電子デバイス/負性抵抗素子

9.pnpnダイオードの負性抵抗特性

 前項ではショックレイの特許の紹介を通してpnpn接合の特性を大雑把に説明しましたが、この項でははもう少し詳しい説明を加えることにします。

 前項と重複しますが、図9-1のようなpnpn接合の外側の \(p_1 \) 層と \(n_1 \) 層に電極1と2を設けたpnpnダイオードを考えます。このダイオードに図のような回路をつないで電圧 \(V\) を変化させたときの電流 \(I\)-電圧 \(V\) 特性は前項で示したように図9-2のようになります。前項の図とちがって通常のように横軸に電圧をとり、電圧の極性を逆にした場合も含めて示しています。

 図9-1に示した極性(電極1にプラス)の電圧を変化させたときの特性は図9-2の第1象限のようになります。また図9-1の電圧とは逆の極性(電極1にマイナス)の電圧をかけると図9-2の第3象限のような特性となります。

 なぜこのような特性が得られるのかをエネルギーバンド図を使って説明します。図9-3はpnpn接合のバンド図です。p、n各層は同一バンドギャップエネルギーをもつホモ接合を考えています。バンド図は概略のイメージを示しているだけで、正確なものではもちろんありません。

 図9-3のa~fの6通りの図は、図9-2に赤点a~fに対応した状態を示していますので、順に説明していきます。

<a>  印加電圧が 0 の場合です、平衡状態ですので電流も流れません。破線で示したフェルミレベルが全体を通して直線で示されます。なお、図9-1にも示しましたが、\(p_{1}/n_{1}\) 接合を \(J_1 \)、\(n_1/p_2 \) 接合を \(J_2 \)、\(p_2 /n_2 \) 接合を \(J_3 \) と名付けておきます。

<b>  電極1にプラス、電極2にマイナスの小さな電圧をかけた場合です。接合 \(J_1 \) と \(J_3 \) は順方向バイアスとなり、接合 \(J_2 \) は逆バイアスとなります。この場合、電圧 \(V\) のほとんどは \(J_2 \) にかかります。電子(黒丸で示す)、正孔(白丸で示す)の流れはこの接合で阻止されますから、電流はわずかしか流れません。

<c>   bと同方向の電圧が大きくなると接合 \(J_2 \) にかかる逆バイアスが大きくなり、この接合で電子なだれが発生します。pn接合の降伏現象と電子なだれについては「信頼性の話」14項で説明していますが、高電界で加速された電子の衝突により電子が急速に増大する現象です。こうなるとダイオード全体にかかる電圧は小さくなり、電圧の大部分は外部抵抗 \(R\) にかかるようになります。このためダイオード両端の電圧は、電源電圧を高くしても増加しなくなります。この現象は結果的にはトンネル効果によるものと似ていますが、それほどキャリア濃度が高くないpn接合では電子なだれの方が起こりやすくなります。

<d>  電子なだれによる電流が徐々に増加します。接合 \(J_2 \) の両側の \(n_1 \) 層には電子、\(p_2 \) 層には正孔が蓄積し、それぞれの濃度が増大します。このため接合 \(J_2 \) にかかる電圧は減少することになります。これによって電流は増加しているにもかかわらず、ダイオード両端の電圧は低下し、これが負性抵抗が生じる原因となります。

e>  接合 \(J_2 \) にかかる逆バイアスが減少すると、なだれは止まります。この部分の障壁が小さくなるので、順方向電流が優勢になり、電流が急上昇するpn接合の順方向特性となります。

<f>   これまでと逆に電極1にマイナス、電極2にプラスの電圧をかけた場合で、接合 \(J_1 \) と \(J_3 \) が逆バイアス状態となりますから、電流は小さくなります。

 以上がpnpnダイオードの負性抵抗特性の説明です。