電子デバイス/半導体メモリ

4.半導体集積回路としてのDRAM

 DRAMの回路は、IGFETとコンデンサを接続したいわゆるメモリセルが碁盤の目のように並んだものですが、これをチップ上に作り込むにはどうすればよいでしょうか。自然に考えると図4-1のようになると思います。この図はチップのメモリセル1個分の断面図で、全体はこの構造が縦横に繰り返し並んでいると考えて下さい。

 左側の部分がIGFETで右側がコンデンサです。メモリセルをつなぐビット線とワード線をどう作るかが問題です。図ではビット線は表面にある金属膜でできていて横方向に各MOSFETのソース電極を繋いでいます。ワード線は紙面に垂直な方向に並んだMOSFETのゲート電極を繋いでいます。

   

 ビット線とワード線は交差するところで絶縁されていなければいけませんから、間に絶縁膜を挟まなければなりません。これまで説明してきたMOSFETではゲート電極は表面に出ていましたが、ここでは絶縁膜のなかに埋め込まれています。

 埋め込んだ線をどのようにして作るかと言うと、まず半導体表面に絶縁膜(SiO膜)を付けます。その上に線のパターンを導体膜を作り、さらにその上に絶縁膜を被せます。下のSiO膜は熱酸化で作ればよいですが、導体膜の上の絶縁膜は下地がシリコンでないので、熱酸化法は使えません。何か別の方法で膜を付けなければいけませんが、よく使われている方法はCVD法です。Chemical Vapor Deposition法の略で、日本語では化学的気相成長法などと呼ばれます。詳しい説明はしませんが、シリコンを含むガス状の原料を基板上に流して化学反応によってSiO膜を作ります。

 このCVD法でSiO膜を作るには化学反応を起こさせるためにかなり高い温度に加熱することを必要とします。そのため、配線用の導体膜が金属で作られていると、上に絶縁膜を被せるときにその金属が融けてしまったり、酸化されてしまったりして配線の役をなさなくなってしまう恐れがあります。そこでこのような埋め込まれた導体膜には融点の高いシリコン膜がよく使われます。

 ただ絶縁膜の上にシリコン膜を付けても単結晶膜はできません。まったく規則性のない非晶質膜か小さな結晶が集まった多結晶膜になります。とくに多結晶シリコン(ポリシリコンと俗称されることが多いです)膜は不純物をドープすると低抵抗になり、耐熱性もあるので、埋め込み電極にはよく使われます。これもCVD法で作るのが普通です。

 コンデンサの片方の電極も多結晶シリコン膜を絶縁膜中に埋め込んで作ります。もう片方の電極はIGFETのドレイン電極に繋がっていますから、絶縁膜中の電極をドレイン用に不純物が拡散されている部分のすぐ近くに作ります。こうすればシリコン基板中に反転層を作ることができ、これがドレインの拡散領域と繋がったコンデンサのもう一方の電極の役目を果たします。つまりコンデンサは一方の電極が多結晶シリコン膜、もう一方はシリコン基板中の反転層で、間にSiO膜を誘電体として挟んだ構造になります。

 なお、ビット線やワード線、コンデンサの片方の電極を結ぶ線はそれぞれ多くの電極を繋ぎながらチップを横切り、チップの端で外部の回路に繋げられます。

 記憶容量の大きな半導体メモリを実現するために、半導体基板の単位面積当たりにできるだけ多くのメモリセルを集積することが必要です。そこで図4-1の素子構造を改良する試みがいろいろなされています。ここではその一例としてインテル社の特許(1)を挙げて説明します。図4-2を参照してください。

 図4-1と比べるとまずビット線とワード線の作り方がちがっています。IGFETのソースを繋ぐビット線はシリコン基板に作る拡散領域を長い線上にしてソース領域とそれを繋ぐ配線を一緒にしています。ゲート電極を繋ぐワード線をチップ表面の金属膜としています。まあこれは元のままとすることもできます。

 もっとも重要な点はドレイン拡散領域を無くしたことです。コンデンサの片方の電極として反転層を使うのであればドレインもそれを共用してしまおうというものです。ドレイン電極はコンデンサに繋がっているだけで電源などに繋げる必要がないので、こうすることができます。こうすることによって図4-1の構造ではドレイン領域があったところにコンデンサをもってくることできるため、メモリセル1個当たりの面積を小さくすることができます。

  この特許は4kビットから16kビットを1チップに集積化できるようになった時代のものです。DRAMの基本的な原理はこれまで説明してきた通りで変わっていませんが、その後のものすごい技術開発で1チップで記憶できる容量はいまや100万倍にもなっています。集積回路のところでも説明したように、トランジスタの集積は限界が近づいているとされています。さらに記憶容量を増加させるため、基板と垂直方向へ回路を積み重ねる3次元集積も実用化されています。

 その他、ここでは立ち入りませんが、データの出し入れをできるだけ高速にするように、また消費電力をできるだけ少なくするように多くの改善が行われていて、DRAMは今でもコンピュータの進歩を支える中心的な存在です。

(1)米国特許4012757号 (日本出願:特開昭51-137339号)