電子デバイス/半導体メモリ

2.半導体メモリ

 これから説明する半導体メモリは例外なくトランジスタのスイッチを用いています。ただしそのスイッチのオンオフそのもので1か0の情報を記憶するケースはむしろ例外で、情報を記憶をする記憶媒体は別にあり、記憶の原理は様々です。トランジスタのスイッチは各記憶媒体に組み合わせて配置され、情報の出し入れをコントロールするのに使われています。

 通常記憶媒体とトランジスタを組み合わせた1個の記憶素子を使って1か0かの情報を記憶しますが、これが1ビットで、決められた面積の半導体基板(チップ)上に何個の記憶素子が集積できるかによってどのくらいの量の情報を記憶できるかが決まります。これが半導体メモリの重要な性能になります。この性能を記憶容量と言います。

 1ビットを記憶するのに最低1個の記憶素子が必要ですから、記憶容量を大きくするためには多数の記憶素子を1つのチップ上に集積する必要があり、1個の記憶素子を小さくすることが要求されるわけです。

 近年は指先に載るような小さな外形のメモリカードがギガバイト(Gb)の記憶容量をもっているのが普通になりました。1バイトは8ビットのことでギガは10(10億)ですから、数mm程度の小さな面積のチップ上に100億個ものトランジスタが集積されていることになります。これでもまだ不足と考えられています。

 さてこの半導体メモリにはいろいろな種類に分けられます。まず第1に

・揮発性か不揮発性か

という違いがあります。揮発という言葉(英語でvolatile)は例えばアルコールやガソリンなどを放置しておくと蒸発してしまいますが、この蒸発のことを意味しています。メモリの世界では電源を切ると記憶が消えてしまうことを言います。ただこれはほとんど半導体メモリに特有の話です。磁気メモリや光メモリーは記憶媒体を装置から取り出して持ち歩いても消えることはありませんから不揮発性メモリです。

 ところが半導体メモリはトランジスタのオン、オフを利用していますから、電源がないとだめです。例えば絶縁ゲート電界効果トランジスタ(IGFET)であれば、ソース-ドレイン間に電流が流せるように電源をつなぎ、ゲートに電圧をかけてはじめてオンかオフかが決まるので、電源を取り外してしまえば、オンもオフも無くなってしまいます。つぎに電源をつないだときには前にどうであったかには関係なく動作しますので、記憶は残っていないのです。このように電源をつないでいる間だけしか記憶機能がないものを揮発性のメモリと言います。

 普通のトランジスタ(IGFET)を使ったメモリは揮発性ですが、特殊な工夫をしたトランジスタを使うと半導体メモリでも不揮発性のものができます。さらに不揮発性の半導体メモリーは大きく2つに分けられます。記憶している情報を

・書き換えられるか書き換えられないか

です。

 記憶されている情報を書き換えることもできないメモリをROMと言います。Read Only Memoryの略で、記憶されている情報が1か0かを判別する(「読み出す」と言います)ことはいつでもできますが、今まで記憶されていた情報を変える(0を1に変える、または1を0に変える)とか消す(全部0か1にする)ことはできないタイプのメモリーです。半導体メモリではありませんが、CD-ROMを連想していただければよいです。CD-ROMはそこに記憶されている情報を読み出すことはできますが、変更する(書き込む)ことはできません。

 半導体のROMには、それが工場で作られたときに書き込まれた情報をまったく変えることができないものと、コンピュータなどに使用している状態では書き換えられないけれども別の専用の装置を使えば書き換えられるものとがあります。

 電源を切っても消えないが、情報は書き換えられるという半導体メモリーは最近急速に普及しました。フラッシュメモリというのがそれです。携帯機器に付いている小さなカード状のものとか、パソコンで作ったデータを持ち運ぶスティックのようなものをよく目にします。これらは後ほど、詳しく説明しますが、電源を切っても記憶が消えないようにする巧妙な工夫がされた半導体メモリを使用しています。以前はこれが高価であったので、揮発性メモリーで我慢してきましたが、これが安くなれば多分揮発性メモリは不要になるのではないでしょうか。さらに磁気メモリや光メモリも不要になってしまうかも知れません。

 このように半導体メモリーは揮発性と不揮発性という分け方、書き換え可能、不可能という分け方があるのがわかります。さらに

・メモリへどのようにアクセスするか

でも分けることができます。RAMという略語を聞かれたことがあるかもしれません。これはRandom Access Memoryの略です。メモリは記憶素子を複数並べて使用しますが、このRAMは端から何番目の素子であろうと自由に情報を書き込んだり、読み出したりすることができるメモリです(メモリに情報を書き込んだり、読み出したりすることをアクセスすると言います)。これに対して端から順番にでないと書き込んだり、読み出したりできないタイプのメモリもあります。これをSequencial Access Memory(SAM)と言います。磁気テープなどはこの例ですが、半導体メモリではあまり使われていません。

 言葉が似ているので、RAMとROMに分けてメモリを分類しているのを見かけますが、これは適切ではありません。つまりROMは書き込みができないことを示しているのに対し、RAMは複数並べられた記憶素子にどの順番でもアクセスすることができることを示しているので、この二つの語は対立する言葉(反対語)ではないのです。RAMの反対語は上記のようにSAM、ROMの反対語は「書き換え可能(rewritabele)なメモリ、RWM」です。この書き換え可能という特徴をもつ半導体メモリは大体ランダムアクセスですのでRAMと呼んでもほとんど間違いではなく、例えば半導体メモリの代表格であるDRAMもRAMであることに間違いはないのですが、厳密に言うと、必ずしも「書き換え可能=ランダムアクセス」ではないので誤解しないことが必要です。