光デバイス/太陽電池

37.集積型薄膜太陽電池

 35項で説明したタンデム型太陽電池は異なる材料の太陽電池を積層し、異なる波長帯の光を光電変換できるようにしたものでした。これは積層方向に複数の太陽電池を集積した集積型太陽電池ということができます。

 ここで取り上げるのは積層方向ではなく同じ基板の上に横方向に複数の太陽電池を並べたタイプで、普通はこれを集積型太陽電池と呼びます。

 このような集積型の利点は直列につないで使用するときにはっきりと現れます。シリコン系太陽電池の場合、1つのセルが発生する電圧は1V程度で、乾電池1個より低い電圧しか出ません。これでは通常の機器の電源にそのまま使うには低く過ぎます。乾電池と同じように直列にいくつかつないで電圧を上げる必要があります。同じ基板上にはじめから複数の太陽電池セルを直列接続したものを作り込むことがでれば、複数のセル同士を改めて接続する必要がありません。

 図37-1はこのような集積型薄膜太陽電池の断面構造の一例です(1)。透明基板の上に透明電極、半導体層、金属電極が積層されています。半導体層は詳細には挿入図のようにpin構造などになっています。

 図では横方向にA、B、Cの3セルが描かれていますが、セルの数は必要な出力電圧によって決められます。重要な点は1つのセル(例えばセルA)の金属電極は隣のセル(例えばセルB)の透明電極につないであることです。

 さてこのような構造をどのような方法で作るかをつぎに示します。トランジスタなどの集積回路ではフォトリソグラフィとエッチングを駆使して集積回路の構造を作りますが、太陽電池の場合は基板のサイズが大きいのでフォトリソグラフィを使おうとすると、露光設備などが大きくなり、コストが高くなってしまいます。

 幸いにして電極パターンは複雑でなく、直線的なパターンで十分です。そこで提案されたのはレーザを使って膜を焼き切るレーザスクライビングという方法です。レーザ光を集光して小さなスポットにし、膜に照射しながら動かします(走査すると言います)。照射部分の膜をレーザ光が吸収されて発生する高熱で焼き切ってしまう方法です(2)

 図37-2図37-1の構造を作る手順を示しています。

(a)ガラスなどの透明基板の表面に酸化スズなどの透明導電膜を着けます。この透明導電膜にレーザ光を照射し、照射領域内の透明導電膜を除去します。レーザは波長1.06μmのYAGレーザが使われます。この波長の光は透明導電膜に吸収され熱を発生します。

(b)透明導電膜は3つの部分に分割され、これが各セルの下部電極となります。

(c)(b)の表面に半導体層(例えばアモルファスシリコン膜のpin構造など)を成膜します。ついで半導体層にレーザ光を照射し、照射領域内の半導体層を除去します。レーザは波長0.51μmのアルゴンレーザに変えます。可視光はアモルファスシリコン膜によく吸収されますが、透明導電膜にはほとんど吸収されません。このため照射領域にある透明導電膜はレーザ光が当たっても損傷されることはなく、そのまま残ります。

(d)アモルファスシリコン膜は3つのセル部分に分割されます。

(e)(d)の状態の表面に裏面電極として例えばアルミニウムなどの金属層を着けます。

(f)アルミニウム層にレーザ光を照射し、照射領域内を除去します。。レーザは透明導電膜に用いたYAGレーザを再び使います。ただしアルミニウム膜は透明導電膜に比べて低温で溶けて蒸発しますので、レーザ光のパワーを透明導電膜の場合より小さくします。これでレーザ光がアモルファスシリコン膜や透明導電膜を傷つけることが防げます。

 以上の工程により裏面電極が隣のセルの透明導電膜につながり、かつ反対隣のセルとは分離された図37-1に示した構造が実現されます。基板表面全体への成膜とレーザ光を照射しながら必要なパターンになるように走査することの繰り返しだけで必要な構造を作ることができ、非常に簡単であることがわかると思います。

 このような集積構造が簡単にできることはシリコン系薄膜太陽電池の大きな特徴です。単結晶や多結晶の基板を使った太陽電池では基板が導電性であるため同じような構造にはできません。そこで普通はセル間を線でつなぐ方法がとられます。これについては後の項で触れることにします。

(1)特開昭57-12568号

(2)特開昭55-107276号