光デバイス/太陽電池

17.最初の単結晶シリコン太陽電池

 太陽電池の代表格というとやはり単結晶シリコンを使ったものということになると思います。そして太陽電池の開発の歴史をみても、最初から単結晶シリコンが使われています。

 太陽電池もまたアメリカのベル・テレフォン研究所から初めて発表されました。1954年のことです。半導体に光を当てると電流が流れることはこれより10年以上前に知られており、太陽エネルギーの変換に利用しようというアイデア自体もすでにあったようです。しかし実用的なデバイスが作られたのはこのときが初めてだったと思われます。

 最初の特許(1)の発明者はD.M.Chapin、C,S.Fuller、G.L.Pearsonの3名で、発明の名称が「太陽エネルギー変換装置」となっています。日本には出願されていないようです。

 シリコンの太陽電池がベル研究所で作られたのは偶然ではありません。当時はバイポーラトランジスタの開発が急ピッチで行われていた時期で、シリコン結晶に熱拡散によってpn接合を作る技術が確立しつつありました。太陽電池にも同じ技術が適用できたわけです。

 図17-1はこの特許の図面で、太陽電池の構造を示す断面図です。n型シリコン結晶12の周囲をp型シリコン層13が覆ってpn接合が作られています。p型不純物としてはホウ素(ボロン、B)が使われています。シリコン結晶をBClというホウ素を含むガス中で1000℃で熱してホウ素を拡散させています。

 このp型層の厚みは0.1ミルとされています。厚さの単位としてミル(mil)が使われていますが、これは日本では使われないヤード-ポンド法の単位で1/1000インチを示します。1インチは大体25mmですから1ミルは25μm、0.1ミルは2.5μmということになります。

 またこの層の抵抗率は0.001オーム・cmで、n型結晶の約1/100にしています。薄く抵抗率の低いp型層とすると、空乏層は主としてn型半導体側にできます。表面のp型層が薄いので、太陽光はn型側まで届き、空乏層付近に多くの電子-正孔対ができることになり、変換効率を向上させるのに好ましい構造と言えます。

 この太陽電池では太陽光は図の上側から当たりますので、これを遮らないように電極はすべて裏側に設けています。p型層を除去してn型結晶を露出させここにn側の電極17を着けます。またp型層の上にp側の電極18と19を着けます。

 その他、表面には反射防止層20として高分子膜あるいはSiO膜などを着けています。また電極間の半導体表面を露出させておくとそこを洩れ電流が流れる恐れがあるので、絶縁層21、22で埋めています。

 この太陽電池で変換効率は5%を越えたとされています。理想から言えばまだまだ小さい値ですが、実用的に太陽光のエネルギーを電力に変換できる可能性を示す値が得られたと言えます。

 この電極を裏側に集中させる構造は光を遮らないので、一見いいように思われますが、現在では使われていません。これはやはり電子-正孔対が発生する表面から電極までが遠いとその間で損失が起きるので、変換効率としては好ましくないためです。この特許にもあまりこの距離を長くすると損失が大きくなるので大きな面積のものは作れないということが記されています。またp型拡散層を基板の縁をまわって作るということも現在ではあまりありません。このような構造は信頼性上問題がありそうです。

 現在、よく使われている単結晶シリコン太陽電池の構造については追って紹介することにします。また単結晶シリコンを使った太陽電池のためには単結晶シリコンを準備しなければなりません。この単結晶シリコンを作る方法についても今後、調べていく予定です。

(1)米国特許US2780765号