光デバイス/太陽電池

34.シリコン系薄膜太陽電池

 アモルファスシリコンや微結晶シリコンの薄膜を用いた太陽電池の基本的な構造は図34-1に示すように結晶系太陽電池とは少し異なります。もっとも違うのは基板です。結晶系太陽電池は単結晶または多結晶のウェハを基板とし、表面に不純物を拡散してpn接合を形成します。

 これに対して薄膜太陽電池はガラスまたはプラスチックなどの透明な絶縁体を基板にすることが一般的です。そしてその基板の上に透明な電極を設け、基板側から太陽光を入射する構造がほぼ定番となっています。これは結晶系の基板を使うタイプではできない構造です。

 さらにこの上にシリコンの薄膜を着け、光電変換を行う太陽電池の心臓部はすべて薄膜によって構成されます。このためp型、n型の伝導型は拡散ではなく、成膜原料そのものに別々に不純物を入れて作ります。そしてp型とn型の薄膜を積層してpn接合を作ります。これは結晶系でもエピタキシャル成長技術を使えば可能で、後で出てくる化合物半導体太陽電池の場合に使われますが、シリコン結晶系ではコストの点で不利なためあまり使われません。

 基板にガラスやプラスチックを使うと結晶基板を使うよりずっとコストが安くなります。また結晶基板に比べて面積の大きいものが得られるという特徴があります。太陽電池にとっては大面積のものが作れることは大きな強みになります。このような透明基板、透明電極を使う構造は薄膜シリコン系太陽電池ではほとんど初めから考えられていたようです(1)

 透明電極の材料としては酸化スズ(SnO)や酸化インジウム・スズ(ITO)などがよく知られています。酸化亜鉛(ZnO)を使うこともあります。

 アモルファス(非晶質)シリコン膜、あるいは微結晶シリコン膜は3層のpin構造とすることが多いです。上にも書いたようにp層を成膜するときには初めから硼素(ボロン)などのp型不純物となる原料を加えて成膜します。n層も同様にリンなどの原料を加えて成膜します。i層は不純物原料を加えずに成膜した層です。i層のないpn接合でも太陽電池として動作はしますが、pin構造にした方が変換効率を高くできます。拡散でpn接合を作る結晶系では作りにくい構造です。

 アモルファスシリコン層の上には電極層を着けます。光は基板側から入れますから、上部の電極層は光を通さない金属電極で構いません。さらに全体を覆う保護膜(絶縁膜)を着けます。これは半導体層を空気中に剥き出しにしておくと特性が悪くなるので、それを防ぐ目的の保護膜です。

 薄膜太陽電池は大きな面積にできるので有利なのですが、実際にはべったりと大きな電極を着けると、電極の電気抵抗もゼロではないので、その抵抗によって変換効率が低下してしまいます。また大きな面積のどこか1点に欠陥があると全体がだめになってしまうこともあります。

 それから太陽電池の1つのセルが出力する電圧は1V程度に過ぎません。これでは使いにくいのでセルをいくつか直列につないで電圧を高くすることがよく行われます。結晶系では基板間を配線でつなぐ方法がとられますが、薄膜太陽電池なら1つの基板上にいくつか複数のセルを作り、これを一体に作った電極のパターンによって直列接続することができます(2)。これによって一つの基板から太陽電池セル数個分を加えた電圧を取り出すことができます。

 このような同一基板上の複数の太陽電池を直列につないだ太陽電池を集積型太陽電池と呼ぶことがあります。これについては製法を含めて後の項で取り上げます。

 結晶系太陽電池では別々の基板上に作った個々のセルを外部配線で直列や並列につなぐのが普通です。これは太陽電池モジュールと呼ぶことがあります。これについても後の項で取り上げます。

(1)特開昭52-16990号

(2)特開昭55-123177号