光デバイス/光制御素子
20.まとめ
光変調素子を中心に光制御素子について、利用される各種の光学効果、各素子の動作原理、素子構造などを紹介しました。
光変調素子の主たる応用先は光通信分野で、一般の家庭で使われることはないので、市場規模というか使われる数も多くありません。このため一般の注目度もそれほどではないと思われます。
一つの例外はディスプレイ分野で使われる空間光変調器です。ここでは扱いませんでしたが、光シャッタを二次元に多数配列したもので、液晶を使ったものが典型例です。これはシャッタの原理より、多数のシャッタをいかに駆動するかの方に技術的な焦点があり、「薄膜トランジスタ」の6,7項で取り上げています。
光を変調する原理となる物理現象は、ここで取り上げたように多様で、それらそれぞれについて長い時間をかけて研究開発が行われてきています。その辺りをまとめておこうというのが本項目の目的でしたが、内容が膨大なため、十分にカバーしきれていません。
素子の構造としては光導波路を用いたものが近年では主流になっています。長距離光通信技術が実用化できたのは何といっても極めて低損失な光ファイバが実現したことによります。この光ファイバも光導波路の一種ですが、光変調素子などには、上記の物理現象が顕著に現れる材料を用いて光導波路構造を形成する必要があります。
この光導波路構造が素子に利用される理由は、光ファイバとの整合性がよいからではなく、小型、薄型化が可能なため、制御信号として使われる電気信号を低電圧化できるためと思われます。これは高速変調を可能にするためには重要な要素となります。
この光導波路中の光伝搬は電磁波理論すなわちマクスウェルの方程式を用いて解析されます。ということは数式の展開が煩雑になるのが通例です。各素子の動作原理を結果だけ示すのはできるだけ避けたかったので、「付録」を設けて詳述することにしました。このため他のテーマに比べて付録の数が10項目を越えることになりました。あくまで付録ですので、これを読まないと話が理解できないことはないと思います。
最後に全般にわたって参考にさせていただいた書籍を3冊挙げておきます。(1)はこの分野でよく知られた教科書で、表題の通り、ここで言う「光制御素子」より広い内容をカバーしています。(2)はここで言う「光制御素子」とよく重なる対象全般を、制御する対象ごとに簡潔に解説していて、広い範囲をカバーしています。(3)は光導波路の理論に特化した本で、ここではまったく取り上げていない光導波路の数値的な解析方法も説明しています。
(1)A.ヤリフ、「光エレクトロニクスの基礎」、1974、丸善
(2)黒川隆志、「光機能デバイス」(先端光エレクトロニクスシリーズ12)、2004、共立出版
(3)岡本勝就、「光導波路の基礎」(フォトニクスシリーズ13)、1992、コロナ社