光デバイス/発光ダイオード

46.発光ダイオードの駆動回路(その2:定電流回路)

 前項で紹介した基本的な駆動回路では抵抗器を発光ダイオードと直列に接続しています。このとき電源電圧 \(V\) と発光ダイオードを流れる電流 \(I\) の関係は、  \[V=IR+V_{f}\tag{1}\] となります。ここで \(R\) は抵抗器の抵抗値、\(V_{f}\) は発光ダイオードの順方向電圧です。

 ところでこの順方向電圧は素子によってかなり異なります。順方向電圧はpn接合におけるp型とn型の不純物の分布に影響されるので、同じ条件で製造したつもりでも素子ごとの微妙な変化は避けられません。このため同じ製品でも順方向電圧のある程度のばらつきはあるものと考える必要があります。

 その場合、(1)式右辺の \(IR\) を \(V_{f}\) より十分大きくなるようにしておいた方がよいと言えます。 \(V_{f}\) が多少変動しても \(V\) と \(I\) の関係への影響が少なくなるからです。そのためには抵抗値 \(R\) を大きくします。電流と発光強度の関係は比較的変動が少ないので、これによって素子ごとの発光強度のばらつきが抑えられます。

 しかし \(R\) を大きくすると抵抗器で消費される電力が増えます。この電力は発光に寄与しないので、無駄な電力消費となり好ましくありません。

 これを解決する手段が定電流回路です。図46-1のように抵抗器の代わりに定電流回路(定電流源ということもあります)を挿入します。定電流源を表す記号は丸に矢印が使われます。この回路では \(V_{f}\) が異なっても常に一定電流が流れます。発光ダイオードのところを抵抗器に置き換えても同じで、抵抗値が変化しても回路を流れる電流は一定に保たれます。

 電源電圧を \(V_{CC}\)、定電流源の両端の電圧を \(V_{S}\) とすると、常に \[V_{CC}=V_{f}+V_{S}\] が成り立つ必要があります。したがって \(V_{f}\) が変動した場合、その変動を打ち消すように\(V_{S}\) が変動しなければなりません。定電流源というのはそのような特性をもった回路です。

 このような特性をもった回路はトランジスタを使って実現できます。トランジスタには図46-2のような特性があります。これはトランジスタを図46-3のように接続した場合、コレクタ-ベース間の電圧 \(V_{CB}\) が変動してもコレクタを流れる電流 \(I_{C}\) はほとんど変動せず一定であることを示しています。この特性を利用すれば、定電流回路が実現できます。トランジスタの特性については別に詳しく紹介します。

 発光ダイオードを一定電流で駆動する回路としては図46-4のようなものが使われます。トランジスタのベースに流れ込む電流は小さいので、コレクタに流れ込むコレクタ電流 \(I_{C}\) とエミッタから流れ出るエミッタ電流 \(I_{E}\) はほぼ等しくなります。またベースの電位 \(V_{B}\) は電源電圧 \(V_{CC}\) を抵抗 \(R_{1}\) と \(R_{2}\) で分圧した値に固定されます。  \[V_{B}=\frac{R_{2}}{R_{1}+R_{2}}V_{CC}\]  発光ダイオードはコレクタにつながっているので、コレクタの電位 \(V_{C}\) は  \[V_{C}=V_{CC}-V_{f}\] となります。もし発光ダイオードの順方向電圧 \(V_{f}\) が変動すると \(V_{C}\) が変化し、コレクタ-ベース間の電位差 \(V_{CB}\) が変化します。しかし図46-2の特性があるので、コレクタ電流 \(I_{C}\) すなわち発光ダイオードを流れる電流は変化せず一定電流に保たれます。

 この電流はエミッタの電位 \(V_{E}\) を \(R_{3}\) で割った値になります。\(V_{E}\) はベース電位からベース-エミッタ間電位差 \(V_{BE}\) を引いた値になるので、 \[I_{C}\simeq I_{E}=\frac{V_{E}}{R_{3}}=\frac{V_{B}-V_{BE}}{R_{3}}\] となります。ここで \V_{BE}\) はダイオードの順方向電圧と同じで電流によらず一定(シリコントランジスタでは約0.6V程度)ですから、\(R_{3}\) を選ぶことで発光ダイオードに流す一定電流を設定できることになります。

 この回路はいわゆるベース接地回路です。ベース接地回路ではベースを「接地」することが重要なのではなく、ベースの電位を基準となるように固定することが重要です。ベース電位 \(V_{B}\) が一定に保つには、抵抗分割より優れた回路がいくつか知られています。\(R_{2}\) を低電圧ダイオード(ツェナーダイオード)に置き換えると確実にベース電位を一定に保てます。図46-5はその一例です(1)

 発光ダイオードLED1~nが複数直列に接続されています。図46-4の場合と違って発光ダイオードはトランジスタTrのエミッタ側に接続されていますが、流れる電流は同じなのでどちらでも構いません。ZDがツェナーダイオードでこれがベース電位を一定に保っています。抵抗分割の場合は電源電圧 \(V_{CC}\) が変動すると、ベース電位 \(V_{B}\) も変動してしまいますが、ツェナーダイオードであればそのようなことはありません。

 

(1) 特開 2010-272840号