電子デバイス/負性抵抗素子

8.pnpn接合素子

 負性抵抗素子のもう一つの代表的な例としてpnpn接合を用いた素子を取り上げます。pnpまたはnpn接合を用いたバイポーラトランジスタよりさらに一つ接合が多いこの素子には種々の構造が知られていて、先のトンネルダイオードより実使用という面ではずっと多用されています。

 歴史的にみるとだれが最初に提案したかははっきりしませんが、トランジスタの発明者の一人であるショックレイ(William Schockley)がトランジスタの研究を離れたのちに取り組んだテーマとして知られています。当時はまだトランジスタ用のpn接合を形成するのもそう簡単ではなかった時代ですから、彼に先行してアイデアが提案されていたとしても実際に素子を試作して実験をすることは難しかったと思われます。

 ショックレイの特許は1955年に出願されています(1)。"Semiconductive Switch"と題されています。対象は図8-1のように外側のp層とn層にだけ電極が設けられている2端子の素子(ダイオード)です。

 この素子の電流-電圧特性は図8-2のようになるとされています。見たところ、トンネルダイオードの特性によく似ていますが、注意しなければならないのは、横軸が電流で、縦軸が電圧になっていることです。

 トンネルダイオードでは電圧を増加させていくとある電圧以上で負性抵抗特性が生じますが、pnpn接合では電流を増加させていくとある電流以上で負性抵抗が生じます。このためトンネルダイオードのようなタイプを電圧制御型負性抵抗素子と呼び、pnpn素子のようなタイプを電流制御型負性抵抗素子と呼びます。見方を変えると電圧制御型はある電流値では特性値が2乃至3点あり、電流制御型はある電圧で特性値が2乃至3点あるとも言えます。

 図8-2の特性は図8-1のようにp側にプラス、n側にマイナスの極性の電圧をかけたときに得られます。これはp1層とn1層の間のpn接合とp2層とn2層の間のpn接合に対しては順方向バイアスになりますが、n1層とp2層の間のpn接合に対しては逆バイアスになっています。pnpn接合では3つのpn接合があるので、どちら方向の極性の電圧をかけても必ず逆バイアスの状態が生じます。

 図8-2のように印加電圧が小さいうちは逆バイアスの接合によって電流が制限されるため、小さな電流しか流れない抵抗の高い状態を示します。電圧がある値 \(V_1 \) に達すると、負性抵抗特性が生じ、電極間電圧が急に低下します。電圧は最小値 \(V_s \) に達した後、電流が急激に増加する抵抗の低い状態に移ります。

 この特許のなかでは電圧 \(V_1 \) に達したところで、逆バイアスされた接合が降伏するためこのような特性が生じると説明されています。また電圧を下げれば、元の高抵抗状態に戻ります。

 図8-2のような特性の素子なら、\(V_1 \) を境に高抵抗側と低抵抗側を切り換えることにより、オンオフのスイッチが実現できることになります。pnpn接合を使った負性抵抗素子は多くの場合、このようなスイッチとして応用されます。

(1)米国特許2855524号