光デバイス/太陽電池

18.シリコン単結晶の作り方(その1):基本的な考え方

 単結晶シリコン太陽電池を実現するためには、何と言ってもシリコンの単結晶を作る技術が重要です。もちろん太陽電池以外のシリコンを使うデバイスにとってもこれは重要ですが、とりわけ太陽電池の場合は大面積であるほど有利ですから、大型で良質の結晶を作る技術が重要になります。そこで現在、太陽電池に使われているシリコンの単結晶がどのような方法で作られているか調べてみましょう。

 基本的に原子というものは温度が下がって自由に動けなくなったときには、規則正しく整列した状態に落ち着こうとします。この性質がないと、単結晶を作るのは恐らく不可能でしょう。結晶を人が作るためには、このような性質の通りにことが運ぶように条件を整えてやるようにすればよいと言えます。

 整列した状態に原子を落ち着かせるためには、その前の段階で原子を動きやすくしておき、徐々に一番いい位置に落ち着かせるという考え方をとります。原子が自由に動けるのは気体の状態になったときか、液体の状態になったときです。

 気体は原子の密度が薄いので、薄い膜状の結晶を作るときはいいのですが、ここで考えているような厚みのある大きな単結晶のような場合にはあまり向きません。液体状態でまず考えられるのは溶液です。単結晶にしたい物質を何かに溶かして液体状態にします。例えば塩、つまり塩化ナトリウムの結晶を作るには、濃い塩水、つまり塩化ナトリウムの水溶液を作り、これに種結晶を吊り下げるような方法が採られます。

 シリコンの場合は水にはもちろん溶けません。水以外の溶媒があればそれでもいいのですが、手軽に使えるものはなさそうです。そこでシリコンの場合は加熱してシリコン自体を融かしてしまう方法が採られます。融液の場合は溶媒が混ざることもありませんし、シリコンは単一元素ですから加熱によって分解してしまうといったような心配もありませんので、好都合です。

 高温で融けた状態から温度を下げていけば、あるところで固まって固体になりますが、そのときに原子が整列しようとしますので、温度をゆっくり下げて原子が落ち着き場所を見つける時間を与える必要があります。急に冷やしてしまうと原子はいい場所に落ち着く前に動けなくなってしまうので、結晶はできません。急冷は逆に結晶を作りたくないときに使われる手段です。

 もう一つ重要な点は、融けた融液は何か容器に入れてあるわけですが、この容器の中身全体の温度を下げると単結晶はできにくくなるということです。図18-1のように温度が下がってくると、容器中のどこかから結晶ができ始めますが、それは一箇所からとは限らず、いろいろな場所からでき始めます。

 そうするといろいろな場所から始まった結晶化が次第に容器中に広がったとき、違う出発点からできてきた結晶は原子の並ぶ方向がばらばらなので、よほど運がよくないとうまく繋がりません。つまり容器中に小さな結晶が詰まったような状態になります。これが多結晶と呼ばれる状態です。小さい一部を取り出せば単結晶になっているのですが、全体的にはたくさんの結晶の集まりのようになります。

 全体を一つの大きな単結晶にするには自然の力だけに頼っていてはだめで、人がいい条件を作ってやることが必要です。上記のようにいろいろな場所から結晶化がスタートしてはまずいので、どこか一箇所から結晶化が始まるように工夫するのが基本的な考え方です。

 具体的には2つの手段が考えられています。一つは容器全体の温度を下げるのではなく、どこか一箇所の温度を下げるようにする方法です。図18-2は容器の壁の一箇所を部分的に冷やす例ですが、上側の融液表面を冷やす方法もあります。こうするとその場所だけから結晶が成長し全体に広がりますから、全体が一つの結晶になりやすくなります。

 もう一つは図18-3のように種結晶を使う考え方です。小さな結晶を融液のどこかに漬けると、そこからだけ結晶が成長するので、これも全体が一つの結晶になりやくくなります。

 以上は原子の並びに乱れをなくすにはどうしたらよいかについてでしたが、半導体結晶の場合、もう一つ重要な点があります。それは不純物を少なくする、つまり純度の高い結晶が必要だという点です。半導体でデバイスを作る場合には、p型、n型という伝導型をもった材料が必要になります。これを作るためには微量の不純物を添加することが行われます。その量はppmのレベルですから、それ以上に素性のわからない不純物が含まれていてはなりません。このため、結晶成長の段階で純度が高くなるように工夫する必要があります。

 次項以降、上記の点を踏まえて開発された具体的なシリコン単結晶の作り方に注目していくことにします。