光デバイス/光制御素子
19.多モード干渉導波路素子、アレイ導波路回折格子
ここで取り上げる多モード干渉導波路素子とアレイ導波路回折格子は、本来は光制御素子の部類に入れるのは適当ではありません。なぜならこれらは外部信号によって光を制御する素子ではなく、特定の形状をもつ光導波路に過ぎず、受動的な素子だからです。
ではなぜここで取り上げるのかというと、これまでに取り上げてきた光導波路の性質をうまく活かした素子だからです。導波路形状の設計だけで機能する素子ですが、意外にも比較的新しく開発が進んだ素子です。
多モード干渉導波路素子
多モード干渉(MMI、Multi Mode Interference)導波路の原理は19世紀の前半に発見された自己結像現象に基づいています。この自己結像現象とは周期構造、例えば、等間隔に並んだ孔を照明すると、後方のスクリーンにこの周期構造と同じ像が結像するという現象で、タルボット(Talbot)効果とも呼ばれています。
これと同じ現象が光導波路(多モード導波路)においても実現できることが20世紀後半になって提案され、 これがここで取り上げる多モード干渉導波路素子の原型となりました。(1)
ここではもっとも単純に図19-1のような単一モード導波路が両側に接続された多モード導波路(幅\(W\)、長さ \(L\))を考えます。入射側から入射した単一モードの光は多モード導波路に入って複数のモードが伝搬可能となります。図にはこれらの高次のモードの光は互いに干渉し、導波路の長さ \(L\) が適切な値に設定されると、入射端と同じモードが再現されて出力側の単一モード導波路に結合できるようになります。図のような1対1の構造では意味がありませんが、出力側の導波路を2本以上にすれば分岐導波路が実現できます。
光の進行方向をz軸にとり、これに垂直なx軸方向が導波路の幅方向とし、x-z平面上に導波路面があるとします。導波路のy方向の厚みは単一モード相当とします。この多モード導波路に導波される \(m\) 次モードの光の電界成分 \(E_{y,m}(x,z)\) のイメージを\(m=0,1,\cdots ,4\) について図19-2に示しました。
この電界成分は式ではつぎのように表わされます。
\[E_{y,m}(x,z)=E_{0,m}(x)\exp (-i\beta_m z)\]
ここで \(m\) はモード番号で、\(m=0,1,2,\cdots N\) です。また \(\beta_m\) は \(m\) 次のモードの伝搬定数で
\[k_{x,m}^2 +\beta_m^2 =k_0^2 n^2\]
の関係を有します。ただし \(k\) は入射光の波数で、\(k=2\pi/\lambda_0\) です。\(\lambda_0\) は自由空間での光の波長です。また \(n\) は導波路の屈折率です。また \(k_{x,m}\) は各モードの定在波の条件
\[k_{x,m}T_{eff}=(m+1)\pi\]
を満たす定数、\(T_{eff}\) は実効導波路厚です。以上より \(\beta_m\) は
\[\beta_m \simeq\sqrt{k_0^2 n^2 -(m+1)^2\pi^2 /T_{eff}^2 }\]
と書けます。平方根のなかの第2項は第1項に比べて小さいとして、展開して第2項までとることにより、
\[\beta_m \simeq k_0 n-\frac{(m+1)^2 \pi\lambda_0}{4nT_{eff}^2}\]
となるので、\(\beta_0\) と \(\beta_m\) の差は
\[\beta_0 -\beta_m =\frac{m(m+2)\pi\lambda_0}{4nT_{eff}^2}\]
で与えられます。ここで定数 \(L_{\pi}\) を
\[L_{\pi}\equiv\frac{\pi}{\beta_0 -\beta_1}=\frac{4nT_{eff}^2}{3\lambda_0}\]
と定義すると
\[\beta_0 -\beta_m =\frac{m(m+2)\pi}{3L_{\pi}}\]
となります。
ここで多モード導波路の入射端(\(z=0\))における電界 \(E_y (x,0) \) が
\[E_y (x,0) = {\sum} _m a_m E_{y,m} (x)\]
と書けるとします。ただし係数 \(a_m\) は
\[a_m =\frac{\int E_y (x,0)E_{y,m}(x)\mathrm{d}x}{\int E_{y,m}^2(x)\mathrm{d}x} \]
と表せます。位置 \(z\) における電界はつぎのように書けます。
\[E_y (x,z)={\sum}_{m=0}^{m-1}a_m E_m (x)\exp\lbrace i(\omega t-\beta_m z)\rbrace\]
また、\(z=L\) における電界はつぎのように書けます。ただし時間変化 \(i\omega t\) は常に変化しないので、省略します。
\[E_y(x,L)={\sum}_{m=0}^{m-1}a_m E_m (x)\exp\left (i\frac{m(m+2)\pi}{3L_{\pi}}L\right )\]
この式からわかることは、 \(\exp\) 以下は位相を表す項なので電界成分については \(z=0\) の成分と変化がないことです。つまり \(z=0\) のときの電界が \(z=L\) においても変化なく再生されることがわかります。これが自己結像効果です。
なお、\(m\) が偶数の場合、\(E_{y,m}\)は偶関数、すなわち、\(E_{y,m}(-x)=E_{y,m}(x)\) で、\(m\) が奇数の場合は、\(E_{y,m}\) は奇関数、すなわち、\(E_{y,m}(-x)=-E_{y,m}(x)\) です。
素子への応用のために、上記位相の特別の場合として、つぎの2つの場合を考えます。
\[\begin{align}(a):~~\exp\left (i\frac{m(m+2)\pi}{3L_{\pi}}L\right ) &=1 \\ (b):~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ &= (-1)^m\end{align}\]
(a)の場合、\(L\) における位相は \(2\pi\) に乗ずるすべての整数で異なります。この場合、すべての導波モードは \(z=0\) における同相のモードと干渉します。したがって結像は入射像の複製となります。
(b)の場合は、\(m\) の値によって交互に \(\pm 1\) の値をとるので、偶数モードでは同相、奇数モードで反転相となります。位相が反対称のため、像は \(y=0\) の面に関して反転した鏡像となります。また
\[L=p(3L_{\pi})~~~~~p=0,1\cdots\]
の条件が満たされます。すなわち入射点(\(z=0\))から \(3L_{\pi}\) の距離ごとに交互に \(y=0\) の面に対して対称な像が得られることになります。
上記の条件の \(L\) の中間位置には元の像と反転した像の両方が結像します。その条件は
\[L=p(3L_{\pi})/2~~~~~p=1,3,5\cdots\]
となります。そしてこれを拡張して
\[L=p(3L_{\pi})/N\]
と書くと、y方向に \(N\) 個の像が \(L\) の位置に生じます(厳密な導出は省略します)。以上をまとめて、雪ダルマのような非対称画像が各位置でどのように表示されるかを模式的に図示したのが図19-3です。長さ \(L\) とx方向の出射位置を適切に選ぶことにより、入射信号と同一の信号を再現できることがわかります。
以上より多モード導波路を \(L\) の値を選択して作製すれば、例えば図19-4に示すような1×2の3dBカップラや1×Nの分岐導波路を作製できることがわかります。
単一導波路の曲がり導波路で形成した分岐導波路に比べて長さが短い小型の分岐素子が作製できます。
アレイ導波路回折格子
回折格子については14項で取り上げていますが、屈折率の周期構造をもっていて、光の分波(波長を分ける)機能をもっています。回折格子は光導波路に組み込むこともできますが、異なる波長の光を取り出す場合は導波路外へ出射させる必要があります。
分波機能をもつもう一つの素子として知られているのがプリズムです。波長により屈折角が異なることを利用して、ある単一波長の光を特定の角度から取り出すことができます。
回折格子もプリズムも分波した光は空間に取り出す際の方向が異なることを利用しています。これは光ファイバや平面光導波路を用いて光学系を構成する場合には、この部分だけ光を導波路系から外へ出す必要があり、光学系が複雑になり、また大型化することもあるという難点があります。
そこでこれを導波路系で構成するように考案された素子がアレイ導波路回折格子(Arrayed Wavwguide Grating, AWG)です(2)(3)。このAWGの構成を説明するには、図19-5のようなプリズムによる分波素子の構成を想起するのがよいと思われます。
白色光のような複数の波長を含む光を平行光としてプリズムの斜面に入射します。入射された光は波長によって屈折角が異なるので分かれてプリズム内を進み、反対側の斜面から波長ごとに異なる角度で出射されます。この出射光を出射側のレンズに入射すると、集光された光は波長によって位置が異なるので、それぞれを別の光ファイバや受光素子に入射でき、分波が可能になります。
アレイ導波路回折格子ではプリズムの役割をアレイ導波路が担います。図19-6のように単一モード導波路からの入射光を上で述べたような多モード干渉導波路で必要な数に分け、例えばN本の並列した導波路アレイに導入します。導波路アレイの隣合う導波路は入射端から出射端に至るまでの距離を一定長さ \(\Delta L\) づつ順に増加させておきます。またこのアレイ導波路の出射側では第2の多モード導波路に接続されますが、その接続位置は一定の間隔 \(d\) で配置されます。
このような構造により、アレイ導波路から多モード導波路への入射位置では、位相が順に一定量ずつ増加(または減少)した光が等間隔で並ぶことになります。この隣合う光は干渉により強め合う方向に進行しますが、その方向は光の波長によって異なるので、多モード導波路の他端で波長ごとに異なった位置に到達することになります。
図19-6内の部分拡大図を参照しながら少し式を使って説明します。アレイ導波路の出射端で隣合う導波路からの出射光の干渉を考えます。隣り合うアレイ導波路からの出射光には、導波路の実効屈折率を \(n_c\) 、導波路からの出射角を \(\theta\) とすると
\[n_c d\sin\theta+n_c \Delta L=m\lambda\]
が成り立つはずです。ここで \(d\) は隣り合うアレイ導波路の出射端における間隔、\(\lambda\) は真空中での光の波長、\(m\) は回折次数です。上式左辺が隣合う導波路の出射端における位相差を表していて、上式は、これが波長の整数倍になる角度に出射光が生じることを示しています。いま \(\theta\) が小さくほぼ 0 と見なせるならば、
\[m\simeq\frac{n_c \Delta L}{\lambda}\]
とみなせ、
\[n_c d\sin\theta=m(\lambda-\lambda_0)\]
と書けます。ここで \(\lambda_0\) は入射光の中心波長とします。
つぎにこのアレイ導波路の出射端が接続される多モード導波路を介して波長ごとの出射導波路への接続について考えます。この多モード導波路の実効屈折率を \(n_s\) 、アレイ導波路の出射端から出射導波路の入射端までの距離を \(f\) とします。出射導波路の間隔を \(\Delta x\) とすると、\(\Delta x=f\sin\theta\) が成り立ちます。この関係を上式に用いると、\(\Delta\lambda=\lambda-\lambda_0\) と置いて
\[\frac{\Delta x}{\Delta \lambda}=\frac{mf}{n_c d}\]
が成り立ち、波長 \(\lambda\) の変化に比例して出射位置 \(x\) が移動することがわかります。なお、上式の屈折率 \(n_c\) には正確には群屈折率を使うべきですが、ここでは出射位置と波長の傾向を示すに留めます。
(1)L.B.Soldane, IEEE J. Lightwave Tech. Vol.10, p.615 (1995)
(2)M.K.Smit, Electron, Lett, Vol,24, p.385 (1988)
(3)T. Takahashi,,et al., Electron. Lett, Vol.26, p.87 (1990)