光デバイス/OLED

10.フルカラー有機発光ダイオード表示装置

 有機発光ダイオード(OLED)の主要な用途には照明と並んでフルカラーの表示装置(ディスプレイ)があります。フルカラーの平面ディスプレイと言えば、現状では液晶方式が主流となっていますが、化合物半導体LED(以下、単にLEDと言います)方式も台頭してきています。ここでは各方式の比較整理をしてみたいと思います。

 フルカラーの平面表示装置すべてに共通する原理は、赤(R)、緑(G)、青(B)各色それぞれの小さな画素を3色が均等になるように表示画面上に二次元配列し、画面上の望みの位置で望みの色が発色するように各画素の点灯、非点灯をコントロールするというものです。

 例えば、赤色を表示したい部分では赤色(R)の画素だけを点灯するようにし、他の色の画素は非点灯とします。またある部分で白色を表示したいならば、その部分ではRGB全色の画素を点灯し、混色するようにします。

 平面表示装置の基本的な構造は、画素の点灯、非点灯の切り換え方法とRGB3原色の実現方法によってつぎのように分けられます。

1.画素の点灯・非点灯の切り換え方法

1-1.シャッタ方式  第1の方法はシャッタを使う方法です。光源自体はオンオフせず、画素ごとに設けたシャッタを開閉して点灯、非点灯を切り換えます。液晶はこの方法のシャッタの役割を担います。

1-2.光源制御方式  第2の方法は光源自体をオンオフする方式です。LED、OLEDでは基本的にこの方法が使われます。

2.RGB3原色の実現方法

2-1.カラーフィルタ方式  白色光源を用い、これに3原色のカラーフィルタアレイを組み合わせる方法です。カラーフィルタは色のついたガラスと考えればよく、白色光を透過させるとRGB各色の光が得られます。カラーフィルタの一つ一つが画素に対応します。

2-2.3原色発光素子方式  RGB3原色それぞれの発光素子を使う方式です。LED、OLEDともRGB各色の素子を利用することができます。RGB各色の素子を一組にしたものが画素に対応します。

 液晶ディスプレイは1-1と2-1の組み合わせです。液晶シャッタは印加電圧のオンオフで光の透過、不透過を切り換えられます。白色光源はバックライトと呼ばれ、平面光源です。従来は蛍光灯でしたが、LEDや有機ELも使われるようになっています。

 OLEDディスプレイの場合は1-2と2-2の組み合わせが使われます。LEDの場合も同じ組み合わせが可能です。

 OLEDでは1-2と2-1の組み合わせも考えられています。この場合、白色発光 OLED素子をすべての画素に個別に設けてバックライトとし、各OLED素子にカラーフィルタを組み合わせます。この場合はバックライトの明るさも画素ごとに制御が可能です。LEDでもこの組み合わせは原理的に可能ですが、実際には採用されていないようです。

 画素の点灯・非点灯を切り換えるための回路は1-1、1-2の方式とも共通です。これについてはLEDの49項で取り上げていますが、ここではOLEDへの適用例(1)についてみてみましょう。

 図10-1は平面表示パネルの模式図です。RGB3色のOLEDを一組にして1画素とし、この画素 \(P_{ij}\) をN行M列の2次元に配置してあります(\(i=1\sim N, j=1\sim M\))。図は一部(3行2列)のみ描いています。表示したい画像に対応して各画素のRGBのOLED素子の発光強度を調整して発光色を決定すればよいわけですが、2次元画素すべてを同時に発光させるためには、画素すべてに並列に信号を送る必要があり、画素数が多くなるとこれは困難になります。

 そこで考えられたのが、二次元に並んだ画素のうち横方向の1列ずつ画像信号を書き込んでいく走査方式です。この列を順に移動させることで二次元画像を表示させます。この方式は以前のCRT(陰極線管)や液晶表示でも使われていました。1列の書き込みが済んだ後、次の列に移動すると、前の列の表示は消えてしまうのですが、走査を高速に行うことで眼の残像を利用して1画面を表示していました。以下で説明する例では残像を利用しなくても画面表示が可能です。

 各画素を横方向に接続するゲート走査線と縦方向に接続する情報信号線と呼ばれる配線が設けられています。ゲート走査線と情報信号線の交点には表示用画素が配置されています。ゲート走査線は \(g_{1},g_{2}\cdots g_{N}\) のN本ですが、情報信号線は各画素内のRGB各発光素子にそれぞれ必要ですから、\(s_{r1},s_{g1},s_{b1}\cdots s_{rM},s_{gM},s_{bM}\)の3M本必要です。この他、各画素に電流を供給するための一対の共通電源線が必要ですが、図示を省略しています。

 走査信号ドライバはゲート走査線を \(g_1 \rightarrow g_2 \rightarrow \cdots \rightarrow g_N \) と順次選択し図の左側に示したように電圧を印加するための電子回路です。これに同期して画像信号を情報信号線に送るのが情報信号ドライバです。\(\left ( s_{r1},s_{g1},s_{b1} \right ),\left (s_{r2},s_{g2},s_{b2} \right ),\cdots, \left ( s_{rM},s_{gM},s_{bM} \right )\)の各ラインに同時に図の上側に示すような 3M個の画像情報が送られます。ゲート走査線の走査が全画面(フレームということがあります)を一巡りすると一画面が表示されることになり、これが繰り返されます。

 アクティブマトリクス方式では各画素に対応するゲート走査線と情報信号線の交点には図10-2に示すようなスイッチング回路が設けられます(1)。にトランジスタは図のよう各2個使っていますので、全体で2MN個必要です。

 選択する1本のゲート走査線にプラス信号が印加されると、Nチャンネル薄膜トランジスタTFT1がONとなり、このとき情報信号線から供給される表示信号がもう一つの薄膜トランジスタTFT2のゲートに印加され、TFT2もオンになります。同時にコンデンサCが充電されます。各画素に配置されたOLED素子には、TFT2がオンになるので、共通電源線より電流が供給され発光が生じます。TFT2のゲート電位はコンデンサCによって保持されるので、ゲート走査線が選択を外れてTFT1がOFFになっても情報信号線の状態とは無関係にTFT2はオンのままでOLED素子にはゲート走査が1フレームを走査する期間、共通電源線からの電流が流れ続けることができます。これにより1フレーム期間中、発光を維持することができ、残像を利用しなくて済みます。

 上記の回路はOLED素子ごとに設けられます。各画素の発光をできるだけ邪魔しないように配置する必要があります。図10-3に平面内の配置例(イメージ)を示します。ゲート走査線と情報信号線で囲まれる画素領域の大部分を発光部が占め、周囲にTFTとコンデンサが配置されています。

 図10-4はOLED素子とTFTを同じ基板上に集積した断面構造の例を示しています。(a)図10-3の切断線A、(b)は切断線Bでの断面を示しています。ガラス基板上に多結晶シリコン(poly-Si)層が設けられ、絶縁ゲート電界効果トランジスタ(IGFET)のチャネル、ドレイン、ソース領域と両電極が形成されています。この上にゲート絶縁膜とゲート電極が設けられ、さらにこの画素電極上に有機発光層と陰極である金属電極が設けられています。(b)に示すように発光は透明電極、絶縁層、ガラス基板を透過して裏面から出射されます。

 このような構造になるのは多分に製造方法によっています。画素ごとの回路素子は、例えばテレビ画面のような大面積に広がって配置されるので、普通の集積回路は使えず、かといって個別部品で構成するのは煩雑過ぎます。そこで通常用いられるのは薄膜トランジスタ(TFT)です。TFT及びその他の回路要素は薄膜形成技術とパターニング技術によって一基板上に形成することができます。

 多結晶シリコンの薄膜を形成するには方法に依りますが、数100℃以上の高温が必要です。有機分子膜はこのような高温には耐えられませんから、まずシリコン薄膜、ついで絶縁膜を形成し、電極のパターニングを終わってから,有機分子膜を形成することになります。

 この有機分子膜を具体的にどのように作製するかについて触れておきます。もっともまともに作製するには、つぎのような手順になります。真空蒸着法などにより色ごとに違う分子層を形成しますが、まず1色目の第1層を成膜する前に基板の必要位置に開口を設けたマスクを着けます。第1層を形成した後、不要部分の分子膜とマスクを除去し、2色目の第2層用のマスクを設け、その上に第2層を形成します。第3層も同様にします。

 この方法をリフトオフ法と言いますが、工程数が多く、煩雑です。これより簡単な方法としてインクジェットを用いた印刷による方法が開発されています(2)。インクジェットプリンタはカラー印刷に広く使われていますが、この技術を転用してRGB3色発光用の有機材料を所定のパターンで基板上に印刷(塗布)できます。

 図10-5のように他の成膜、加工を終わった基板上に、まず画素となる部分に塗布液の流れ止め用の樹脂製バンク(凸部、仕切部)を設けます。インクジェットヘッドから必要な有機分子含む液(インク)を吐出し、プリンタの要領でヘッドを動かしながら指定の領域(印刷パターン)に塗布します。3色の原料液をそれぞれの画素領域を指定して塗布します。OLEDを構成する各層を繰り返し印刷塗布することにより簡単にOLEDを構成する各層をマトリックス状に形成できます。

(1)国際公開98/036407号

(2)国際公開99/048339号