電子デバイス/半導体メモリ

 

19.抵抗変化型メモリ

 半導体磁気メモリも相変化メモリも抵抗値の変化を記憶に使うメモリでした。抵抗値が入力信号によって変化し、それが電源を切っても保存されるなら、メモリに応用できる可能性があるということです。過去において新しいタイプのメモリの開発を目指して、いろいろな材料が探索されたと思われます。

 ここで紹介する抵抗変化型メモリ(ReRAMとも呼ばれています。ReはResistiveから来ています)もまさに抵抗値の変化を記憶するタイプです。このメモリに使用されている材料は、電圧パルスを加えただけで抵抗値が大きく変わるという性質をもっています。おおよそパルスは幅が100ns以下、電圧は数V程度でよく、抵抗は10倍以上変わりますので、比較的容易に高速のメモリを実現できるのではないかと注目されてきました。このような現象は古くから知られていましたが、どういう理由で抵抗値が大きく変化するのかはっきりしませんでした。近年になってようやくその解明も進んでいるようです。

 前項の相変化と違って、この現象はその物質固有のものではなさそうです。何か不純物が入ってそれ自身が移動し、薄膜中に電流が流れやすい通路ができるとかいった機構が考えられています。

 そんななかで最近、安定した抵抗変化を示す材料が見つかってきてメモリへの応用開発が進んできました。アメリカのヒューストン大学で見つけられた材料(1)をシャープ社(アメリカ法人)がメモリーに応用したのがもっとも早い報告のようです。関係した特許(2)としてシャープ社が2002年に出願したものがあります。

 ヒューストン大で見いだされた材料はペロブスカイト構造のマンガン酸化物です。ペロブスカイト構造というのはRMOという形の2種類の金属RとMの酸化物 などで見られる結晶構造のことです。立方体の各頂点に金属Rがあり、その中心に金属Mがあります。酸素は金属Mを 中心として立方体の中に8面体を作るように並んでいます。相転移を起こしやすい構造としてよく知られています。

 シャープ社が使っている材料はPr0.7Ca0.3MnOなどです。Mがマンガン(Mn)に当たり、Rはプラセオジウム(Pr)とカルシウム(Ca)が7:3の割合で混ざったものです。幅10数ns、数Vの短いパルス電圧を極性を交互に変えてかけると、その度に抵抗値が2桁以上も大きく変わります。このそれぞれの抵抗値は電圧を切り離しても変わらないので不揮発性メモリになります。

 このような現象を利用した抵抗変化型メモリは近年になって実用的に使えるレベルに進展してきています。その2例ほどを挙げておきます。

 ソニー社は比較的早い段階からこの抵抗変化型メモリの開発を行ってきました(3)。メモリ素子の構造は単純で、図19-1のように2つの層が積層され、それを電極ではさんだものです。

 記憶用薄膜は例えば希土類元素の酸化物で、例として酸化ガドリニウム(Gd)が挙げられています。膜は非晶質でそのままでは抵抗が高い状態です。この記憶用薄膜に接するイオン源層は例えばCu層です。AgやZnなどでもよく、これらを含む層であってもよいとされています。

 イオン源側を正極として電圧をかけると、素子の抵抗が低下し、イオン源層側を負極にして電圧をかけると、素子は高抵抗状態に戻ります。抵抗値は10倍以上変化します。小さい電圧では書き込み、消去は起こりませんので、素子の抵抗値を調べることは容易です。

 パナソニック社も近年になって別の材料で抵抗変化型メモリを開発しています(4)。メモリ素子の基本構造は図19-2のような2層構造で、酸化タンタル層を用います。

 酸化タンタルは化学量論比からするとTaですが、これは絶縁体で高抵抗です。酸化タンタルは酸素が不足した場合、TaO(0<x<2.5)となり、xが小さいほど、つまり酸素が不足するほど導電性が現れます。

 メモリ素子は1層をx=2.5に近い層とし、それにxの小さい層を積層した構造とします。いまxの小さい層側にプラスの電圧パルスをかけるとメモリ素子の抵抗値が低下します。逆の極性の電圧パルスをかけると抵抗値が高くなります。

 これはxの大きい層から酸素が抜けるとメモリ素子の抵抗が下がり、逆にxの大きい層に酸素が戻り、x=2.5に近い状態になると抵抗値が上がるためと考えられます。

 こちらも電圧数V、パルス幅100ns程度の電圧パルスで書き込み、消去が可能です。抵抗値は1桁(10倍)程度変わりますから読み出しは容易に行えます。

 記憶装置としての回路は磁気抵抗メモリの場合(図17-1参照)と同様ですので省略します。

 抵抗変化型メモリ(ReRAM)の原理は上記のように固体層中での原子(イオン)の移動によると考えられています。このような原理の場合は動作速度や耐久性に問題がありそうに思われますが、意外に早く量産化が進むなど関心が高まっているようです。

(1)米国特許6204139号

(2)特開2004-158804号

(3)特開2005-197634号

(4)国際公開WO2008/149484号