光デバイス/太陽電池
28.多結晶シリコンシートの作り方
前項ではソーラーグレードシリコン(SoG-Si)原料をインゴット(塊)の形にする方法を調べました。これを太陽電池にするには薄くスライスしてウェハにします。固いシリコンを切るにはさらに固いダイヤモンドの刃を使い、その後表面を研磨して平坦にします。ウェハの厚みは300μmくらいまで薄くなります。実際に太陽電池として必要な接合部分は数10μmもあればよいのですが、そんなに薄く切ることはできません。この切断と研磨のときに切り屑、削り屑がたくさん出てこれが無駄になります。
このような無駄を減らすために切断や研磨をしなくて済む方法がいろいろ検討されてきました。もちろん薄膜を成長させる方法はありますが、ここでは融かしたSoG-Siから薄いシートを作る方法を紹介します。このシート状の結晶はリボン結晶とも言われます。
最初にこのような形の結晶を作る方法を提案したのはアメリカのタイコ・ラボラトリーズ社です(1)。アメリカでの特許出願は1968年とかなり早い時期になされています。
この方法は一言で言うと、狭い管のようなところに融けた原料を通した後、結晶化させるという原理としては簡単なものです。細い丸管を通せば、ひも状の結晶が得られ、狭い隙間を通せば、シート(リボン)状の結晶が得られるといった具合です。
図28-1が装置全体を示しています。全体は二重になった石英管4、6で、管の中は真空または不活性ガスが入れられ、二重管の間に冷却水が流せるようになっています。高周波コイル30で加熱できる部分にルツボ46が固定されます。上側の34は引張機構で金属棒36の先に付けた種結晶38をルツボからゆっくり引き上げるようになっています。
ルツボの詳細は図28-2に示されています。原材料の融液66のなかに形状付与部材56と言われるものが置かれています。これに細い管62が開けられていて下側にある孔63から融液が入り、毛細管現象で上に上がってきます。一番上で種結晶に触れ、ゆっくり冷却されながら引き上げられると、管62の形に従った結晶ができてきます。この方法はEFG(Edge Difined Film Growth )法と呼ばれ、リボン結晶を作る典型的な方法となっています。
実は最初はアルミナなど酸化物結晶の製法が対象となっていて、シリコンは少し後になってから取り組まれたようです(2)。厚さが300μm程度でかなり単結晶に近いSiができています。この時点では特許の出願人がモービル・タイコ・ソーラー・エナジー社に変わっています。この会社からは太陽電池についても複数の特許が出願されていて(3)、太陽電池の開発が新たな合弁会社によって始められたことがわかります。
もう一つ別の方法を紹介しておきます。これも原理は簡単ですが、こんな方法で本当にシリコンのシートができるのか不思議になるような変わった方法です。この方法は一言で言うと、シャボン玉の原理です。セッケン水に2本の割り箸を差し込み、引き上げると箸の間に薄いセッケン水の膜ができることがあります。これはセッケン水の表面張力によるものですが、この方法はこれとまったく同じ原理によっています。
この方法も最初はアメリカで考案されています。発明者はエマニュエル・M・サックスという人で、アメリカで1980年に最初の特許出願がされています(4)。たくさんの図面を使って詳しい説明がなされていますが、説明するのに適した図が選びにくいので、ずっと後になって、この方法を使って太陽電池を開発したエバーグリーン・ソーラー社の特許(5)の図面を示します(図28-3)。
平たいルツボ12にシリコンの溶融物14を入れます。ルツボの底には小さな孔が2つあってそこを通してグラファイトのストリング(ひも)16を平行に上に引き上げます。するとこのストリングの間にシート状の多結晶シリコンができるという簡単なものです。
EFG法は融液が管に接しているので、ここから不純物が混入しやすいといういつもながらの欠点がありますが、この方法では両端のひもに接しているだけなので、不純物が入りにくいという特徴があります。基本的にはゾーン・メルティング法と同じように不純物は融液中に残りますが、融液中の不純物が再度混入するのを避けるために、融液に磁界をかけて流動させ、不純物を結晶成長部分から遠ざけるなどの手段もとれるようですが、実際にはかなり手のこんだ装置になります(4)。
シリコン結晶は原子同士が共有結合しているため結合がかなり強く、意外に脆くない材料です。このためかなり薄いリボン状の結晶が得られます。
(1)特公昭48-27593号
(2)特開昭52-71170号
(3)例えば特開昭52-119089号
(4)特開昭56-125297号
(5)特表2002-543038号