光デバイス/太陽電池
27.多結晶シリコンインゴットの作り方
前項まで3回にわたってソーラーグレードシリコン(SoG-Si)の作り方を調べてきました。しかしこれらは6N、7Nの高純度シリコン材料の製法であって、つぎにこれを原材料にして太陽電池を作る工程が必要になってきます。その第一歩が基板(ウェハ)の準備です。
多結晶シリコン太陽電池の場合も単結晶シリコン太陽電池と同じようにシリコンの塊からウェハを切り出して基板にすることができます。この塊のことをインゴット(ingot)と言うことがあります。これは冶金の分野で使う専門用語のようです。
融けたシリコンを型に流し込んで固めインゴットにします。この方法を一般にキャスト法と言います。キャスト(cast)とは一般には「投げる」という意味ですが、冶金用語では「鋳造する」、つまり「鋳型をとる」という意味になります。
SoG-Siの作り方の2番目、冶金学的方法のところで触れましたが、型に流し込んだ後、一部分から順に固めていくことによって不純物を除去することができます。しかし型を使うことの問題点は型の成分が不純物として混入しやすいことです。これを防ぐ方法として最初は金属を融かすために開発された方法を紹介しておきます。
この方法の特徴は普通のヒータによる加熱を使わず、電磁誘導による加熱を使います。電子レンジを想像していただくとわかりやすいと思いますが、陶器のカップに水を入れて電子レンジで加熱すると水だけが加熱されて、カップは加熱されません。時間が経つとカップも熱くなってきますが、これは加熱されてお湯になった水から熱が伝わったのであってカップが直接加熱されたわけではありません。電磁誘導なら中身だけが加熱され、容器は加熱されないので、容器から不純物が溶け出しにくいことになります。
同じ電磁誘導でも水の加熱と金属の加熱は少し原理がちがいます。電子レンジは水分子と共鳴する周波数のマイクロ波によって水分子だけを振動させて加熱しますが、金属の場合はもっと低い周波数を使い、導体である金属に誘導電流を流すことによって加熱します。
金属製のるつぼを使うとるつぼにも誘導電流が流れ、この電流と金属中を流れる電流の反発力によって融けた金属がるつぼから浮いたような状態になります。またるつぼから熱を伝えるわけではないので、るつぼは冷やしておくことができます。
このような電磁誘導をシリコン用に応用した装置の例を図27-1に示します(1)。装置全体はアルゴンなどの不活性ガスを流した密閉容器1に入れられています。銅でできた底の抜けたるつぼ6の周りに加熱用の誘導コイル7が巻かれています。るつぼ自身は水冷され、内容物のシリコンだけが加熱されるようになっています。
最初は固体のシリコンを用意してるつぼの底を塞いでおかなければなりませんが、図はすでにシリコンができ始めている状態を示しています。溶融シリコン13に上から次々に粒状のシリコン原料8(これがSoG-Si)を供給し、次々に融かしていきます。
るつぼ6の下から出るとシリコンは冷えて固まり始めますが、急に冷えると欠陥が多くなってしまうので、るつぼの下にもヒータなどの加熱手段24を用意して徐々に温度が下がるようにしてあります。
14は固まったシリコンを支えながら下に引き出す装置です。このような装置によってるつぼから不純物が入らないように融かしたシリコンを下の部分から徐々に固まらせながら連続的に引き出すことができ、高純度を保った状態で多結晶のインゴットを得ることができます。これを薄くスライスして研磨すると表面が滑らかなシリコンウェハを作ることができます。
単結晶シリコンの製法のところで紹介したるつぼをまったく用いないFZ法はよく似ていますが、融かす部分の上側に固まった固体がないといけないので、粒状の原料の場合は使えません。
また単結晶シリコンの製法である引き上げ法のところでは触れませんでしたが、るつぼを使う引き上げ法に電磁誘導による加熱を応用し、るつぼからの不純物の混入を防ぐことも行われています。単結晶でも多結晶でも純度を高める手段は共通で、互いに似たような方法がいろいろ考えられています。
(1)特開平2-30698号