光デバイス/太陽電池

32.シリコン薄膜の作り方(その2):微結晶シリコン

 前項では、プラズマCVD法によるアモルファスシリコン薄膜の作り方を紹介しました。このアモルファスシリコン薄膜を使った太陽電池は普通、ガラスやプラスチックの基板の上に作るので、単結晶シリコンや多結晶シリコンの基板を使わないで済みます。このためシリコンの資源節約になります。

 もっともシリコンという元素は地球の岩石の主成分ですからほとんど無尽蔵にあります。レアメタルなどとは違って資源自体が枯渇することはあり得ません。しかし主として酸化物になったシリコンから単結晶や多結晶のシリコン基板を作るためには多くのエネルギーが必要です。資源そのものよりもこのエネルギーを節約できるということが重要と思われます。

 このようにアモルファスシリコン薄膜を使った太陽電池への期待は大きいのですが、欠点もあります。前にも触れたように結晶シリコン太陽電池に比べると変換効率が低いという問題があります。さらにこの変換効率は使っているうちにさらに下がってしまう光劣化という問題もあります。

 この光劣化はシリコンの結合手の空いたところが、光を当てているうちに増えてしまうために起こるとされていますが、どうしてそうなるのかはあまりはっきりしていません。しかしこの光劣化を少なくするのに、微小な結晶の粒を含むシリコン膜がいいことがわかっています。

 これを微結晶シリコン薄膜と言いますが、膜全体が微結晶で占められているわけではなく、アモルファスシリコンの中に小さな結晶の部分が混じっているというイメージのものです。

 この微結晶シリコン薄膜はどのような方法で作ることができるかというと、基本的な方法はアモルファスシリコンと同じプラズマCVDです。ただ原料ガスのSiHを数十倍の水素で薄めるところだけが違っています(1)。アモルファスシリコン膜を作る場合はせいぜい同じ量のSiHとHを混ぜる程度か場合によってはSiH、100%でしたので、この条件が違っています。成膜時の基板温度は300℃程度でアモルファスシリコンの場合と同じように低い温度で成膜が可能です。

 どうして原料を薄めると微結晶ができるのかというと、要は分解したSi原子がゆっくりと降り積もるので、きちんと並ぶ時間があるということのようです。逆にSi原子が次々とやってきて積み重なると来た位置から動けず、でたらめな位置に留まってしまい、アモルファスになってしまうと想像できます。

 得られる微結晶の大きさは数nmから50nm程度と非常に小さいものです。しかしX線回折法によれば結晶が存在していることが確認できます。この微結晶を含んだ膜の光吸収特性はアモルファス膜とあまり変わりません。アモルファスシリコンの光吸収波長は単結晶よりも太陽光に合っているので、それがあまり変わらないのは好都合です。

 一方、電気的特性が結晶シリコンに近づく傾向があります。電子移動度がアモルファスの場合より大きくなり、またドーピングをするとより抵抗の低い膜ができます。

 なお、後になって微結晶シリコン膜は光劣化が改善するという効果もあることがわかってきました。製造装置を変える必要もなく、特性は良くなるわけですから、現在の薄膜シリコン太陽電池の多くは微結晶を含むものになっていると思われます。

(1)特開昭57-67020号

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