光デバイス/太陽電池

23.ソーラーグレードシリコン(SoG-Si)

 前項まで見てきた単結晶シリコン太陽電池は理想に近い性能を得ることができるようになってきています。しかし単結晶成長の代表的方法であるFZ法やCZ法は温度の管理などが非常に厳しく、また長時間が必要なため、装置や投入するエネルギー(加熱のための電力など)に多くのコストがかかります。また、エネルギーを得るための太陽電池の材料を用意するのに大量のエネルギーを必要とするのでは困ります。

 とくに太陽電池は完成するまでのコストに占める材料費の割合が高いという特徴があります。例えばパソコンの心臓部であるマイクロプロセッサはもっとも複雑な集積回路(LSI)ですが、1cm位の面積のシリコンチップに何10万個というトランジスタが詰め込まれています。この集積する数を増やせば、シリコンチップの大きさを変えずに性能を向上させることができます。この回路設計と集積回路の作製のための装置に多くのコストがかかりますから、シリコンチップの材料費の割合は非常に純度の高い単結晶を使ったとしてもそれほど高くはなりません。

 それに比べると太陽電池は太陽光を受光できる面積で発電量が決まりますから、どうしても面積を大きくする必要があります。デバイスとしては単純なpn接合と電極があればよいので、設計、製作にあまりコストがかかりません。どうしてもシリコン基板の材料費の割合が高くなります。

 このような理由から、太陽電池の材料はできるだけ少ないコストで生産できるものが必要になります。ある発電量を得るために必要な面積の太陽電池が全体として安くできればよいので、多少、変換効率は犠牲にできるわけです。そこで出てきたのがソーラーグレードシリコン(Solar-grade silicon略してSoG-Si、日本語では太陽電池級シリコン)です。これに対して、LSIなどの電子デバイスに使われるシリコンは半導体グレードシリコン(Semiconductor-grade silicon、SeG-Si)と呼ばれます。

 このようなデバイスに使うシリコンは純度が非常に高くなければなりませんが、そのようなシリコンの原材料は二酸化シリコンです。鉱物資源の名前で言うと珪石が使われます。酸化物ですから、これを化学的に還元してシリコンにします。さらに不純物を取り除きますが、化学的な精製では90数%程度の純度しか得られず、このレベルでは到底半導体デバイスには使えません。このレベルのシリコンを金属グレードシリコン(Metallurgical-grade silicon、MG-Si)と呼んでいます。

 SeG-SiとSoG-Siはどのくらい違うのかというと、SeG-Siの純度は11N(イレブンナイン)、SoG-Siは6~7N(シックスナイン~セブンナイン)とされています。この11Nとはどういう意味かというと、純度99.999999999%ということです。つまり9が11個並んでいるということで、99%で2つ使っていますから小数点以下9桁の9が並ぶことを意味します。不純物は0.000000001%しかないというとてつもない純度です。SoG-Siでも6Nなら99.9999%(不純物は0.0001%)ですから、相当な高純度です。しかしSeG-Siに比べると5桁、つまり10万倍も不純物が入っていることになります。

 もう少し具体的な数字で考えてみましょう。いま1cmのシリコン中にどれくらいのシリコン原子があるかを考えてみます。シリコンの原子量は28です。ということはシリコン28gが1モルですから、その中にシリコン原子がアボガドロ数の6.02×1023個あるということになります。シリコン結晶の密度がどのくらいか調べてみると、2.4g/cmです。つまり1cmのシリコンは0.086モルであり、その中には5.2×1022個の原子があることになります。

 それでは6Nの純度のシリコン中にどれだけの不純物があるでしょうか。ここで注意しなければいけないのは、この純度6Nが原子数で表されているか、重さで表されているかどちらかをはっきりさせなければいけないということです。原子数で表されているならば、シリコン原子999999個に対して不純物原子が1個ということになります。ところが重さで表されている場合には不純物原子の種類によって入っている原子数が変わります。シリコンのおよそ半分の重さの窒素が不純物である場合は窒素原子2個でシリコン原子1個分の重さしかありませんから、原子数は同じ6Nの純度でも2倍入っていることになります。シリコンより重い元素が不純物なら逆に不純物の原子数は少ないということになります。

 ここでは簡単のために6Nは原子数に対して示されているとしましょう。6Nのとき、不純物原子はシリコン原子の1/1000000ですから1cm中には5.2×1016個あることになります。

 ではなぜこのような純度が必要とされるのでしょうか。まず一つは半導体のデバイスにはp型、n型が必要とされ、pn接合が必要とされます。しかも外部からかける電圧でその接合部分が空乏層になったりするようにコントロールできる必要があります。このような状態を作るには適当な濃度の不純物を半導体中に入れてやる必要がありますが、元から不純物が多くては、後から添加する不純物の効果が出ません。それで最初は純度の高い状態を作っておく必要があるのです。

 通常のトランジスタなどでp型、n型を作るために添加する不純物の量は1018~1016cm-3程度です。はじめから入っている不純物が1016個台ならまあ何とかなるというレベルです。しかし問題はこれだけではありません。太陽電池の変換効率は鉄などの金属が不純物として入った場合1016/cm程度でも半分近くに減ってしまうということが知られています。これは光によって発生した電子・正孔がこのような不純物と衝突すると消滅してしまい、外部にエネルギーとして取り出せなくなってしまうためです。

 このことはトランジスタなどのデバイスでは電子が十分に走行してくれないということになるので、非常に問題になります。このためSeG-Siではさらに何桁もの高純度が要求されるのです。しかし太陽電池ではまあこの程度、6~7Nで何とか許せるということで、SoG-Siの純度が決まっています。