電子デバイス/半導体メモリ
3.DRAM
DRAMとは"Dinamic Random Access Memory"のことで、前項の分類で言えば、揮発性、書き換え可能、ランダムアクセスのメモリです。半導体メモリの代表格と言ってもよいでしょう。
このDRAMを初めて量産したのはインテル社で、1970年代後半のことですが(1)、DRAMのアイデアはすでに1960年代にはあったようです(2)。
図3-1に示すようにDRAMは1つの記憶素子(メモリセル)がIGFET1個とコンデンサ1個からなるとても簡単な回路で構成されています。図では2×2のマトリックス状に並べられた回路が示されています。
動作を説明しましょう。IGFETがNチャンネルタイプとするとワード選択ライン(以下、ワード線と言います)W1にプラス電圧をかけるとこれにゲートが繋がった2つのメモリセルのIGFET、T11とT21はともにオンになり、ソース-ドレイン間に電流が流れます。このときソースに繋がるビット選択ライン(ビット線またはデータ線とも言います)の例えばB1にプラス電圧がかかっていると、ドレインに接続されているコンデンサC11には電荷が貯まります(充電されます)。ビット線B1の電圧が0であれば、コンデンサC11の電荷は0になります(放電されます)。つまり各ビット線(B1、B2、・・・)の電圧の高低が対応する各コンデンサに蓄積される電荷として記録されます。これによってデータがメモリに書き込まれることになります。
同じようにワード線(W1、W2、・・・)にプラス電圧をかけてそれらに各ゲートが接続されるIGFETをオンにしたとき、ビット線の電圧が高いか低いかを調べれば、メモリに記憶されているデータが1であるか0であるかがわかります。つまり記憶されている内容を読み出すことができます。もちろんこのときコンデンサに貯まった電荷が逃げ出さないようにしないと、データを読み出すことによってデータが変わってしまいメモリの役を果たさなくなってしまいます。
このため読み出しのための回路の入力インピーダンスは十分高くしておかなければなりません。図にはビット線に破線でつながったCsというコンデンサが描かれていますが、これは配線の交差部などでどうしても生じてしまう容量を示します(浮遊容量とか寄生容量とか呼ばれます)。この容量Csが大きいとIGFETがオンになったとき記憶媒体であるコンデンサの電荷がCsの方に移ってしまうので、この寄生容量は極力小さくする必要があります。
DRAMではこのように記憶はコンデンサに貯める電荷によっています。IGFETはオフになっているといってもソース-ドレイン間の抵抗は絶縁膜で仕切られているほど高くはありません。オフのまま放置しておくだけでも少しずつ電荷は放電します。さらに何度も読み出しをすれば寄生容量をまったく無くすわけにはいかないので放電はさらに進みます。そこでDRAMでは一定時間ごとにコンデンサを充電し直しています(リフレッシュと呼んでいます)。装置を複雑にする余計な動作ですが、メモリの記憶内容を確実に保持するためにはやむを得ません。
同様にゲート電圧が0のときオフになるエンハンスメント型IGFETを使ったとしても、電源がオフになったあと時間が経過すれば、コンデンサの電荷は放電します。電源がオフではリフレッシュ動作もできませんから、DRAMは揮発性のメモリーであるということになります。
メモリは1ビットでは何もできませんから、たくさん並べます。ワード線とビット線を図のように縦横平行に格子状に並べ、その交点に記憶素子を設けます。ワード線とビット線に番号を付け、その交点の座標で記憶素子を指定します。この座標をメモリーの番地と言います。例えばワード線W1とビット線B1の交点を(W1,B1)番地を指定すると、IGFET、T11とコンデンサC11で構成されるメモリセル11が選ばれます。
コンピュータは、基本的にどの番地を1または0にする、ある番地が1だったらつぎはどうする、0だったらどうするといった動作を決められた手順にしたがってやっているだけです。この手順を書いてあるのがプログラムあるいはソフトウェアです。
このプログラムにしたがってデータを一時的に保管する場所(主記憶装置)が必要です。これはコンピュータが動作している間だけ保管できればよいので、揮発性メモリで問題ありません。コンピュータのCPUと対になって必ずこの主記憶装置が設置されますが、これに主として使われるのがDRAMです。
DRAMが半導体メモリの代表格として君臨してきたのは、やはり単純な構成のためだったと思います。大容量のメモリーを作るのが容易でしかも低コストであったのがその理由です。
(1)米国特許4012757号 (日本出願:特開昭51-137339号)
(2)米国特許3387286号