光デバイス/太陽電池

4.太陽光のスペクトル

 太陽から地球には一定のエネルギーがやってきていて、その一部は地球に吸収され、最後には宇宙空間に放射されていくということを前項で説明しました。しかし太陽の光にどのような波長が含まれているか、つまりスペクトルについてはこれまで触れていませんでした。

 太陽光にはいろいろな波長というより、連続した波長成分の光が含まれています。各波長での光の強さを表したスペクトルは古くから測定されていて教科書などに図が載っています。しかしすぐ利用できる正確な数値は何を見たらいいのかよくわからなかったので、少し調べてみました。

 その結果、米国エネルギー省の再利用可能エネルギー研究所(略称:NREL)がウェブ上でデータを公開していることがわかりました。このデータはASTM(米国材料試験協会)が標準化しているものです。

 上記ページ下部の"Access the reference air mass 1.5 spectra."をクリックすると開く"Reference Air Mass 1.5 Spectra"と題するページにスペクトルのグラフが載っています。グラフの下の"Data Files"の項にある"Spreadsheet"をクリックするとエクセル形式のスペクトルの数表をダウンロードできます。その他、いろいろ調べることもできる貴重なサイトです。

 ところでここに記されているエアマス(Air Mass、AMと略記されることも多い)ですが、これは大気の条件を表示するものです。AMの後の数字が太陽光が地表に到達するまでに通過する大気の量(エアマス)を表します。AM0は大気を通過しない、つまり大気圏外での太陽光スペクトルを示します。AM1は地表に垂直に入射した場合のスペクトルです。大気は地球表面をほぼ一定の厚さで覆っていますが、垂直入射の場合、太陽光は最短距離で地表に到達しますから、通過する大気の量がもっとも少なくなります。

 いつもAM1のような状態であるのは赤道直下のような場所だけです。日本のような緯度が高い場所では太陽光が通過する大気の量はこれより多くなります。そこで通常は1.5倍のAM1.5を標準的な地表の太陽光スペクトルとして使っています。単純に計算すると地表に対して41.8°の角度で入射する場合に相当します。ただし上記のASTMのデータでは37°の場合をAM1.5としています。37°ではAM1.67くらいになってしまうと思いますが。

 さて、上記のサイトのページにはAM0、AM1.5に相当するデータが掲載されています。データは0.5~5nmの波長間隔で示されており、非常に刻みが細かいものです。ここではデータを間引いて大体の様子が掴めるグラフをAM0とAM1.5について作り直してみました。

 図4-1をみると太陽光は大体300nmから3000nm(3μm)くらいの広い波長範囲の光を含んでいることがわかります。そのうち特に400~700nmの範囲が可視光ですが、この辺りの強度が強くなっています。人間をはじめ地球上の動物はこの波長帯の感度が高い光検出機能(視覚)をもっていますが、そういう能力をもった種だけが生き残った(進化した)ということでしょう。

 一方、波長が300nmより短い紫外光はもともと太陽光にほとんど含まれていないことがわかります。反対に700nmより波長が長い赤外域の光は連続的なスペクトルとしてかなり尾を引くように3μmを越えるあたりまで含まれています。

 どうしてこのようなスペクトルになるのかについてはつぎのような説明がなされています。太陽(恒星)が光る大もとのエネルギーは水素の核融合です。水素が核融合すると波長が0.01nmより短いガンマ線と呼ばれる電磁波が出ます。このガンマ線が高温の太陽本体のなかで激しく運動している電子や原子と衝突し、次第にエネルギーの低い(波長の長い)光に変換されます。最終的に太陽の表面から出られるのは、可視光を中心とした光になります。途中経る過程が複雑でいろいろあるので、広がりをもったエネルギーの光になります。

 さて、この太陽光のスペクトルが大気を通過するとどういう影響を受けるかが重要です。紫外光から可視光までの短い波長域では大雑把にみると波長にあまり関係なく一様に強さが減っていると言えます。この波長域ではよく知られているように大気の上層にあるオゾン(O)の層による吸収が起き、地表に届く光が弱められます。紫外線は人間にとって有害ですから、このことは重要です。

 波長が700nmより長い赤外域では様相がだいぶ変わってきます。ある部分ではAM0とAM1.5はほとんど変化がなくなりますが、ある部分では地表に届く光がほとんど無いくらい弱くなっています。

 この弱められている波長範囲では大気中の特定の気体による吸収が起きています。特定の気体というのは主に水蒸気(HO)と炭酸ガス(CO)です。一部可視光の範囲の650nm付近から1400nmにかけての凹みはHOによるものです。ただし700nm付近の鋭い凹みは酸素(O)による吸収が含まれています。また200nm近くの吸収はCOによるものです。

 分子は複数の原子が電子を媒介にして結合してできていますが、この分子に特定の波長の光が入射すると、原子と原子の間で振動が起き、光が吸収されます。この場合、原子と原子の組み合わせによって決まった波長で吸収が起こります。この決まった波長以外では吸収は起きないので光はそのまま透過します。

 水蒸気や炭酸ガスは大気のなかでは非常に少ない割合でしか存在しません。大気の成分でもっとも多いのは窒素で約8割を占めていますが、この窒素の分子(N)は太陽光をほとんど吸収しません。これが地表で太陽光の恩恵を受けられる裏の理由になっていると思います。