光デバイス/OLED

9.白色有機発光ダイオード

 OLEDの発光色について取り上げます。有機分子の発光色を予測するには分子軌道法によって一重項、三重項のHOMOとLUMOを計算すればよいわけですが、この計算を行うには対象とする分子を指定しなければなりません。しかし分子の種類は膨大ですから、ある程度は経験的に当たりを付けることが必要と思われます。また実際の色は実験的に人が見分けなければなりません。

 この項では照明用として重要な白色発光を考えます。白色の発光を得る原理は無機半導体のLEDと同じで、大きく分けて2つあります。1つは3原色をそれぞれ発光させ、これを混合する方法です。もう一つは短波長の単色を発光させ、その一部を補色に相当する長波長に波長変換したのち、もとの発光光と混合する方法です。LEDの場合、蛍光体を利用して後者の方法をとる方が一般的と思われます。OLEDの場合は、2色または3色の発光を1素子内で発光させるのが、LEDより容易なため、必ずしも波長変換方式の方が一般とは言えないようです。

 図9-1はプリンストン大学によって発表された白色発光OLEDの例です(1)。3原色を発光する3種類の発光分子をそれぞれ別の層に導入し、それらを積層しているのが特徴です。このような発光色の異なる層を積層した構造は化合物半導体LEDでも考えられていますが、半導体結晶の場合は格子整合という制約があるので、実用的な素子は実現できていません。OLEDの場合にはこのような制約がなく、真空蒸着や塗布などにより容易に有機発光層が積層できるため、圧倒的に自由度が高いと思われます。

 図示されているように各発光層は共通のホストであるCBP(構造式;5項(h))層中にそれぞれ発光分子(ゲスト分子)を数パーセント混合しています。この例のゲスト分子はいずれもイリジウム(Ir)錯体で、最上層の発光層1は発光波長500nm前後の緑色を受け持つIr(ppy)3(構造式は8項(l))、真ん中の発光層2は600~700nmの赤色を受け持つBtp2(acac)(構造式(o))、下層の発光層3は450~500nmの青から緑色を受け持つFIrpic(構造式(p))で構成されています。各層の発光分子の混合濃度や層厚を調整すると発光色が微妙に調整でき、これは白色の演色性を高めるうえで大変有利です。

 発光分子は上の例のように必ずしも1種類ずつ別々の層に分ける必要はなく、2種類または3種類を混合し、一つの層の中に分散するという方法もあります(2)。より少ない層数で白色が出せるので素子構造が簡単になります。

 上記の例は単純に各分子固有の発光を利用するという考え方でしたが、プリンストン大学では少し違う考え方の素子を開発しています(3)。基本的な考え方は発光分子が孤立している場合と凝集している状態では発光波長が異なるという性質を利用するというものです。

 ある種の分子(モノマー)は2つ結びついて二量体(ダイマー)を形成することがあります。とくに一方の分子が励起状態にあるとき、これを励起二量体(Excited dimer)、略してエキサイマーまたはエキシマと呼びます。一般にモノマーの発光波長よりエキサイマーの発光波長は長くなる性質があります。

 具体的には適度な濃度でホスト中にゲスト分子を分散すると、ゲスト分子の一部はモノマーのまま残り、その他の一部がエキサイマーを形成する場合があります。このような状態ができれば、モノマーとエキサイマーに対応した両方の発光が得られます。分子をうまく選べばこの両方の発光が混合されて白色発光を得ることができます。

 白金(Pt)錯体はエキサイマーを形成する性質をもっていますからこれを利用できます。図9-2は4種類のフィルム試料のフォトルミネセンスです。ホスト分子はいずれもCBPで、これにPt錯体のFPt(acac)(構造式(q))を添加しています。フィルム1は無添加のCBPフィルム、フィルム2にはFPt(acac)を1重量%未満、フィルム3には約7重量%加えています。

 CBP自身の発光は300~400nmの紫外域にあり、FPt(acac)モノマーは470nmと500nm付近にピークをもっていて青緑色に発光します。FPt(acac)の濃度が高くなるとエキサイマーが形成され、フィルム3では570nm前後にブロードなピークが現れ、オレンジ~赤色の発光が生じます。またCBPの400nm付近の発光が消えています。これによりモノマーの発光とエキサイマーの発光が混合してフィルム3は白色発光します。

 フィルム4は青緑色の発光成分を増強するため、さらにIr錯体のFIr(pic)(構造式(p))を加えています。Ir錯体はエキサイマーを形成しない性質があるため、460、500nmのピークだけを増強することができます。これにより白色光の演色性が向上できます。

 もう一つの白色発光を得る手段として、波長変換を利用する方法があります。原理は化合物半導体LEDで使われている方法と同じで、エレクトロルミネッセンスにより短波長(例えば青色)の発光を得、その光を蛍光体などで波長変換して黄色などより長い波長の光を得た後、もとの光と混合することにより白色光を得ます。

 素子構造の例を図9-3に示します。発光層は青色発光をするように、例えば9,10-ジ-(2-ナフチル)アントラセン(ADN,構造式(r))などをホスト分子とし、青色発光分子としてペリレン系分子(ペリレンの構造式は(t))を数%加えたものが用いられます(4)

 さらに正孔輸送層はホスト分子をアミン系のNPB(N,N'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル)(構造式(s))の発光層に接する一部に黄色への波長変換用分子を分散させます。例えば、黄色用波長変換用分子としてはルブレン(構造式(u))系の分子が使われます。

 さらにこの層に赤色用波長変換用分子を追加して添加して白色光の色調を調整することができます(5)。赤色用波長変換用にはペリフランテン(構造式(v))など、これらも芳香族化合物が使われます。

 さらに反対側の電子輸送層に緑色波長変換分子(クマリン系色素C545Tなど)を加えることも可能です。これも白色光の色調調整に有効とされています。

 化合物半導体LEDの場合と少し違うのは、LEDの場合は、電流が流れる化合物半導体層の外側に波長変換層が設けられるのが普通です。OLEDの場合も同様にしてもよいのですが、上記の例の場合は素子を構成する層内に波長変換材料が導入されています。ただし正孔輸送層内では電子と正孔の再結合は起こらないので、ここでは発光は生じず波長変換だけが起こります(電流が流れる層なので、多少のエレクトロルミネッセンスが発生する可能性はあるかと思われます)。OLEDの場合はこのような構成がとれるのも一つの特徴と言えます。

(1)特表2004-522276号

(2)特開2001-319780号

(3)特表2005-514754号

(4)特開2003-086380号

(5)特表2007-503092号

.