電子デバイス/半導体メモリ

20.まとめ

 各項で紹介してきた通り半導体メモリには多くの種類があります。とくに不揮発性を実現するための原理は多彩であることがわかるかと思います。

 半導体メモリの主要な用途はコンピュータです。一つのコンピュータのなかに多種類のメモリがあり、目的によって求められる特性が異なります。各項では応用と特性の関係にはあまり触れていませんので、まとめに変えてこの点について触れたいと思います。

 半導体メモリはDRAMが集積度の点で限界が近づいていると言われることから、これに変わるものが活発に求められています。このことから半導体メモリの動向についてのレポート(1)もいくつかあり、それらを参考に以下、まとめてみます。

 まず各メモリの特徴を大雑把にまとめるとつぎの表のようになります。

特性/種類  DRAM  SRAM  NANDフラッシュ  FeRAM  STT-MRAM  PCRAM  ReRAM(Cu)  ReRAM(TaO) 
不揮発   ×  × ○   ○  ○  ○  ○  ○
書き換え可能回数   無制限  無制限 <10 <1012  1012-1016  109-1012  <106  <106 
読み出し遅延時間  10-30ns  <1ns  20μs-50ms  100ns   3-5ns  100ns 2μs  10ns 
書き込み遅延時間  10ns   <1ns 60μs-100ms  <20ns  1-3ns   5-10ns 10μs  10ns 
書き込みエネルギー   100pJ 10fJ  10nJ   - 200fJ   10pJ  - 5pJ 

 ここで「書き換え可能回数」とは書き込みと消去を何回程度繰り返しても特性の劣化が起こらないかの目安です。「遅延時間」は、入力信号が入ってから読み出しや書き込みの動作が起きるまでの時間遅れで、メモリの動作速度の目安です。「書き込みエネルギー」は書き込みにどれだけの電流、電圧が必要かを示します。この表を見ながら各メモリの特徴を一言で言うと概ねつぎのようになります。

1.DRAM(3、4項)  揮発性でかつリフレッシュが必要という大きな難点を持ちながら、半導体メモリとしてはもっとも早く実用化し実績を積んできたメモリです。特性的にも優れたメモリで、他のメモリもこれを置き換えることを目標に開発されてきたと言えます。製造も比較的容易なので平面素子の集積密度はもはや限界に近いところまで来ていて、積層して3次元化したものも実用化しています。

2.SRAM(5項)  デジタル論理回路の原理をそのまま利用したメモリです。コンピュータの処理装置と同じ回路素子で構成できるので、揮発性ですがもっとも高速です。難点は論理回路を構成するため、1ビット当たりのトランジスタ数が多くなり、大容量化が難しいことです。

3.フラッシュメモリ(13項)  もっとも早く実用化された不揮発性半導体メモリですので、その開発経緯についてかなり分量を割いて説明しました。難点としてあまり触れなかったのが、書き換え可能回数が少ない点です。これは電子に薄い絶縁膜を透過させるため、劣化が起こることによるものです。NANDタイプなどのように1ビットずつの消去ができないことも用途が制限される原因になっています。

4.FeRAM(16項)  アイデアとしてはかなり早い時期から提案がされ、書き換え可能回数や動作速度にもそれほどの難点はないようですが、強誘電体材料を使うのが難しいからかあまり進展がみられないようです。

5.STT-MRAM(17項)  スピントロニクスという新しい分野の代表として急速に進展したメモリです。SRAMに劣らない高速性を持ち、書き換え可能回数も十分なため、期待されています。集積度の向上など製造技術が課題のようです。

6.PCRAM(18章)  結晶-非晶質の相転移を利用するため、温度変化に弱いとされています。材料的な難しさがあると思われますが、特性的には大きな欠点がないので、今後の進展が期待されます。

7.ReRAM(19項)  イオンの移動を伴うため、材料の劣化が生じやすく書き換え可能回数が少ないのが難点です。酸化タンタル(TaO)型に比べて金属イオン(Cu)型はやや動作速度が遅いようです。量産化技術が進展し急速に実用化に向かっているようです。

 つぎに各メモリの用途について触れます。図20-1はコンピュータのメモリの階層を示す図です。三角形の頂点がコンピュータの処理装置を示しています。1層を隔てて主記憶装置(メインメモリ)があります。コンピュータの処理動作はここに置かれたアプリケーションプログラムに従って処理装置のレジスタを操作することによって行われます。右側の数字は通常のコンピュータで必要とされる動作速度を示します。

 処理装置と主記憶装置の間にあるキャッシュメモリはつぎのようなはたらきをします。主記憶装置に使われてきたDRAMは処理装置に比べると1桁ほど動作速度が遅くなります。このため処理装置と主記憶装置が直接やりとりすると処理装置に待ち時間が生じます。そこで動作速度が処理装置と変わらないSRAMを間に入れて処理装置はキャッシュメモリと直接やりとりをするようにします。記憶容量は少なくてよいのでSRAMが使えます。主記憶装置は処理装置の外に置かれますが、キャッシュメモリは処理装置のチップ上に集積されるのが普通です。

 一番下のストレージは現状では磁気ディスク(ハードディスク)が多く使われる、大容量の記憶媒体です。次第にSSD(Solid State Device)と呼ばれるNANDフラッシュメモリに置き換えられつつあります。コンピュータを動作させる際にここからアプリケーションプログラムやデータを主記憶装置に読み込みます。

 主記憶装置とストレージの間に置かれたSCM(Storage Class Memory)はキャッシュメモリと似たはたらきをします。主記憶装置とストレージの間の動作速度の差による無駄を緩和するためのものです。近年提案されたもので、設けられていない場合もあります。

 新しい不揮発メモリのうち、STT-MRAMは動作速度が速いので、集積度が向上すれば主記憶装置のDRAMを置き換える可能性があります。そうなればリフレッシュ動作が不要になります。さらにSTT-MRAMはキャッシュメモリのSRAMをも置き換える可能性をもっています。

 その他のPCRAMやReRAMはやや動作速度が遅いですが、SCMには十分使えそうです。ストレージは上記のように既にフラッシュメモリに置き換えられつつあるので、コンピュータのすべてのメモリが将来、不揮発性半導体メモリに置き換えられる可能性も出てきました。

 さらに新しい原理のメモリも提案されているようで、メモリ分野の進展からは眼が離せない状態が続くと思われます。

(1)「特集、メモリー戦国時代に勝つのは誰か」、日経エレクトロニクス、2015年8月、p.29-53