光デバイス/太陽電池
35.シリコン系薄膜太陽電池の接合構造
シリコン系薄膜太陽電池の構造の概要を前項で説明しましたが、薄膜太陽電池はその接合構造に特徴がありますので、ここではそれを取り上げます。
シリコン系薄膜という言い方で「系」という字を入れているのには訳があります。シリコンを主な成分とする薄膜の材料には、実はいろいろな種類があります。それらをまとめて一言で言うために「シリコン系」という語を使っています。
まずこれまでに紹介したように結晶を含む程度によって、アモルファス(非晶質)、微結晶、多結晶という種類があります。太陽電池としてみるとき、これらの材料の性質の違いのもっとも重要な点はバンドギャップ(光学ギャップ)の違いです。材料の選択によって太陽光のスペクトルのうち、どの部分を電気エネルギーに変換できるかが違います。大雑把に言えば、アモルファスがもっとも短波長の光の変換効率が高く、結晶成分が多いほど長い波長で変換効率が高くなります。
また、シリコン系にはシリコンとその他の元素を含むもの(多成分系)があります。シリコンと炭素は炭化珪素(シリコンカーバイド)と呼ばれる化合物を作ります。このSiC結晶は大きなバンドギャップをもつ半導体として知られていますが、アモルファスではSiとCの元素比が1対1でない材料も作れます。炭素が入る量が増えるほど、アモルファスシリコンより光学ギャップは大きくなります。
窒素を含むSiNもバンドギャップの大きい材料の一つです。SiとNはSi3N4という化合物を作りますが、これは絶縁体です。アモルファス状態では窒素の比率を減らすことができますが、窒素の含有率が小さいと半導体になります。
一方、シリコンとゲルマニウムを含むSiGeはアモルファスシリコンより光学ギャップが小さくなります。結晶のSiGeは普通あまり化合物とは考えられず、むしろ混晶と考えられ、元素比を変化させることができます。アモルファスの場合も元素比を変化させることができます。Ge結晶のバンドギャップはSiより小さいので、Geの比率が高いほど光学ギャップはアモルファスシリコンより小さくなります。
このような材料が具体的にどのように使われるかというと、SiCは光学ギャップが大きいので、太陽光が入射する側の層に使います。図35-1のようなpin構造の場合で、ガラス基板側から太陽光を入射させる場合には、透明電極Tの上にp型アモルファスSiC膜、つぎにi型アモルファスSi膜、つぎにn型アモルファスSi膜の順で積層しています(1)。この場合、p型層での吸収が減り、i型層まで光が入りやすくなるため、変換効率が上がることが期待されます。光の入射側に配置するバンドギャップ(光学ギャップ)の大きい層を光を取り込みやすい層という意味で窓層(ウィンドウ層)と呼ぶことがあります。
SiGeの場合は逆に光学ギャップが小さいので、i型層に用いるとSi膜よりも長波長側の光をよく吸収するようになることが期待されます。図35-2は透明電極の上にp型アモルファスSi膜、その上にi型アモルファスSiGe膜、その上にn型アモルファスSi膜を着けた例です(2)。この場合にp型層をSiC膜にすることもできます。
以上は基本的な考え方を示したものですが、異種材料間の接合を利用したヘテロ接合太陽電池の一種と言えます。なお、非晶質SiCとか非晶質SiGeとかはやはり単元素のアモルファスSiより作るのが難しく、膜中や界面の欠陥などのために期待するほど特性が改善されない場合も多いようです。
以上はpin接合が一つの場合でしたが、pin接合を2つとか3つとか積層するという考え方もあります。これを積層型とかタンデム型などと呼びます。
図35-3(a)は3つのpin構造を重ねた例です(3)。基板側の第1セルのp層とi層はSiC層で、全体の窓層の役割を持ちます。n層はSi層です。真ん中の第2セルのp、i、n層はいずれもSi層です。上部の第3セルはi層とn層はSiSn層が使われています。SiSnはSiGeと同様にSiより光学ギャップが小さい材料として知られています。第1、第2セルを透過した波長の長い光の成分を吸収します。
各i層の光吸収波長は同図(b)のスペクトル(正確なデータではなく、大まかな様子を示すイメージ図です)に示されているようにずれていますので、広い波長範囲の可視光を光電変換できると期待されます。ただ問題もあります。同図(c)はこの積層構造の両電極が同電位(短絡)の場合のエネルギーバンド図(これもイメージ図です)です。各セルのpinとpinを重ねると、その境ではnp接合ができてしまうので、各セルの間はセル内と逆方向の接合になり、どうしても障壁ができます。これによって光電変換によって生じた電子、正孔が堰き止められてしまうので、電流が流れにくくなってしまうという問題があります。この問題の解決については同図(a)に示すように各セル間にn型シリコン層を中間層として設けるなどいろいろな手段が考えられています。その詳細についてはここでは省略します。
(1)特開昭56-64476号
(2)特開昭61-232675号
(3)特開昭58-122783号