光デバイス/発光ダイオード
47.発光ダイオードの駆動回路(その3:カレントミラー回路)
前項の最後に抵抗を定電圧ダイオードに置き換えた定電流回路を紹介しました。ここではさらにその変形版を紹介しましょう。
ダイオードの代わりにトランジスタを使います。バイポーラトランジスタのベース-エミッタ間はpn接合ですから、この接合に順方向に電流を流している場合、接合にかかる電圧(順方向電圧 \(V_{BE}\) は電流によらずほぼ一定です。シリコントランジスタなら約0.6Vです。これを定電圧ダイオードの代わりに使うことができます。
コレクタ側は使わないので、図47-1のようにベース-コレクタ間は短絡してしまうと、トランジスタはダイオードと同じになってしまいます。トランジスタのコレクタからエミッタへ流れる電流(コレクタ電流) \(I_{C}\) は \[I_{C}=\frac{V_{CC}-V_{BE}}{R}\] となります。
このトランジスタのベースを図47-2のようにもう一つのトランジスタのベースに接続します。右側のトランジスタTr2のコレクタ電流 \(I_{C2}\) はベース-エミッタ間電圧 \(V_{BE2}\) によって決まり次式で表されます。 \[I_{C2}=I_{S2}\exp \left ( \frac{qV_{BE}}{kT} \right )\] ここで \(I_{S2}\) はTr2のコレクタ飽和電流と呼ばれる電流で、コレクタ-エミッタ間の電圧が変わってもそれ以上電流が増えなくなる電流値です。
さて今左側のトランジスタTr1のコレクタに \(I_{C1}\) の電流を流すとします。右側のトランジスタTr2は左側のトランジスタTr1と同じものであるとすると、 \[V_{BE1}=V_{BE2}\] \[I_{S1}=I_{S2}\] ですから、 \[I_{C1}=I_{C2}\] となります。
トランジスタが同じものですから \(V_{BE1}\) と \(V_{BE2}\) の温度変化も同じになり、例え温度が変動しても、また電源電圧が変動してもこの関係は成り立ちます。Tr1に流した電流がいつもTr2にも流れるので、電流が鏡に映っているような関係になることから、この回路をカレントミラー回路と呼んでいます。
このカレントミラー回路は図47-3に示すように発光ダイオードの駆動回路に応用できます(1)。この図だけをみても何か利点があるのかよくわからないと思いますが、Tr2側のトランジスタは図47-4に示すようにベースを共通に接続すると、複数接続することができます。このような回路接続によりカレントミラー回路の利点が出てきます。
トランジスタTr1に対して、複数のトランジスタTr2、Tr3、Tr4がベースを共通に接続して並べられています。この3個のトランジスタTr2~Tr4のコレクタにそれぞれ2個ずつ発光ダイオードが抵抗と直列に接続されています。基準となる電流 \(I_{C1}\) をTr1に流すだけで、その複製とも言える等しい電流が複数のトランジスタTr2~Tr4にそれぞれに流れますから、各トランジスタのコレクタに発光ダイオードを接続すれば、それぞれの電流を調整することなく各発光ダイオードは同じ電流で動作することになります(2)。
同じ特性のトランジスタをたくさん使うのは集積回路(IC)の得意とするところです。1チップにすべてのトランジスタを集積してしまえば、各トランジスタの温度も精度よく一致するので、電流は周囲温度の変化にたいして影響を受けにくくなります。図47-4に示す破線で囲んだ部分を集積回路にし、すべてのトランジスタの特性を揃えるようにすれば、集積回路の外部端子に電源と発光サイオードを接続するだけで、各発光ダイオードは周囲温度などの条件が変わっても等しい電流で動作することになります。もちろん発光ダイオード自身に特性のばらつきがありますから、同じ電流を流しても発光強度がまったく等しくなるとは限りません。
図ではトランジスタを計4個、発光ダイオードは2個ずつ計6個接続していますが、これらの個数が変えられることは言うまでもありません。
図47-3の基本回路に戻ります。この回路ではTr1とTr2は同じものということを前提に説明しました。ここでTr1とTr2の接合部分の面積が違うとどうなるかを考えます。たとえば1:2にすると、\(I_{C2}\) を \(I_{C1}\) の2倍にすることができます。これも集積回路なら簡単にできることです。このような接合面積の違うトランジスタを図47-5のTr2のエミッタのように複数の矢印で示すことがあります(2)。
以上、カレントミラー回路の基本的なことのみを説明しました。実際にはいろいろな問題点もあり、それを解決するための改良もいろいろなされていますが、ここでは省略します。またバイポーラトランジスタだけでなくMOSトランジスタでカレントミラー回路を構成することもできます。
(1)特開2003-249686号
(2)特開2003-100472号