光デバイス/発光ダイオード
43.放熱と冷却
発光ダイオードの接合温度を上昇させないために、まずはパッケージから外部へ熱がよく逃げるようにする必要があります。チップから外界に至る熱伝導経路を定量的に考えるために「熱抵抗」という考え方があります。これについては別途取り上げることにします。
熱を逃がすためによく採られる手段は熱伝導率の高い金属の基板やリードフレームの上にチップをダイボンドすることです。図43-1は金属製の基板上にLEDチップをダイボンドした例です。金属基板は導電性ですから、この上に直接正負の電極を着けると短絡してしまいます。そこで熱の伝わりの点では不利ですが、薄い絶縁膜を基板表面に設け、その上に配線金属を設けます。チップで発生した熱は金属基板へ伝わり、さらに図示はしていませんが、この金属基板が取り付けられている実装基板などへ伝わって逃げます。またこの金属基板をパッケージの外側に露出させておくと、外界への放射によって熱の放散が促進されます。
図43-2は熱をよく逃がすためのパッケージ構造の別の例です。図は断面図ですが、リード(フレーム)を樹脂などで作る反射枠の内部に埋め込んで固定しています。ただしLEDチップをダイボンドする部分の裏側は反射枠(樹脂)から露出するようにしています。
使用時にはこのパッケージを同図のように実装基板にはんだなどで接合します。パッケージの両側の端子部はLEDに電流を流すためのものですが、パッケ-ジの中央部のLEDチップ搭載位置の裏側の露出部は電気的に接続する必要がなく、このためこの露出部は実装基板の電気的には接続されていない金属上に接合されます。まさに熱を逃がすための役割だけを担っています。もちろん電気的接続端子と放熱のための端子は兼ねても構いません。
この方法をさらに進めてヒートシンクをパッケージに一体にした図43-3のような例があります(1)。LEDチップは金属ブロックに下降された凹部内に取り付けられています。その裏面には放熱フィンが付いたヒートシンクは取り付けられています。LEDチップ上の電極(図
示省略)は金属ブロック表面の導電膜に接続されています。金属ブロックも導電性のため、導電膜の下には図では省略されていますが、絶縁膜が設けなければなりません。
複数の発光素子を狭い範囲に実装する場合などは発熱が多く、上記の例のような熱の自然放散(放熱)では十分でないこともあり、そのような場合は強制的な冷却を行うことになります。ただし強制的な冷却を行うにはどうしても大型化が避けられません。また強制冷却を行うためにはエネルギー(通常は電気的パワー)を供給する必要があります。それでもなお冷却を必要とするのは、むしろ特殊なケースと言えるでしょう。
一般的な冷却手段には流体を循環させるという手段があります。発光ダイオードの場合はパッケージ内に低温の気体や液体を循環させます。図34-4は液体冷却系を備えたパッケージの例です(2)。LEDチップは実装基板上に固定され、容器内に置かれています
。容器上面は光を透過する透明板で密閉されています。
容器内は冷却液で満たされています。冷却液は透明で絶縁性でなければならず、例としてはフッ素系やシリコン系のオイルが挙げられています。
この冷却液はパイプを通って循環ポンプによって循環させられています。循環路には熱交換器とファンが設けられ、LEDチップの発熱を受けて温度が上昇した冷却液を再度冷やすようになっています。
半導体レーザのパッケージなどでよく使われているのが、熱電効果(ペルチェ効果)を利用した熱電冷却素子(ペルチェ素子と呼ぶこともあります)を用いた冷却です。もちろんこれを発光ダイオードパッケージに適用することは可能です。冷却だけでなく加熱もできるので、流体による冷却などに比べると迅速で細かい温度制御ができる特徴があります。
図43-5はこの熱電冷却素子を使用した例です。LEDチップは実装基板に搭載されていますが、実装基板上に温度センサが取り付けられていて、実装基板の温度を測定しています。この温度情報が制御装置(コンピュータ)に送られ、熱電冷却素子を制御します。もちろん図43-4に示したような冷却システムも温度情報をもとに制御されるのがむしろ普通でしょう(3)。
(1)特開2008-523639号
(2)特開2006-319103号
(3)特表2007-537490号