光デバイス/太陽電池
24.SoG-Siの作り方(その1)
太陽電池にはトランジスタや集積回路用ほど純度の高くないソーラーグレードシリコン(SoG-Si)で十分であるということがわかりましたが、このSoG-Siを作るにはどのような方法があるかを調べてみます。
SoG-Siと言えども、6N、7Nですから通常の化学製品としては極めて純度の高いものになります。しかも太陽電池用としては安く大量に生産できる必要があるということでいろいろな方法が研究されてきました。
そのなかでドイツのシーメンス社が1950年代という早い時期に開発した方法が、その後改良され今も代表的な方法として使われています。この方法は化学反応によりシリコンを析出させるCVD法のような方法ですが、一般にシーメンス法と呼ばれています。
シーメンス法に関するもっとも早い時期の特許として、1956年にドイツに出願された「電子技術用の純粋な半導体を得る装置」(1)があります(これが最初という確証はありません)。図24-1はこの特許に掲載されている装置図です。簡単に説明します。
Siを合成するのは容器9の中です。この容器9は石英製の透明鐘体と書かれています。鐘体とは変な言葉ですが、このような鐘を伏せたような気密容器をベルジャーと言うので、その訳でしょう。欧米のベルの形から来ていると思いますが、日本の鐘の方が形としては似ています。
さてそのベルジャー内に2本の棒1a、1bが立っていますが、これはSi製の心棒でこの周りにSiを付着させます。心棒はSiを付着させるためだけなら1本でもよいのですが、この装置ではこのSi棒に電流を流せるようにしています。2本の棒の上端を導体(グラファイト)6で接続し、下端を電源につないでいます。
これでSi棒に電流を流すとSi棒自身の抵抗によって熱が発生し、Si棒が加熱されます。1100℃から1200℃に加熱するとされていますから、相当な高温です。ここで利用される化学反応に必要な温度がこのような高温であるということです。Si棒は直径3mm、長さ50cmと非常に細いものですが、このような1000℃を越える温度にしても変形しないとされています。
Siの原料は四塩化珪素(SiCl4)あるいはトリメチルシラン(SiHCl3)などの液体で、これに水素を通しガスとしてベルジャに導入します。図24-1では原料の導入経路については省略されていますので、少し後の特許(2)の図面を引用しておきます(図24-2)。ベルジャー内については図24-1とまったく同じであることがわかります。
ボンベ1には水素が入っています。この後に6、11、15といろいろなものが描かれていますが、これらはいずれも水素ガスを純化する仕組みです。ここでは個別に説明することは省略します。液体原料のSiHCl3は矩形で示された気化器20に入っています。気化器ですから液体原料はここで予め気化され、水素ガスと混合されます。その後、導入管21を通ってベルジャ内にノズル22から噴射されることになります。
このSiの塩素化合物は高温で水素と反応し、Siが遊離してSi棒に付着します。塩素は水素と反応して塩化水素になり排出されます。
ところでSiの原料は前回も触れたように珪石などSiO2を主な成分とする天然の鉱石です。このため不純物を多く含んでいます。この珪石に炭素(コークスなど)を混ぜて高温で焼くと還元反応が起きて、Siができます。ただしこれは金属グレード(MG-Si)で純度はせいぜい90数%です。
最初の心棒もそうですが、原料液体のSiCl4やSiHCl3もこのMG-Siを使って作ることになります。MG-SiとHClを高温で反応させます。液体材料は蒸留と同じような原理で精製し純度を上げることができます。またこの塩化物を還元して純度の高い金属を得る方法は冶金技術ではよく用いられる技術です。
心棒も新たにできたSiを使えば純度が上がり、それを繰り返せば純度がさらに上がっていきます。液体原料も同様にして純度の高いSiを原料にして作り、精製することによって純度が向上します。このような繰り返しで、6N、7Nの多結晶Siの棒が作られます。これがシーメンス法です。
シーメンス社ではこのSi棒を使ってFZ法を開発し、超高純度Si(11N)を作ることに成功しました。SoG-Siはその前段階でできるもので、太陽電池にはこれを直接用いることができます。
(1)特公昭35-2982号
(2)特公昭37-12101号