光デバイス/発光ダイオード
45.発光ダイオードの駆動回路(その1:基本回路)
電子部品としての発光ダイオードを手にしても、それを光らせるためには外部に電気回路を用意しなければなりません。その回路にはやはり発光ダイオード特有の考え方があります。以後の項でそれを紹介します。
発光ダイオードを光らせるには順方向に所定の直流電流を流す必要があります。順方向に電流を流すためには、pn接合でできている発光ダイオードのp側の電極がプラス、n側の電極がマイナスになるように直流電源をつながなければなりません。電子部品としての発光ダイオードには2つの端子があり、どちらにプラスをつなぐのか何らかの表示があり、カタログなどに表示方法が示されているはずです。
所定の電流というのは必要な強さ(明るさ)の光を得るために必要な電流という意味ですが、もちろんその大きさには限度があって製品であれば故障しない範囲の最大電流が定められています。
駆動回路の大きな役割はこの電流を所定の大きさに調節する機能でしょう。このためのもっとも簡単な回路は直流電源(例えば電池)と抵抗器を使った図45-1のような回路です。電池の電圧を \(V\)、抵抗器の抵抗値を \(R\) とし、そのとき発光ダイオードを流れる電流を \(I\) とすると \[V=RI+V_{f}\tag{1}\] という関係が成り立ちます。ここで \(V_{f} \) は発光ダイオードの順方向電圧と呼ばれます。
発光ダイオードの順方向に外部から電圧をかけた場合でもpn接合には内蔵の電位差があります。これが順方向電圧の主要な発生原因です。このほか、発光ダイオードの電極がオーミック性でない場合にも電位差が発生し、順方向電圧の原因になります。この \(V_{f} \) は電流によらずほぼ一定です。
(1)式から \(R\) が小さくなると電流Iはどんどん大きくなることがわかります。抵抗器を繋がずに \(R=0 \) としてしまうと、式の上では電流は無限大になってしまいます。実際には電源の電池には内部抵抗という小さな抵抗があり、また発光ダイオードにも小さな抵抗成分があります。このため真に \(R=0 \) とはなりませんが、普通の場合は大きな電流が流れて発光ダイオードは壊れてしまいます。
具体的な数値例をあげてみます。\(V_{f} \) は通常 \(1V\) 以下です。\(V_{f}=0.5V \) とします。電源電圧Vは乾電池2個として \(V=3V \) とします。また \(R=1k\Omega \) とします。電流Iは(1)式を変形し、これらの数値を単位に注意して代入すると \[R=\frac{\left ( 3-0.5 \right ) \left [ V \right ]}{1000\left [ \Omega \right ]} =0.0025\left [ A \right] \] となり、\(I=2.5mA \) となります。
上の例では \(V>V_{f} \) ですが、電源電圧が小さく \(V<V_{f} \) となるとどうなるでしょうか。順方向電圧 \(V_{f} \) は電源電圧ではないので、マイナス(逆)方向に電流が流れることはありません。電流はゼロになります。
つまり(1)式には \(V>V_{f} \) のときに成り立つという暗黙の条件があります。したがって発光ダイオードを光らせるためには最低でも \(V_{f} \) より大きい電圧の電源を使わなければなりません。
ところで発光ダイオードのpn接合部分は普通大変小さいものです。このため発光ダイオード1個の発光光量はそれほど大きくはありません。白熱電球や蛍光灯などの照明器具と同等の強度を得るためには、多数の発光ダイオードを同時に光らせるようにします。街中のイルミネーションなども多くの素子を使っています。
このような場合、図45-1のような回路をたくさん用意するのは無駄が多いので、図45-2または図45-3のような回路を使います。図45-2はn個(図では5個)の発光ダイオードを直列に接続しています。5個が同じ発光ダイオードなら1個のときより5倍の強さの光が得られます。
ただし発光ダイオードがn個直列になっているので、それぞれがもつ順方向電圧 \(V_{f} \) が足し合わされることになり、(1)式は \[V=IR+nV_f \tag{2} \] と変わります。電源電圧、抵抗器の抵抗を上記の例と同じにしておくと、\(n=5 \) の場合、\(I=0.5mA \) と流れる電流が小さくなってしまいます。さらに発光ダイオードの個数が増えると電源電圧は \(nV_{f} \) より小さくなり、電流が流れなくなるという事態になります。
そこでこの場合は電源電圧を高くする必要があります。同じ \(I=2.5mA \) の電流を流すには、発光ダイオードが5個 (\(n=5 \)) の場合なら \(V=5V \)、\(n=10 \) なら \(V=7.5V \) にする必要があるのがわかると思います。もちろんこれは抵抗器の抵抗値を変えずに \(R=1k\Omega \) のままとした場合で、抵抗値を変えれば、\(V\) の値を変えることができます。
図45-3はn個(図では5個)の発光ダイオードを並列に接続しています。5個が同じ発光ダイオードでそれぞれに同じ電流Iを流せば、1個のときより5倍の強さの光が得られます。
図45-3の場合は電源と抵抗器に流れる電流はn倍の \(nI\) になります。このため発光ダイオードが1個の場合の抵抗値が \(R\) なら、この場合は \(R/n\) と小さくしなければなりません。この場合、抵抗器で消費される電力は電流がn倍になるのでn倍になります。このため、抵抗器を大型のものにする必要が出てきます。
図45-3の代わりに図45-4のようにすることもできます。各発光ダイオードにそれぞれ抵抗器をつなぐようにしています。この場合は抵抗器での消費電力は発光ダイオードが1個の場合と同じです。ただし電源から流れ出す電流はn倍となります。
電源電圧を高くする方がいいか、電流を大きくする方がいいかによって回路を選ぶことになります。一般には配線が楽な直列接続が多く使われているようです。商用電源を整流した電源を使うことを考えれば、100Vくらいまでの電圧なら得ることはそれほど難しくないことも理由の一つでしょう。ただし直列接続の場合は1個の発光ダイオードが故障して切れてしまうと全体が発光しなくなるという問題はあります。
素子数が多い場合は図45-5のようにn個を直列接続し、それをm列並列にして組み合わせた回路が使われることが多いようです。直列と並列のいいところを活かし、欠点をカバーできる回路です。