光デバイス/太陽電池

31.シリコン薄膜の作り方(その1):アモルファスシリコン

 前項でアモルファスシリコンとはどんなものかについて話をしましたので、続いてアモルファスシリコンの作り方について紹介します。

 なお、太陽電池に使われる薄膜のシリコンはアモルファスだけでなく、微結晶とか多結晶の薄膜もあります。これらの作り方は共通部分が多いので、以降ではこれらすべてを含めてシリコン薄膜の作り方をそれぞれ分けて紹介します。

 ただのシリコン薄膜であれば、スパッタリング法とか蒸着法などの物理的手段により作ることができますが、水素化したものとなると、化学反応を利用する化学的気相成長(CVD)法の方が有利で、水素化アモルファスシリコン薄膜を作るには当初からモノシラン(SiH)を原料としたCVD法が用いられています。

 モノシランはシリコンの水素化合物ですから、これを分解してシリコンを堆積させるようにすれば、水素を含みやすくなります。このモノシランはガスですが、空気中に放出すると自然発火することが知られています。つまりとても酸化されやすく、酸素があるとシリコンはSiOになってしまいます。

 このため、シリコン薄膜を得るためには、酸素がない状態でSiHから水素を取り去る必要があります。これは加熱するだけでも可能です。ただし500℃以上の加熱が必要です。この熱による分解を利用するのが熱CVDと呼ばれる方法です。

 もっと低温でモノシランを分解させる方法があります。大気圧の1/100くらいの低い圧力になるようにモノシランガスを容器に入れ、高周波電圧をかけると容器の中がボウっとピンク色の光を出し放電が起きます。このような放電をグロー放電といいます。

 この放電が起きるのは、何かのきっかけでガスの分子がイオンと電子に分かれたとすると、それらは電界によってそれぞれ加速され、他の分子に衝突します。するとこの分子もエネルギーをもらってイオンと電子に別れます。これが繰り返されて、多くの電子とイオンが分離した状態ができます。放電はこのような状態ができて気体中に電流が流れるようになって起こります。この状態はプラズマと呼ばれています。

 モノシランを放電させると、100~300℃程度の低い温度で分解し、シリコンが堆積します。それは多くの場合、水素が添加されたアモルファス状態のシリコンになります。この成膜方法をプラズマCVD法と呼んでいます。

 プラズマCVDによる水素化アモルファスシリコン薄膜の形成は、アメリカのRCA社によってもっとも早く行われたと思われます(1)。アメリカでの最初の特許出願は1975年です。

 装置は図31-1のように簡単なものです。ガラス製の真空容器は配管を通して真空に引けるようになっていて、他の配管から原料ガスが供給されます。基板を加熱板上に置きます。容器中を一旦真空にした後、モノシランガスを入れ適当な圧力に調整した後、陽極と基板(または加熱板)の間に電源から電圧をかけると放電が起きます。電圧は高周波がよく使われます。このとき陽極をプラス電位になるようにバイアスしておくと、基板上にシリコンイオンが引きつけられて堆積します。

 n型層が必要な場合はモノシランにリンの水素化合物であるフォスフィン(PH)を混ぜます。p型層が必要な場合は硼素(ボロン)の水素化合物であるジボラン(B)などを混ぜます。なお、これらのガスは生のまま使うより、水素で薄めて使うのが普通です。これらの原料ガスを切り換えて容器中に送れば、pin構造など多層構造を作ることができ、太陽電池が作れます。

 高周波を使って放電を起こさせるには図31-1のような対向電極に電圧をかける方法のほかに図31-2のように真空容器の外に置いたコイルに高周波電流を流し、その誘導で容器内に放電を起こさせる方法もあります(2)。放電用の電極が原料ガスに触れなくてすむので、無用な不純物の混入が避けられるという利点があります。なお原料ガスとしてはジシラン(Si)も使え、その方が膜を早く堆積できるとされています。

 このようなプラズマCVDを用いて水素化アモルファスシリコン膜を作る方法は、n型、p型の作製を含めて1980年代前半には確立し、標準的な方法となりました。

 さらに大量生産に向けて、p層、i層、n層を連続して成膜できるような装置も開発されています。上の例のような真空室が1つだけの装置の場合は同じ部屋に別の原料ガスを切り換えて流さなければなりませんが、前のガスが残っていると不要な不純物となってしまいます。

 そこで図31-3のように、各層を別の部屋で成膜できるようにし、各成膜が済んだ基板を次々に隣の部屋に運べるようにした装置が考案されています(3)。第1反応室でp型層を成膜したのち、第1反応室と第2反応室を真空にし、シャッタを開けて、コンベアに載った基板を第2反応室に搬入します。ここでi層を成膜した後、同じように第3反応室に搬送してn型層を成膜します。こうすれば各部屋にはいつも同じ原料ガスしか流れず、他の部屋の原料ガスが混じり込んで汚される恐れは少なくなります。なお、第1反応室へ基板を搬入する機構や第3反応室から成膜後の基板を搬出する機構などがさらに必要ですが、図では省略しています。

 成膜装置はこの他にもいろいろな工夫がされ、特許も1980年代に多く出願されていますが、プラズマCVDとしての基本は以上の通りです。

 このプラズマCVDは、放電によって電荷をもった粒子を加速して衝突させ、そのエネルギーでモノシランなどの原料を分解しますが、この原料を分解するための手段は放電しかないわけではありません。モノシランは紫外線が当たると分解するので、これを利用することもできます。この方法は光CVDと呼ばれています(4)

 放電で電荷を帯びた粒子を加速させると、粒子は激しく基板にぶつかるので、折角できた膜を傷つけてしまうことがあります。光を使えば粒子は加速されることがないので、そのような心配はなくなるという利点があります。

 一方、光CVDの難点は膜ができる速度が遅いことです。そこで放電と光の両方を使うことも提案されていますが、光CVDはこの欠点から今ひとつ広く使われるに至っていません。

(1)米国特許US4064521号(対応日本出願は特開昭52-16990号)

(2)米国特許US4363828号(特開昭56-83926号)

(3)特開昭56-114387号

(4)特開昭59-190209号