。

 とくにⅢーⅤ族は発光デバイスなどで培われた高度なエピタキシャル成長技術がありますから、実用化しやすい材料と言えます。しかし最大の問題点はコストが高いことです。エピタキシャル成長の基板として使われるGaAsやInPの単結晶基板はSiの単結晶に比べて価格が高く、また大きさも3インチ(7.5cm)径程度までしかできていません。

 またGaやInという材料は資源の面でも稀少なので将来にわたって大量に消費することは難しいと考えられます。大面積で安いことが必要な太陽電池用の材料としては苦しいところです。

 化合物半導体太陽電池を地上で使えるようにするためには、つぎの二つの方向の開発が必要です。まずは当然ですが原材料をできるだけ安く済ませるような工夫が考えられます。とくに新しい基板材料についての研究が必要です。もう一つは、その変換効率を極限まで高めて、あまり大面積でなくても十分なエネルギーが得られるようにすることが考えられます。この方向は稀少材料にとっては重要と言えます。

 これらの点についてすでにいろいろ興味深い検討がなされているようです。どのような努力がなされているかについて次項以降調べていくことにします。