光デバイス/発光ダイオード
42.光学要素(その2、光路変換素子)
前回のコリメータの中にも反射面を使って光路を折り曲げている例がありましたが、今回取り上げるのは、このような光路を折り曲げる光学素子です。これを光路変換素子と呼ぶのが一般的かどうかはわかりません。偏向素子という言い方もあるかと思います。
LEDチップを実装基板に取り付けると光はこの実装基板表面に垂直な方向を中心に出射されます。しかし後で述べますが、基板表面に平行な方向の光を使いたい場合もあります。このような場合に光学素子を使ってLEDから出射した光をおよそ直角に曲げることが考えられます。
もっとも簡単には図42-1に示すように実装基板に固定したLEDチップの上方に円筒状の透明光学素子を取り付けます。図は断面図ですが、円筒の上面には中心部が凹んだじょうごのような形の凹部が設けられています。発光ダイオードを出射し上方に向かう光はこの光学素子の上部の面で全反射されて方向を変え、横方向に向かって出射します。ただし一部LEDチップの直上に向かう光は全反射されずに透過します。また円筒の側面で反射された光は図のように望ましくない他の方向に進んでしまいます。
そこで多くの光が横方向に揃うように改良した例が図42-2のような複雑な形の光学素子です(1)。この素子の上面は図42-1と同様にじょうご形になっていますが、曲面になっていてLEDからの光が全反射され、横方向に向きを揃えるように改善されています。さらに、側面にはのこぎり状の凹凸が設けられ、低い角度の光は屈折によって横方向へ向かうように工夫されています。
図42-3の例(2)も同様です。この例のLEDはリードフレームに接続され樹脂で封止された砲弾型パッケージを利用し、その上部に光を横方向に反射する光路変換素子をはめ込むようになっています。素子は縦方向には薄く横方向へは長い形になっているので、LEDチップから出射する光の多くを横方向へ導くことができます。図は断面図ですが上からみるとこの素子も円形で、水平方向には均一な強度の光が得られます。
このように出射光を横方向に向ける目的は何でしょうか。LEDパッケージを取り付けた実装基板に平行な方向に光を向かわせたい用途があります。図42-4に示すように、光源から出射した光を透明な平板の端から導入すると、この樹脂やガラス製の透明な平板は周囲の空気より屈折率が高いので、光は上下の面で全反射され、中に閉じ込められます((b)の断面図参照)。
この平板の下側の面を上側の面より反射率が高くなるようにしておくと、閉じ込められた光の一部は下側の面で反射され、矢印のように平板表面から上方に出ることができます。
この透明な平板は導光体とか導光板と言われ、光を閉じ込めて伝える(導波する、といいます)機能をもっています。下の面の光の反射率を光源から遠くなるほど高くするように調節しておくと、光を上の面から一様な強さで出射させることができるので、この平板は面状の光源となります。この上に液晶セルを重ねるとこの面光源は液晶表示装置のバックライトとして応用ができます。
例えば携帯電話などの小型装置では、表示装置の厚さが薄いことが必要です。LEDを端面に取り付けることができる導光板をバックライトとして使えば、蛍光灯などを用いた従来の装置より液晶表示装置全体の厚さを格段に薄くできます。パッケージを取り付ける基板は導光板と平行な方向である方が便利ですから、出射光を基板に沿って出射する必要が出てきます。そこで上記のような光路変換素子が必要になります。
ただし別の考え方もできます。LEDチップを実装基板と垂直にしてしまえば、光路変換素子はなくても光は基板に沿った方向に出せます。図42-5はそのようなパッケージの例(3)です。このパッケージはリードフレームを用いていますが、チップはパッケージ内のリードフレームのダイパッド部の表面にダイボンドされます。この構造は普通のタイプと変わりません。基板上方に光を出す普通のパッケージと異なるのは、パッケージ本体から外に出たリードの端子部が、実装基板に取り付けたとき、パッケージ内のLEDチップが、(b)の側面図からわかるように実装基板と垂直になるように曲げられている点です。このようなパッケージをサイドビュー型(これに対して普通のタイプをトップビュー型)と呼ぶことがあります。
このタイプのパッケージは本体部分にある程度の厚みが必要となるので、この厚さ(高さ)をできるだけ薄くする必要があります。しかし光路変換素子のように特殊な光学素子の設計は不要ですし、光の反射による減衰もないので、便利かもしれません。
(1) 特開2003-8081号
(2) 特開2009-27199号
(3) 特開2005-252168号