光デバイス/太陽電池
3.地球のエネルギー収支
太陽から地球には長い間にわたってほとんど一定のエネルギーがやってきていることを前項で説明しました。そして地球の温度も長い間、ほとんど一定です。いま地球の温暖化が問題になっているのは、本来地球の温度が一定であることが人類はじめ地球上のすべての生物にとって必要だからです。逆に寒冷化することも問題です。
太陽から一定のエネルギーがやってきているのに地球の温度が一定であるのは、地球から入ってくるエネルギーと同じ量のエネルギーが出て行ってバランスしていることを示しています。入ってくるエネルギーの方が多ければ、どんどん温度は上がっていくはずですし、少なければ下がっていくはずです。
この地球上でのエネルギーのバランスをエネルギー収支(Energy budget)または熱収支と呼んでいます。入ってくるエネルギーは太陽光しかない(太陽以外からのエネルギーは無視できます)ので理解できますが、出て行く方はどうやって出て行っているのかイメージしにくいと思います。
このエネルギーの出入りを複雑にしているのが大気の存在です。大気が無ければ、太陽から入ってくるエネルギーは地球表面で反射される分と吸収される分に分けられるだけで、吸収された分すべてが放射されて宇宙空間に戻っていけば収支がバランスします。しかし間に大気というものが入っているので、大気と地球の間でエネルギーのやりとりが起こります。
このような地球のエネルギー収支を正確に求めたのはやはりNASAです。正確な測定には大気圏の外に出てデータを集める必要があり、人工衛星に測定器を積んで実験をしなければなりません。地球関係の研究はNASAのラングレー研究センターが行い、詳細なデータをウェブ上に公開しています。
データの掲載されているページを紹介しておきましょう。上記URLで開くトップページからRESEARCHのタブを選び、左側のメニューからRadiationを選びます。すると多数の研究プロジェクト名が出てきますので、下の方にあるERBE(Earth Radiation Budget Experiment)を選びます。開いたERBEのページの最初にあるBackgroundの説明のなかにあるRadiation budgetの文字をクリックするとEARTH'S EBERGY BUDGETというタイトルが付いた図面が表示されます。
この図はいろいろなところに引用されていますので、すでに見たことのある方もいらっしゃるでしょう。ここではこの図を中心に説明しますが、上記のサイトには詳しいデータも掲載されていますので、興味のある方はいろいろ探してみられることをお勧めします。
ここに掲載した図3-1は上記のウェブに公開されている図面を簡単に書き直したものです。これを使って説明します。
まず、図中には記号だけ書いたので、その説明を列挙します。原図では勿論、英文の説明がついています。記号の後の数字は%単位です。
S.入射太陽エネルギー、これを100%にしています。 A.大気によって反射される分:6% C.雲によって反射される分:20% D.地球表面で反射される分:4% R.雲と大気から宇宙空間に放射される分:64% B.大気に吸収される分:16% F.雲に吸収される分:3% G.熱伝導と上昇気流による分:7% H.水蒸気の潜熱(蒸発熱)によって雲と大気に運ばれる分:23% K.大気に吸収される地球からの放射分:15% E.地球から直接宇宙空間に放射される分:6% L.陸と海に吸収される分
入ってくるエネルギーSは出て行くエネルギーに等しくなければなりませんが、宇宙空間へ出て行く分はA、C、D、R,Eですから 6+20+4+64+6 でちゃんと100%になっていて収支は合っていることがわかります。
出て行く分の半分以上(64%)は大気と雲からの放射分(R)です。これは大きなエネルギーが大気に一旦は蓄積されることを示しており、これが温室効果です。大気は大気でエネルギー収支がバランスしていなければいけません。それを見てみましょう。
大気に入ってくるエネルギーはB、F、G、H、Kです。BとFは太陽光から直接大気に吸収される分で合わせて19%です。残りのG、H、Kは地球から出てくる分です。地球表面と大気は接触していますから熱が伝わります。これに対流による分も含めたのがGです。Hは海など地表の水が蒸発して大気に移るとき、一緒に蒸発熱を奪いますが、その分です。23%と意外に大きな数字になっています。Kは地表から放射され大気に吸収される分です。B、F、G、H、Kを足すと 16+3+7+23+15 でこれもちゃんと64%に一致しています。
地球自身のエネルギー収支はどうでしょうか。太陽エネルギーは地表に来るまでに反射(A、C、D)と大気への吸収(B、F)を合わせて49%も減って、地球に吸収されるのはLの51%になってしまいます。出て行くのは先程説明したG、H、K、Eですから、これを足すと、7+23+15+6 で51%となり収支は合っています。
この図で少し気になるのは大気から地球に入るエネルギー分が描かれていないことです。実際には大気によって地球が暖められていることもあるはずです。しかし勿論その分は大気と地球の間を出たり入ったりぐるぐる循環しているはずですから、図ではそれは省略したと考えられます。
さてこれから考えようとしている太陽光発電ですが、これは地球表面に太陽電池を置くのなら地表入射分を使うことになります。勿論今考えられるのはこの地球入射分のほんの一部を利用することです。しかしもし地表入射分の大半を太陽光発電に使ってしまうことになったらどうでしょうか。まず光を直接利用している生物は困るでしょう。電気エネルギーは使われた後は熱エネルギーに変わりますから、全体のエネルギー収支は勿論変わらないのですが、図の各経路のエネルギーの割合はもしかすると変わるかもしれません。こういうSF的なことを考えるのも面白いですね。