光デバイス/光制御素子
3.電界吸収型光変調素子
近年半導体を用いた実用的な光変調素子が登場しています。これは電界吸収型光変調素子といわれる素子です。
前項で説明したように光が通過する媒体の光吸収を電気信号によって高速にコントロールできれば、光変調の目的は達せられます。半導体の光吸収が変化する現象はいくつか知られています。そのなかで近年、量子井戸が作られるようになって発見された現象があります。これは量子閉じ込めシュタルク効果と呼ばれる現象です。
この現象については次項以降で説明したいと思いますが、ここではその特性の概略だけ示しておきます。図3-1は量子井戸という半導体で作った特殊なものの光吸収の様子(正確なデータではありません)を示しています。横軸は光の波長、縦軸は吸収の程度を表す吸収係数です。印加電界のないとき(実線)と電界を印加したとき(破線)は吸収が起こり始める波長付近(吸収端といいます)での特性が大きく異なっているのがわかります。
ここで光の波長を図示されている \(\lambda_g \) に固定すると、電界が例えば 0 から \(E_0\) に変わると光の吸収が変化し、電界印加のないときは吸収が小さく光は通過できますが、電界が印加されると光が通過は遮断されることが分かります。
この原理を光ファイバ通信分野で用いる光変調素子として実現するために、どのような素子構造をとればよいかについては1980年代の半ば以降に多くの提案がなされています。
図3-2は面型素子の一例です(1)。波長1.5μmの光に対する光吸収層としてはたらくのはInGaAlAs量子井戸層です。量子井戸層は井戸層、障壁層と呼ばれる2種類の薄い半導体層を積層したものですが、この例ではこの両方の層をInGaAlAsの組成を変えることによって実現しています。
この量子井戸はノンドープですが、これをはさむ上側のInP層はn型、下側のInP層はp型でpin構造をとっています。したがって上面の電極は陰極、下面の電極は陽極となります。この電極間に電圧を印加すると量子井戸の光吸収がおおよそ図3-1のように変化します。応答時間(電界が印加されてから吸収が変化するまでの時間)は1ns以下と高速です。
この素子構造では光は量子井戸の層に直交するように入射します。量子井戸の層は多重にしたとしてもとても薄いので光はごく短い距離しか作用を受けません。このため光吸収係数が大きく変化したとしても(この場合、光の透過率は\(5\times 10^4 \) V/cmの電界に対して70%から30%に変化したと記されています(1))吸収されずに通過してしまう光の割合が大きくなってしまいます。これは光変調された信号のオンオフ比(変調深度ということがあります)が十分大きくとれないという難点となります。
これを改善するためには光を量子井戸層に平行に入射するという方法が考えられます。このとき量子井戸層の両側の層の屈折率を量子井戸のそれより小さくしておけば、光は量子井戸層に閉じ込められます。このような構造を導波路構造(詳細は12、13項参照)と呼びます。
この導波路構造をもった光変調器の例を図3-3に示します(2)。基本的な構造は図3-2の場合と同じですが、光は層に平行に通過するように設定されています。この場合、光が量子井戸と相互作用する距離が長くとれるので、変調深度は大きく改善されます。
(1)特開昭61-173218
(2) 特開昭62-191822