光デバイス/発光ダイオード

44.静電気破壊対策(パッケージ)

 発光ダイオードの故障原因の大きな割合を占めるのが、静電気放電であるとされています。LEDの静電気破壊対策としてはLEDの構造自体に工夫をして破壊し難くする方法とLEDを外部回路で保護する方法とがあり、構造自体の工夫についてはすでに26項で触れています。しかし方法は素子の構造に手を加えた特殊な素子を作らなければならないという難点があり、またその効果にも限界がありそうです。

 そこでより確実かつ簡単な方法として、LEDチップとは別に保護用の素子を外部回路に付け加える手段が採られます。この保護素子とはどういうものか以下に紹介します。

 図44-1(a)の青色で示した曲線は一般的な発光ダイオードの電流-電圧特性です。プラス電圧側が順方向特性を示しており、小さい電圧でも電流が流れ始めていて、この電流によって発光が起きます。一方マイナス電圧側をみると小さい電圧では電流はほとんど流れていません。これはpn接合ダイードの典型的な特性です。しかし逆方向電圧が大きくなると、急に電流が流れ始めます。これは以前にも説明したようにpn接合の降伏と呼ばれる現象です。

 図44-1(a)をみるとわかるように、この逆方向のダイオード両端にかかる電圧は降伏が起こるとほとんど一定値となります。この性質を発光ダイオードの保護に利用します。

 図44-1(b)に示すようにこの保護素子としてpn接合ダイオード(発光素子ではない)を発光ダイオードと並列に、極性が逆になるように接続します。すると万一発光ダイオードの順方向に大きな電圧がかかった場合、保護素子の逆方向に電圧がかかって降伏が起これば、ダイオード両端の電圧は降伏電圧より高くならず一定に抑えられます。この電圧を発光ダイオードが壊れない電圧に設定しておけば、大きな電圧パルスがやってきても発光ダイオードは保護されることになります。

 保護素子にはこのようにpn接合ダイオードを使えばよいのですが、一般のpn接合ダイオードは降伏電圧をできるだけ高くなるように設計されますから、保護素子用に適当な降伏電圧をもつものが選べるとは限りません。そこでよく使われるのは定電圧ダイオードと呼ばれるダイオードです。これは製品の仕様として降伏電圧が規定されていて、1V~5Vといった低い降伏電圧をもつものも入手できます。

 ツェナーダイオードというものがその典型です。ツェナー効果というのは半導体の接合に逆方向電圧がかかると価電子帯から伝導帯に電子がトンネルする現象のことで、ツェナー(Zener)というのはこの現象の発見者の名前です。英語(米語?)読みでジーナーダイオードと発音されることもあります。

 このツェナーダイオードの電流-電圧特性は図44-1(a)の赤色の線のようになっています。低いマイナス電圧V1で降伏が起きるように作られています。これを(b)のように接続すると、発光ダイオードにはそれが通常の発光動作をする順方向電圧より高い電圧がかからないようできるので、発光ダイオードを保護することができることになります。

 発光ダイオードのパッケージを取り付けた回路基板などにこの保護素子を併せて取り付ければよいのですが、パッケージの中に発光ダイオードと一緒に実装してしまえば、より便利です。図44-2はそのような表面実装型パッケージの平面図です(1)。実装基板の配線金属上にLEDチップとツェナーダイオードをともにダイボンドし、ワイヤで図44-1(b)のように結線します。なおこの例はLEDチップが横型、ツェナーダイオードは対向する面に電極がある場合を示していますが、素子の電極構造はこれと違っていても結線は可能です。

 図44-2のように発光ダイオードの横に保護素子を配置すると、そのためのスペースが必要となってパッケージが大きくなりがちです。これを避けるために図44-3のように保護素子の上に発光ダイオードを載せてしまうことも考えられています(2)。ツェナーダイオードはシリコンで作られることが多いので、これをシリコンのサブマウントに組み込んだと考えれば、発光ダイオードにとっては放熱特性もよく好都合です。

(1)特開平11-54804号
(2)特開平11-214747号