光デバイス/発光ダイオード
39.チップの封止技術(材料)
発光ダイオードをパッケージに収める手順はいろいろありますが、もっとも普通にはまず半導体チップを固定するダイボンドを行い、つぎにチップに給電するための電気配線をワイヤボンドなどによって行います。そのつぎに何をするかというとチップの封止です。
発光ダイオードのチップは電気配線さえすれば空気中で動作しないわけではありません。しかし普通の室内などで剥き出しにしていると、表面に埃が落ちたり、最悪の場合、水滴が落ちたりして電極間がショートする恐れがあります。また人の指やピンセットなどでワイヤを切ってしまう恐れもあります。
以上のようなことが無くても、半導体表面が空気中の酸素や水蒸気に長く曝されていると、半導体表面が徐々に酸化され変化することもあります。したがって最低限チップを守るためにはチップに保護キャップを被せ、中に窒素などの不活性ガスを詰めておけばよいと言えます。
ただ発光ダイオードからは光を取り出す必要があり、キャップには透明な光取り出し孔(透明な窓)が少なくとも必要です。このような透明窓付きキャップは決して安価ではないので、半導体レーザには使われていますが、発光ダイオードではほとんど使われなくなっています。
そこでもっとも普通に使われているのは液状の透明材料を配線を済ませたチップ上に流して覆い、これを固めてしまう封止方法です。まず使われている透明材料にはどんなものがあるかを紹介します。
1.樹脂
もっとも普通に使われているのは透明な樹脂です。なかでも熱硬化性樹脂という種類がよく使われます。これは室温で液体の原材料を加熱して固めることができるため、チップの封止には便利です。
(1)エポキシ樹脂
なかでも初期からよく使われてきたのがエポキシ樹脂です。この樹脂は接着剤としてもよく使われ、また標本など壊れやすいものを透明材料中に閉じ込めて保存するような場合にも使われてきました。ですから発光ダイオードに限らず、半導体チップの封止には適した材料と言えます。
エポキシ樹脂とは
のような三角形のエポキシ基をもつ樹脂です。このような三角形を三員環と呼んでいます。この基以外の部分の構造は多くの種類があります。代表的なエポキシ樹脂は
のような化学式で書かれますが(1)、両端にエポキシ基が付いています。フェノールはベンゼン環に水酸(OH)基が1個結合したもので、これが2つ結合したものがビスフェノールです。このビスフェノールを骨格にもつので、上式はビスフェノール型のエポキシ樹脂と呼ばれます。
室温で液体であるような分子を使い、これに硬化剤とか架橋剤と呼ばれる物質を混ぜて加熱すると、いわゆる架橋反応が進んで、分子間に結合ができ固体に変化します。
(2)シリコーン樹脂
エポキシ樹脂は封止樹脂として優れていますが、難点もあります。青色からさらに短い波長の発光ダイオードをエポキシ樹脂で封止した場合、樹脂が光によって次第に黄色に着色するという光劣化現象があります。
このような劣化が起きにくい樹脂として、シリコーン樹脂が次第に使われるようになってきました。シリコーン樹脂は例えば
のような構造のシリコン(ケイ素、Si)を含むオルガノポリシロキサンを含む樹脂ですが(2)、これにも多くの種類があります。
シリコーン樹脂はシリコーンゴムと称するように一般に弾性をもち柔らかい性質をもっています。ワイヤなどに損傷を与えにくい点ではよいのですが、エポキシ樹脂に比べると接着性に劣り剥がれやすいという欠点があります。このためエポキシ基を導入したものなど種々の改良品があります。
2.無機材料
樹脂以外に無機材料で封止する場合もあります。透明な無機物の代表はガラスです。ガラスは樹脂に比べると耐熱性に優れ、水蒸気などの遮断性にも優れています。また紫外線などによる変色も少ないとされています。ただ通常のガラスは融点が高いので、チップの上に流し込むときに非常に高温にしなければならず、それだけで半導体チップが破壊される恐れがあります。低温でガラスを作る方法は半導体の封止技術以前に古くから研究されてきました。
(1)ゾルゲル法
低温でガラスを合成する方法の一つはゾルゲル法と呼ばれる化学反応による方法です。例えばテトラエトキシシラン(TEOS)と呼ばれる化学式Si(OC2H5)4で表されるシリコンの有機化合物の水溶液(ゾル)を原料にします。これを加熱すると加水分解反応が進んで、最終的にSi(OH)4とエチルアルコール(C2H5OH)が得られます。アルコールを取り除くと残る物質Si(OH)4はゼリー状のゲルとなります。このことからこの方法はゾルゲル法の名前で呼ばれています。さらに加熱すると最終的にはガラス状のSiO2が得られます。すべての加熱工程は200℃以下でもよく、樹脂と同等の低温で封止ができます。
しかし一般にゾルゲル法で作られるガラスにはいろいろ問題があります。多孔質になりやすく緻密さに欠けることが多いので、封止材料としては信頼性が十分でない場合があります。また厚みがある場合には加熱、冷却過程でクラックが発生しやすいという問題もあります。
さらに加水分解反応で複雑な有機物が生成され、加熱処理で完全に除去されず残留して有機無機複合体が形成される場合があります。完全な無機物にするには結局のところ1000℃近い高温の熱処理が必要なようです。有機物が残留していても酸素や水蒸気を通さず透明性が優れていれば新しい材料として魅力があると思われますが、今のところ確立した技術にはなっていないようです(3),(4)。
(2)低融点ガラス
もう一つのアプローチは通常のガラスより低温で融解する無機ガラスの探求です。ガラスの主成分を変えることで融点を400℃程度まで下げることは可能になっているようです。
低融点ガラスとしてはリンを多く含むリン酸ガラスが知られていますが、これ以外にもいろいろな成分のガラスが開発されています(5)。
発光ダイオードに適用した例では、600℃で加熱し圧力をかけるホットプレス法が用いられています(6)。半導体チップにはかなり過酷な条件と思われます。さすがにワイヤボンディングは無理なようで、フリップチップボンドが使われています。
(1)特開2000-351888号
(2)特開2007-103494号
(3)特開平11-204838号
(4)特開2002-203989号
(5)特開2005-011933号
(6)特開2006-066868号