光デバイス/太陽電池

19.シリコン単結晶の作り方(その2):ゾーンメルティングとFZ法

 前項「その1」で、単結晶の成長の基本的な考え方として、どこか一箇所から結晶化が始まるように工夫する、具体的にはどこか一箇所の温度を下げるようにする方法があると書きました。

 このような方法をとると、融けた原料が端から徐々に固まっていきますが、そのとき原子には規則的に配列しようとする性質があるので結晶になります。ところでこの方法にはもう一ついいところがあります。

 原材料に含まれている不純物はできるだけ少なくした方がいいのは当然ですが、化学的な方法で準備される材料にはある程度の不純物が含まれるのを避けることはできません。ところがこの原料を融かしそれを冷やして一部を固まらせると、不純物は融けた部分に多く残る性質があります。このため結晶のなかの不純物が原材料より少なくなるという都合のよいことが起こります。半導体は不要な不純物を嫌い、非常に高純度な結晶を必要としますが、このような性質を利用すれば原料より純度を高い結晶を作ることができます。

 ところで実際の結晶成長を行う際には何も原料を全部融かしておく必要はありません。一部だけ融かしその融けた部分を移動させて結晶を作っていく方法がベル研究所のPfannという人によって発明されました。1951年に出願された米国特許(1)には詳しくこの方法の原理が説明されています。この方法のことをゾーンメルティング法またはゾーンメルト法、日本語では帯域溶融法などと言います。

 図19-1はこの方法で使う装置の概略図です。溶融石英などの管9のなかにグラファイトでできた型7を置き、その中に原料37を入れます。管には入口10と出口11があって管の中には水素などのガスを流します。管の外に置いた誘導コイル8を使って原料の斜線部分だけを融かし、このコイルを矢印の方向に移動させると融けた部分を移動させることができます。斜線部分のことをメルティングゾーンと呼びます。移動は一番左端から行い、図ではもう既に少しメルティングゾーンが移動した後が示されています。

 斜線部分より左側の部分は固まって結晶になった部分で、右側の部分がこれから融けることになります。いろいろな条件にも依りますが、不純物は融けたメルティングゾーンに多く集まり、固まった結晶中の不純物濃度はもともと原料に含まれていた不純物の濃度より低くなります。このため融けた部分を右端まで動かし終わると純度の高い結晶の棒(ロッド)ができます。

 しかしこの方法にも欠点があります。融けた原料は入れ物である型に触れているので、この型から不純物が溶け込みやすいのです。同じ発明者の後続の特許(2)にはこの問題を解決する方法が提案されています。それは型と原料の間に別の材料を挟む方法です。あるいは原料を完全に他の材料でくるんでしまう方法で、この方法のことをフローティングゾーン(FZ)法と呼んでいます。つまりメルティングゾーンを浮かしてしまうわけです。

 しかしこれでも原料の周りに他の物質が接していることに変わりはありません。そこでさらにこの考えを進めて周りに何も着けず空中に浮かしてしまう方法が考えられました。図19-2はドイツのシーメンス社の特許(3)の図面ですが、シリコンの結晶を作る装置を示しています。

 シリコンの原料(多結晶)のロッド6を用意し、これを吊り下げた状態で固定し回転させます。誘導コイル11で加熱してほんの狭い範囲を融かします。最初はロッドの一番下から融かし始めます。コイルをゆっくり上に移動させると純度の高いシリコン結晶が得られます。

 さらに工夫されている点があります。図19-3のようにロッド6の下に種結晶22を置いて融けた原料を受け止めるようにして種結晶から結晶が成長するようにします。融けたゾーン10が上に移動しても下側は種結晶で支えられているので、長いロッドがちぎれてしまうことはありません。

 図19-2では扉3が開いた状態が示されていますが、融解を行うときはもちろん装置は密閉し、ダクト4につながれた真空ポンプで装置内は真空にされます。このため外側から不純物が入るのを完全に防ぐことができます。

 このFZ法は現在、もっとも純度の高いシリコン結晶を作る方法として使われています。また詳しくは説明しませんが、特定の不純物は一様に含ませることもできるので、p型、n型のシリコンを作ることもできます。しかし太陽電池には必ずしもここまで質の高い結晶を使う必要はありません。そこでもう少し簡単に大きな結晶を作る方法も開発されています。それを次項で説明します。

(1)米国特許US2739088号

(2)米国特許US2875108号

(3)米国特許US3175891号